映画「ジェミニマン」と助走開始したFRBのQE4の威力(第986回)

ある高名な映画評論家が「映画史の残るエポックメイキング的」と評したので、実は上映開始の時に観た。なるほど面白い作品で、一見に値する。かつてない映像体験ができる。

 狙撃者ヘンリー(ウイル・スミス)は、走る列車内の標的を一撃で仕留める豪腕。ただ55歳になり、そろそろ引退を考え始めた折も折、刺客がヘンリーを襲う。

 この刺客は何と23歳のヘンリーのクローンだった。要するにウィル・スミスの二役によるアクションが売りの作品である。バイクチェイスがまず凄い。単なるスピード対決ではなく、バイクの前輪を上げて銃弾の盾にしたり、ともかく観せる、楽しませる。

 最後は、ヘンリーは息子としてのクローンを認めるのだが、その契機としてハチの汚毒で苦しむ息子を助けてやるシーンがある。しかし、それ以前の戦うシーンが皆すごい。

 この作品を観ていて、ヘンリーが思いがけず息子を得たように、私の投資シナリオの訂正が必要になっている、と感じた。

 私の近著「2020の危機、勝つ株、負ける株」(フォレスト出版 11月10日初版発行)で、私は次のようなシナリオを述べた。明らかに違う展開をっしている現実だが、反省を込めて再掲する。

 「この本を手に取る22019年10月末ごろに株式市場は大きな異変(つまりドカン)がやってきます」。

 過ちを正すに、はばかることなかれ、であるが、その前に、現実をまとめておきたい。列挙しよう。

  1. NYダウなど主要三指標は、歴史的高値を更新。
  2. つれて日経平均も2万3000ポイントを突破し、戻り高値を更新。

注目すべきポイントは、日米ともに株高と並行して長期金利が上昇していることだ。10年物国債金利でいうとー

 11月1日の日本の長期金利はマイナス0・185%、これが8日にはマイナス0・65%。一方米国は1・71%から、1・952%。

 つまろ、日本は金利マイナス幅の大幅縮小、米国はプラスの金利上昇という差はあるが、「債券売り株式買い」を開始している機関投資家がかなり存在し始めた。

 材料は、ある。まず日本の方は近く発表される経済対策で、大幅な補正予算が組まれる期待だ。その政策内に私が繰り返し主張している「超長期債」の大量発行が含まれることを期待している。

 一方米国ではジワジワと上昇しているインフレ率が恐らく主因ではないか。一方、FRBの政策金利の下げ幅の余地の少なさがそろそろ意識されてきても、おかしくない。

 勿論、レポ金利に伴う実質的QE4が進展していること、また米中両国の関税戦争が、多少歩み寄りを見せていることも支援材料である。

 特にFRBが推進している「QE4」(当局は「準備金管理」と呼んでいる。)の威力は軽視すべきであるまい。

 三菱UFJ証券のシニアテクニカルアナリストの宮田直彦さんによると、QE1,2,3、それぞれの上昇相場は次の通りで、三割以上も高騰している。

「QE1」。2009年3月 6469ドル→2010年4月 1万125ドル 74%上昇

「QE2」。2010年11月1万929ドル→2011年5月 1万2876ドル 18%上昇

「QE3」。2012年11月 1万2471ドル→2014年11月 1万7350ドル 39%上昇

ただし、悪材料もないではない。

エリザベス・ウォーレン候補の人気上昇が起こり、そこにトランプ大統領のウクライナゲートに重なれば、株安材料になる。

企業収益の減少もある。

ゴールドマン・サクスのレポートによると民主党が法人税18%から26%に戻すと、2021年の予想利益を11%を11%引きあがると予想。

同じく日本も上場企業は2020年3月期予想は、せいぞうぎょうが12%減益、非製造業も1%減益。合わせて4%減益予想だ。

こうした環境を考えると、やはり現在の新高値更新(日本は戻り高値)は、相当程度限界がある、と、結論付けられよう。

時期が問題だが、NYはトランプ弾劾の動向からみて、クリスマス近辺まで考えると、やはり12月中にはドカンがあるだろう。

日本は12月中にとりまとめられる政府の経済対策(1月の補正予算と15か月予算案の内容に注目が集まり、その内容次第。ただし公表された金額が5兆円と少なく、外国人投資家の失望売りの可能性も無視できない。

映画のセリフから。ヘンリーがいう。「オレの動きをアイツはすべて予知している。アイツは何者なんだ?」材料と経験則から、相場の動きは相当程度予知できる。

今回の私の失敗については、私を永年知っているベテランが「イマイ先生、あなたの成功率は8割はあるよ。がっかりしないで」と励ましてくれた。ありがとう!

結論。どかんが来たら、そこは買い場。 私はいぜん強気です。

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