映画「オール・ザット・ジャズ」と市場が織り込み始めた意外な近未来

 BSで久しぶりに見たらなんと3回も!繰り返して観た理由は、圧倒的なダンスシーン、それにロイ・シャイダーの主役がなんとも凄かったからだ。もうひとつ、監督のボブ・フォッシーが自分の死期が近いのを悟った上の作品なので、自らの死をドラマ化した。84歳の私としては、これが身近に感じられたからだ。

 舞台はブロードウエイ。ミュージカルを準備中の舞台監督ジョー・ギデオン(ロイ・シャイダー)は酒と女とヘビースモーキング、それに振り付けで超繁忙の毎日。過労のため狭心症の発作を起こし、生死の境をさまよう。無意識の中で、ジョーは自分の人生を回顧する。目前に美しい天使(同時に死の象徴)が現れる。この役のジェシカ・ラングがまことに美しい。私は最高のミュージカル映画と評価している。1980年の古い作品だが、カンヌ映画祭金獅子賞、アカデミー賞7部門獲得の傑作だ。

 面白かったのは、ジョーが編集を担当しているトークショーの映画である。キューブラー・ロスの死への受容。5段階を述べるところだ。死の宣告に対し、まず怒り、次に拒否、そして譲歩、さらに絶望、最後に受容となる。ご本人はこのコース通りになかなかゆかないのだが。

 相場もこの通りに、或る順序を重ねるものだが、これはルールとは言わぬまでも経験則と言っていい。株式の場合「ウワサで買って、現実化したら売る」とか、その逆もある。いまの状況に合致しているので、古い映画だし大ヒットした作品ではないが今回取り上げた。実は「記憶にございません!」と「人間失格・太宰治と三人の女たち」の2本を観て書くつもりだったが、時間が全くないので、来週以降に。

 まず市場の動きから。NYダウは新値に近いが主要銀行株は8月15日に安値を付けてから急速に上昇。ダウの上昇ペースの倍以上。

 第二は10年物国債の利回りは13日には1・89%と、9月3日の1・42%から急上昇し、2年物国債との逆イールドも解消し、利回り格差は0・47%に拡大。利ザヤ改善への期待で、前述の米銀株の急上昇につながった。

 日本の方も同じ。10年もの債利回りは8月のマイナス0・24%からマイナス0・16%にマイナス幅は縮小。つれて銀行株も上昇している。例えば三井住友フィナンシャルホールディングス(8316)は8月26日の3380円から3800円近くまで、三菱UFJフィナンシャルグループ(8306)はやはり26日の490円から、580円台まで上昇。キズが付いたはずのスルガ銀行(8358)は8月13日の353円から453円になっている。問題を起こしているゆうちょ銀行(7182)さえ8月26日の947円から1080円まで。永々と述べたが、日米ともに、ざっと1割上昇したことを示したかっただけである。

 私が注目し、ご意見をきわめて多く採用している三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフテクニカルアナリストの宮田直彦さんが「8月26日転機説」を述べている。

 宮田さんは同日の日経が一面トップで「円上昇、一時104円台」という大きな見出しを付けたことに注目している。私も同感だ。

 この日の対ドル円レートは104・46円をつけ、2016年11月以来の円高ドル安となった。チャート上はフシ目を抜いて一気呵成の円高ドル安になってもおかしくなかったが、現実には9月13日には108・10円までの円安。

 宮田さんは最近もう一つ注目される視点を提供している。「中国株はもろもろの悪材料を織り込んだ可能性」である。8月を通じて米中対立は駆け引きはあるものの、依然として深刻度は深まっている。それでも8月6日を底値として中国株は上昇している。

 「強気トレンドを中国株がたどり、米国株は一段と上昇、日本のマーケットも株高 円安の展開になる可能性が高い」と宮田さんは結論付けた。この人はSOX指数、つまり半導体株に昨年末から強気をほとんど一人で主張して当たった「当たり屋」だ。弱気が多数派のテクニカルアナリストの中で、極めて少数というか唯一の強気の持ち主だ。ここは当たり屋さんにつくことにしたい。

私はかつて米国の著名ストラテジストと対談し、金利と株価の関係について、こう述べた。「理屈上は金利の上昇は株価の売り材料だが、低金利からの上昇は買いだ。」大賛成を受けた。今や時代は変わっているのではないか。

 もう一つ。私が注目している大材料がある。11,12日の両日米ムニューシン財務長官が50年もの、100年もの米国債について「真剣に発行を検討する」という発言だ。これで日本の方も、建設国債がぐんと発行しやすい環境になった。私がこのコラムで注目していた財務相の交代がなくても、大いに財政出動の希望を持たせる状況になっている。

 映画のタイトルの「オール・ザット・ジャズ」はボブ・フォッシーが脚本・振り付けを担当したミュージカル「シカゴ」の同名の曲からとったもの。ここで言う「ジャズ」は音楽ではなく俗語で「似たようなもの、ざれごと、活気」という意味で、全体としては「あれもこれも、何でもあり」という意味です。おわかり?

関連記事

今井澈のシネマノミクス

映画「エブエブ」とジョージ・ソロスの「ウクライナ2」そして中国の大苦境。「3月のドカ後の作戦」(第1165回)

今年度のアカデミー賞に「エブエブ」が作品賞、監督賞、主演女優賞など7冠の圧勝。「エブエブ」とは「エ

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

アレクサンドル・デユマ「モンテ・クリスト伯」とまだまだ続く日米株価の新値更新、そして五つの落とし穴(第1051回) 

 このブログで「世界の十大小説」を取り上げたが、古い友人から第十一位は ?と聞かれた。

記事を読む

no image

2015年を読む③
大井リポート
薄氷の相場、浮上した分リスク膨らむ

セイル社代表 大井 幸子 日銀の超緩和策のおかげで「けっこう危うい先まで銀行の融資が伸びている、そ

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

「レ・ミゼラブル」と私が今週を投資の大チャンスと見ている理由(第1069回)

この素晴らしい傑作をまだ見ていない方へは、ともかく一回観て 感動を共にしなさいと助言します。

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

織田信長「桶狭間の戦い」と今回の3万円越えが通過点である理由。そして目標値(第1053回)

 1560年6月12日のこの戦いは、小人数で十倍の大軍を破り、大将の今川義元の首をとった。戦史に残

記事を読む

PAGE TOP ↑