木村喜由のマーケットインサイト
債券市場の変調、緩和マネーが逆流か
流行りの「低分散投資」の愚

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

<2015年5月号>

昨年12月以来のマーケットは、原油価格をはじめとする商品市況の下落と、ユーロの急落・欧州株式の急騰を基調として大きなうねりが生じていた。米国の利上げが徐々に接近するとはいえ、日欧の中央銀行によるハイペースの資金供給により、市場は緩和マネーがジャブジャブに溢れる状態となり、あまりの低金利に債券市場で再投資できなくなった資金が株式市場、特に日本では業績変動率の低いディフェンシブ銘柄が集中的に買われるという展開になっていた。

流れを変えた債券王の発言

しかし4月下旬になって欧州のデフレ圧力が緩和し、ガントラック氏、グロース氏といった著名投資家が相次いで独2年債のマイナス金利&10年債の0.2%割れは絶好の売り場とするコメントを発するや、流れは変わった。

基本的に、今の世界市場は成長率の低迷が予想される中で主要中央銀行が未曾有の超金融緩和政策を取っているために、金利が必要以上に低下し、その低コスト資金を利用できる投資家が株式その他の期待リターンの高いリスク性資産に大量に投入していることにより、かなり歪んだ姿になっている。

主要株式インデックスのPERは日米欧とも16倍前後であり、割高感はないものの、緩和マネーのおかげで途上国の設備投資、先進国の個人消費がかさ上げされ、一株利益が2割程度上振れしている可能性がある。したがって金利が正常化した場合、業績は低下、金利が上昇するため、株価は相当の調整を免れない。2009年以降景気拡大局面が続いているものの、需要拡大と技術革新が重なる通常の景気循環ではないため、設備投資もさほど盛り上がらない。いや、設備投資が過剰になったらむしろその結果の供給過剰や反動減の方が怖い状況だ。

高値波乱の暗示

4月末のFOMC後、米イエレン議長が米国株の水準を割高と評したのはおそらくそういう見解を含んだものであり、裏を返せば「株価が下がりそうな状況では利上げはしませんよ」と宣言したようなものである。8日の米雇用統計発表後の株価急騰は、6月利上げの公算が低くなったのを歓迎したものだろうが、それだけ市場は緩和マネーの離脱を恐れているということだろう。

今期予想利益が伸びず、長期金利がやや上昇していることは、高値波乱を暗示しており、しばらくは先駆株を売り、慎重姿勢で臨んだほうがよい。

 愚かしいディフェンシブ株人気

耳慣れない言葉だが、外国機関投資家には「低分散投資」が流行っているそうだ。これは銘柄を絞って投資するという意味ではなく、利益実績の変動(統計学で言う分散)が低い銘柄を、債券の代わりに保有する手法のことである。誰が知恵をつけたか、日本でもその対象となるディフェンシブ株(例えばキッコーマン、明治、花王、塩野義)などが大きく買われた。これらは成長株でもなんでもないが、PERは40倍近くまで買われた。

低金利が長期化すれば債券の満期償還の行き場がなくなり、やむなく業績安定度の高い株を債券の代わりに投資するという論理だ。しかし、株価水準が大きく上がった後では、期待リターンが下がっているので、債券利回りが上昇した場合に、大きな下落リスクを抱え込むことになる。およそ長期投資を心がけるべき年金投資家にはあるまじき所業である。

債券投資の魅力が低いとはいえ、インフレが起こりにくい状況であれば、実質金利はそこそこ確保できる。割高になったディフェンシブ銘柄を買うようリは、腹を括って比較的利回りが高い超長期債券に投資するか、低PER、低PBR、高配当利回りのバリュエーションの低い銘柄でお茶を濁すほうがずっとましである。名目リターンはそれほど高くなくても、長期税引き実質リターンという点ではけして悪くない結果になるだろう。

ギリシャ&中国は引き続き要警戒

今回も前回の繰り返しになってしまうが、ギリシャ問題と中国情勢は警戒しておいたほうがよい。ギリシャの債務問題は、破局に向かって突き進んでいる風にしか見えない。経済混乱を起こしたくないなら借金を棒引きせよと貸し手に迫るギリシャ首脳のやり口はまるでヤクザだ。

半年で2倍になった中国株の急騰は明らかにバブル。不動産投資が面白くなくなったたからホットマネーが株式に流入しているだけで、業績的魅力が改善したわけではない。不動産も株式もいずれ巨額の不良債権を生むことになる。もし今の株式市場にシャドーバンキングの資金が入っているとしたら、今後の経済混乱を一層複雑にするだけだろう。

最後の言葉も繰り返しになる。筆者は先行き株価はもっと上がるが、足元の市場は投機筋の動きで楽観的に過ぎ、せいぜい利食い銘柄の資金を乗り換える程度で慎重に構えた方がよいと思っている。

(了)

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