木村喜由のマーケット通信
緩和マネーの逆流が始まった
これまでの株高は債券市場から逃げたお金の玉突き現象
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
前回、債券相場の下落を伝えたが、そのきっかけとなったのは、著名債券投資家ビル・グロース氏の後を次いで債券王というあだ名を持つことになったダブルライン・キャピタルのガントラックCEOが、超低金利となった独国債の空売りを強烈に推奨したことだった。特にー0.2%のマイナス金利になっていた2年物国債については「先物で100倍のレバレッジを掛ければ無リスクで年率20%のリターンになる」と主張、もちろん、より長期の年限も超割高で空前絶後の空売りのチャンスと発言した。これにビル・グロ-ス氏も同調、流れは一斉に世界中の優良債券売りに傾いた。
トレンドを作る2つの「異例」なマネー
現在、世界のマーケットでは大きな二つの「異例」の資金の流れがトレンドを作っている。
一つは量的金融緩和による超低金利で潤沢なコストの資金が市場に流入したことを背景に、各種のキャリートレード(一方で借りた資金を他方で運用し利ザヤを抜く)が行われていることで、その最も過激かつハイリターンのものはユーロや円などの緩和通貨を空売りしてその国の株式先物を買うというポジションである。12月以降の急速なユーロ安欧州株高の原動力はこれである。
ディフェンシブ銘柄人気のワケ
もう一つが、あまりに金利が低くなったために、どんどん満期償還資金が来るのに再投資できなくなった債券投資家が、代替投資先として業績変動率の低い株式を集中的に買ったことが挙げられる。株と債券は本来別物だが、とにかく債券よりはましなリターンのポジションを低リスクで作れということになり、クオンツアナリストが「最少分散投資」という名前の妙な手法を考案した。
この結果、2年前頃から業績面で魅力があるとは思えない食品・薬品などのディフェンシブ銘柄が相場を先導する動きが米国で顕著になり、昨年後半から日本でも米国以上に激烈なディフェンシブ銘柄の集中物色が強まった。これが加速したのは、資金の動向を察知したヘッジファンドがロング・ショート・ポジション(ある銘柄を買い同金額分、他の銘柄を空売りして総リスクをゼロにする手法)を組んだためである。
しかし欧州でデフレ懸念が後退し、ギリシャ不安の他国への波及がなさそうということがコンセンサスになると、持っていてもリターンのない債券を抱える意味がなくなった。いやむしろ先行きの金利上昇まで考えると危険な物件となった。それでポジションが一気に解消の方向に向かったのである。
独10年債利回りは24日0.155%だったが5月7日にはパニック的に売りが殺到して一時0.799%まで急騰、その後は反動が出て0.581%まで急低下した。この動きが他の主要債券に影響しないはずがなく、日米長期金利も大きく水準を切り上げた。日本の株式先物が連休中に急落・反発する場面があったのはその煽りを受けたものである。
次のサイクル底値は5月中旬~6月20日
中期サイクルの姿を再確認したい。
振り返ると10月17日に始まった中期サイクルは、1月16日安値までの13週間で終了し、新サイクルは4月23日の高値まで、かなり強力な上昇トレンドを描いて高値を付けている。上昇日柄は14週に及び、比較的珍しい長期の上げトレンドだった。これより延長する強気トレンドもたまにはあるが、外部環境などを勘案すると、ほぼこれで中期サイクルの天井が確認されたと見るべきであり、次は中期サイクルの底値がいつどの辺で確認できるかを推定することが重要になる。
ざっくり言えば、それは5月下旬から6月20日前後までに訪れるはずであり、外部環境によほどの激変がないならば、TOPIXで1520前後、日経225では18500円前後でサポートされる公算が強いと判断する。仮に下振れしても5%程度のオーバーシュートでは止まるだろうから、できればそこで突っ込み買いを入れるだけの資金準備をしておくのがよい。
日経平均の下振れ余地大
チャート的には値がさ株の急騰で引っ張った日経平均225は下振れ余地が大きい。寄与度の高い個別銘柄のいくつかが崩れただけで、簡単にNT倍率が下がるほどの下落につながる。一方、時価総額ベースのTOPIXは日銀のETFおよびGPIFその他年金のTOPIX連動を中心とする買い需要に支えられるため、3月4月の安値のどちらかでは止まるだろう。発表段階では控えめな業績予想だが、達成の見込みが強まるほどその後の上方修正を当て込んだ買い物が入ってくる。このほか自社株買いも断続的に入ってくるだろう。
もちろん、そこまで下がらずに2か月程度横ばいとなる、日柄調整パターンになることもありうるが、直近までの上げが需給で引っ張られたものであること、それを支えた条件に変化がみられることを勘案すると、その可能性は高くないと思う。買い急がず、バリュエーションが魅力的なものの下がったところを拾うスタンスでよい。
物足りない決算、値嵩株に割高感残る
本日までに日経225採用銘柄のうち113社、時価総額で55%が発表を終えた。正直なところ、筆者の想定をかなり下回る着地になっている銘柄が多い。今期予想も、華々しいのは数えるほどで、これらは株価には十分織り込み済みであり、今から追うには高すぎる印象。大半は横ばいか小幅減益で、控えめな今期予想と受け止めているが、発射台がやや低めなのを考えると物足りない。予想PERは時価総額ベース15.6倍、インデックスベース19.1倍ほど。全体としては問題ないが値がさ株の割高感はまだ強い。
欧州市場の乱気流はまだ収束していないと見られるので、もしリスクオフ的な動きが広がるようだと、もう2回か3回ぐらい、不意を突いた先物の急落があるかもしれない。しかしそれはむしろ買い場と心得たい。
Vol1294(2015年5月8日)
*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。
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