カミユ「ペスト」とFRB頼りのNYダウの最高値更新と日本(第999回)

フランスのノーベル賞作家アルベール・カミユの代表作で「異邦人」と並ぶ。フランツ・カフカの「変身」とともに代表的な不条理文学として位置づけられている名作だ。

 物語はフランスの植民地であるアルジェリアのオラン市。医師のリウーが死んだネズミに階段でつまづいた時から始まる。やがて死者が出始め、ペストと分かる。新聞やラジオが報じ、町はパニックに。当初楽観的だった市当局も慌て始め、やがて市は外部と完全に遮断される。(まるで武漢ですな)

 脱出不可能の状況で、あるものは密輸業者に頼んでパリに行く計画を持ち、ある神父は人々の罪のせいなので悔い改めよと説教。リウーは必死に患者の治療に努める。登場人物それぞれが様々な行動を行うが、ペストという生存を脅かす不条理に対し最後は全員で助け合いながら立ち向かう。

 現在の日本はパニックの初期だろう。最初の死亡者が発生、朝から晩までTVが手の洗い方とか、やれマスクは1回ごとに更新しろとか。

 中国の方が大変だ。湖北省張湾区では「戦時統制命令」が発令。中国史上初めて、だそうな。また広州市と深圳市では個人資産強制収容の緊急立法があった。また武漢の病院の方もベッドが並んでいるだけ。あれでは入院即死亡宣告だろう。

 当然、中国の成長率は急速にダウン。1~3月は前年同期比マイナス。どのくらいコロナウィルス肺炎の影響があるか、にかかる。

 米国の疫病予防管理センター(CDC)の専門家の予測では①感染速度は低下するが、ピークは4月上旬②ワクチン大量配布で感染者減少開始は5月中旬以降)。とすると、どう見ても中国経済の減速は4~6月期まで継続する。と前年同期比はマイナス。実質成長率は2020年前半4%かそれ以下。

(余談だが、この状況なら習近平主席の来日は延期するべきだ)。

 日本の方も容易でない。観光産業の規模は今や自動車を抜いて第一位。もともとIMFの予想によると2020年は0・5%成長の国なのだから、恐らくマイナス成長に転落するだろう。東京五輪の方も、欧米からの来日観光客が来ない可能性だって、ないとは言い切れない。その場合の打撃は、考えるだけでも恐ろしい。

 にもかかわらず、2020年12月の投資家信頼指数は国により明暗二層。米国(前月比プラス4・4%)、ラテンアメリカ(プラス2・6),東欧(プラス0・1)。

一方日本のマイナス0・4、ユーロ圏マイナマイナス2・4。アジア(除く日本)はマイナス11・3。つれてグローバル総合ではマイナス4・0、要するに世界は不況、しかし米国はいいのだ。

 こう見てくると、FRBの実質的な量的金融緩和(QE4)が、NYダウの歴史的高値更新を支えていることがわかる。勿論実体経済ではシェールガス革命の成果で、エネルギー輸出国に転じたことが大きいのだが。それにトランプ減税。

 これも余談だが、今の日本の株価を支えている円安ドル高は、実は常識外れの理由によっていることも指摘しておこう。それは、円ドルレートは今や米国の株高の恩恵を被っているという事実である。

 10年物国債の日米金利差は現在昨年8月以来の小幅なもので、1・6%。本来なら円高だが、現実には対ドル109円台。昨年8月の102円台と大違いだ。

 三菱UFJモルガンスタンレー証券の宮田直彦さんによると「過去7か月間、S&Pと円レートの相関係数は0・82」。米国株高ならリスクオンでドル高、円安という説明だ。なるほど。

 ではNY株の方はどうか。ホワイトハウスの幹部のピーター・ナバロ氏によると「NYダウは、3万2000ドル」。これにトランプ大統領も賛意をした、とか。ほんとかなあ。

 疑い深い向きはパウエルFRB議長が「7月から貨幣供給量の増加ベースを落とす」と議会証言したことを心配するかもしれない。

 しかし心配は不要だろう。すぐにカプラン・ダラス連銀総裁を通じてマスコミには「今後1,2か月の展開次第では本格的なQEも」と言わせている。

 中国も必死だから金融緩和、ECBもやる。また米国はインフラ投資1兆ドル。恐らくサウジでG20が2月22,23両日開催されるが、そこでも世界不況回避のための金融緩和と可能な国の財政出動が結論になるに違いない。要するに何でもあり、の世界である。

 日本ではどうか。岸田政調会長のポスト安倍政策の目玉になっている「国土強靭化庁」の新設と、恐らく建設国債の大量発行で、景気見通しのテコ入れが行われるに違いない。日本株?6月まではずうっと上昇。(理由は来週に)

 私が前から好きだったカミユの名言を次に。

 「すべては使い果たされたのか?よろしい。これからは生き始めよう」。

 「希望とは一般に信じられていることとは反対で、あきらめにも等しいものである。そして生きることは、あきらめないことである」。

 なんだか、肩が凝りましたか?では、「ペスト」の中から。

 「この年になると、いやでも本当のことを言っちまいますよ。嘘をつくなんて、とても面倒くさくて」。

関連記事

今井澈のシネマノミクス

映画「アバターシェイクオブウオーター」とウクライナ2-22・1.1(第1152回)

新年あけましておめでとうございます。 前作「アバター」は13年前。「タイタニック」の

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「ライムライト」と底値をつけつつある株式市場

  ご存じチャップリンの名作。63歳のときの監督、主演だ。人情噺と自分のコメディのシ

記事を読む

壮大過ぎるカルダノADAに2つの疑問点
実録・投資セミナー 仮想通貨編【下の㊦】

ジャイコミ編集部 投資セミナーに行けば、販売会社がどんな投資商品を売りたがっているのか、どのような

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

【初・中級者向き】映画「カメラを止めるな!」と海航集団ビル売却命令と関税戦争

2018・8・12 この「カメラを止めるな!」の」の大成功は後世の語り草になるに違いない。何し

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「春に散る」と明年の米国大統領選挙での勝利者は誰か。NY株式の見通しと合わせて

映画「春に散る」と明年の米国大統領選挙での勝利者は誰か。NY株式の見通しと合わせて 2023

記事を読む

PAGE TOP ↑