【初・中級者向き】映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」と安倍さんの内憂外患

2018・4・1

スティーブン・スピルバーグ監督でメリル・ストリープとトム・ハンクス共演、と来れば面白いに決まっている。みごとな映画職人芸で私は感動した。一見に値する力作と思う。

47年前の米国紙ワシントン・ポストは当時、優秀な記者を抱えていたが、一地方紙に過ぎなかった。編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)はニューヨーク・タイムスに対抗すべく執念を燃やしていた。

ニクソン政権の圧力でニューヨーク・タイムスが世紀のスクープを報道できなくなった時、チャンスがやってきた。ワシントン・ポストは機密文書のもう一部のコピーを入手した。

しかし顧問弁護士や財務顧問は公表に反対し、社主で発行人のキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)に投資家は資金を引き揚げ、彼女とブラッドリーは刑務所行きだと警告した。

この映画のいいところはキャサリン・グレアムの成長物語でもあること。まだ男女平等の概念がない時代だ。自殺した夫に代わってトップになったが、周囲からまともに相手にされず自信もない。しかし機密文書をめぐり決断を迫られ、米新聞界の大物、働く女性の模範になってゆく。

内憂外患を抱える安倍首相、株価も外国人売りで一時大幅下落したし、円レートも105円を切るシーンも。3月23日には2回底入れしていた2万1000円近辺を切って2万619円(974円安)をつけたが、30日には2万1454円とまずまずで引けた。

27日の佐川証言で①文書改ざんは理財局で処理した②首相、麻生副首相や首相夫人の圧力、関与を否定した。

「なかったこと」の完全な証明は難しい。しかし偽証罪に問われるリスクを承知の上の証言だから、疑惑は晴れた形である。

改ざん前文書にある「特殊」「特例」が「10年間の貸付後に売却する」という手続きが異例だったので通達によって「特例処理」したという証言を行った。野党の質問が繰り返し同じ内容で、TVは同じ回答を映して「疑惑は晴れません」と絶叫していたが、何とバカバカしい。「内憂」の懸念は完全に去った、といってよかろう。

一方、26日に行われた金正恩の中国行きという「外患」である。

北朝鮮側が訪中を申し入れたことは報道から明らかだが、私は5月までに開かれる米朝首脳会談に先立って、米国トランプ政権と中国によるオドカシが効いたと見ている。制裁も昨秋から効いており、2月に外貨準備ゼロに追い込まれたのも一因だが。

たしかにブラフはすごい。

まず米国。①対「北」穏健派辞任(ジョセフ・ユン・ティラーソン)と強硬派登場(ポンペオ・ボルトン)②西太平洋海軍再編(強襲揚陸艦、イージス艦2艘追加)、原子力空母9艘ドック入り(春以降出撃可能)、病院船日本海へ配備③横田基地に7000戸の米軍家族用仮設住宅と地下壕建設(完了))

次に中国。①人民解放軍7万人を国境配置②30万人の軍による占領訓練(韓国語で「止まれ!動くと撃つ!」)を学習させた。

日本も。北朝鮮情勢対策本部設立(邦人避難。しかも韓国領内に入らない避難方法の検討)。

信じられないかも知れないが、文鮮明大統領の嫌がらせ。すでに3月18日、米原子力潜水艦の釜山寄港を拒否するほどだ。「北」の毒は韓国の体内に回っている。

これじゃあ金正恩がトランプ政権が条件付き降伏を考え、習近平主席に援護射撃を頼みたくなるわけだ。これまでの米国大統領とトランプ氏は違う。本気を感じるに決まっている。

まだ安倍政権をどうしても倒したい勢力にとっては、やめにしたくないらしい、また「北」の脅威がなくなったわけでもない。しかし、長期政権への不安を売り材料に、ここ11週間で8兆円も売った外国人投資家だが、売りのうち先物の6兆円分は今週から買戻しに入ると私は確信する。

トランプ大統領の方は、「北」が中国に駆け込むのは百も承知で、鉄・アルミの輸入制限に続いて台湾への旅行自由化条例にも署名。「次は中国」とばかり、中国の反発や意見は全然気にしない姿勢だ。首脳会談がおそらく秘密裏に去年の12月に決まり、ツイッターで「金正恩委員長は実に賢い」とつぶやいたころに、トランプ氏は勝利を確信したのだろう。そのあたりで米国憲法修正第25条第4節の「合法的クーデター」の心配が少なくなり、大統領の言うことを聞く閣僚がふえ始めた。

私のワシントンの情報ソースは「アンダー・ザ・レーダー・クラブ(お利口さん組)」を含め14人が大統領解任賛成ではない。態度保留の「ザ・フォー・エクセプションズ(特別四人組)」も含めてだ。(閣僚、重要機関の長23人)。

面白いもので大統領支持率も上昇し、ラスムッセン調査では3月末47%と昨年11月比6%アップした。この「外患」だけは私は目鼻がついていると思う。もちろんまだ結果は現実には見えてきていないが。

この映画が面白いのは、最高機密文書のスクープを獲得した瞬間でなく「スクープを発表するか、しないか」なこと。最高の場面は女社主のメリル・ストリープが、クローズアップで公表を決断するシーン。記事掲載を「やりましょう」。

映画のセリフから。メリルが勝利を得てからトムに言う。「いつも完璧でなくても最高の記事を目指す。それが仕事でしょ?」私はマスコミの一部が「安倍おろし」に狂奔しているのが、バカに見えて仕方がない。

映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」と安倍さんの内憂外患(第903回)

 

今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ

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