基本の話by前田昌孝(第30回、配当利回りの意味)
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最終更新日:2024/07/09
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再投資や課税の有無で差異
2024年から衣替えした少額投資非課税制度(NISA)では、成長投資枠を利用して個別株投資ができますが、この半年間を振り返り、市場関係者から配当利回りが高い株式が人気を集めたとの声が出ています。値上がり益だけでなく、配当も得られる点で、ちょっとお得な印象もありますが、本当でしょうか。データから検証してみます。
当たり前のことですが、AとBの2銘柄があって、株価はまったく同じように動いているのに、AのほうがBよりも配当が多ければ、Aのほうが明らかにお得です。ただ、BがAよりも株価の上昇率が大きい場合、どちらがお得かの計算には、いろいろと複雑な要素が絡み合います。
受け取った配当をすべて再投資(同一銘柄を買い増す)するのか、現金で受け取ってそのままにするのかによっても、最終的な投資収益には差が出てきますし、配当に課税されるのかどうかによっても、違いが出てきます。
投資収益は再投資したほうが大きくなるとも限りません。株価が上昇基調ならば、再投資したほうがよさそうですが、下落基調ならば、現金で受け取っていたほうが損失を免れることがあります。上昇基調になるか下落基調になるかはもちろん事前には予想できませんから、実証分析の結果、何らかの傾向がわかったとしても、それが常に当てはまるとは限らないことに注意が必要です。
お得そうにみえる高利回り銘柄は、もう一つ、大きなリスクを抱えています。減配の可能性があることです。単に受け取る配当が減るだけではなく、一般的に減配が決まれば株価が大きく下落しますから、リターンが一気に悪化しかねないのです。2月に期末配当を無配にすると発表して株価が急落したあおぞら銀行は、この典型例でした。
一次回帰式は右肩上がり
そこまで考えると、結局、「投資に絶対はない」「投資にうまい話はない」ということになってしまいます。それでは身もふたもないので、今回は小口の個人投資家の立場に立ち、NISAを利用するため、配当もキャピタルゲインも非課税とする、配当は同じ銘柄に再投資する、という前提で、どちらがお得かを検討したいと思います。
最初の分布図は6月末現在、東証プライム市場に上場していて、2000年末からの株価データがある1056社を対象に、横軸に2000年末時点の配当利回り、縦軸に2024年6月末までの23年6カ月間の累積リターンをとってプロットしたものです。
一見しただけで、配当利回りが高いほうが累積リターンは大きいのではないかと感じる人が多いかもしれません。実際、分布図にはy=1・9436x+5・6644という一次回帰式を書き込んでいます。累積リターンが配当利回りの1・9436倍に5・6644を加えた値になるという意味です。
無配の銘柄はxがゼロですが、これを一次回帰式に入力すると、yは5・6644倍になります。無配銘柄(正確には四捨五入して配当利回りがゼロ%になる銘柄)でも23年6カ月間に株価は平均的に5・6644倍になったことがわかります。xの係数は1・9436ですから、配当利回りが1%高くなるたびに、累積リターンが1・9436倍大きくなる傾向があることもわかります。
煩雑になるので、図示しませんが、投資期間を(1)2013年末から2024年6月末までの10年6カ月間、(2)2018年末から2024年6月末までの5年6カ月間、(3)2022年末から2024年末までの1年6カ月間の3パターン設定して、同様に分布図を描いても、一次回帰式は右肩上がりになっていました。
一次回帰式は2013年末からの10年半の投資の場合は、y=0・5107x+2・7991、2018年末からの5年半の投資の場合は、y=0・1723x+1・7338、2022年末からの1年半の投資の場合は、y=0・1016x+1・1815になっていました。
相関関係は極めて低い
分布図の代わりに、横軸に配当利回りの水準、縦軸に累積リターンの平均値をとった棒グラフを作成しても、配当利回りが高いほうが配当と値上がり益とを加えたトータルのリターンが大きくなる傾向をうかがわせます。
部分的には例外もありますが、配当利回りの水準が高くなると、集計対象になる銘柄数が大きく減ってしまうので、サンプリングバイアスと呼ぶ統計上の誤差が出やすくなっていることに注意する必要があります。
ただ、これだけをみて、「配当利回りの高い銘柄のほうが投資効率はいい」と結論付けるのは早計です。第一に配当利回りが高いほど、トータルリターンは大きくなる傾向があると言われても、両者の相関関係は極めて低いです。
相関関係の強さは、最初の分布図のなかに書き込んだRスクエア(R2)から読み取れます。Rスクエアは決定係数と呼ばれ、ゼロから1までの値をとります。少なくとも0・4か0・5ぐらいはないと、2つのデータの間には相関関係があるとはいえません。
今回のケースでは分布図に掲載した2000年末からの23年半の投資の場合、Rスクエアは0・0121でした。筆者の試算に基づくと、2013年末からの10年半の投資では0・0053、2018年末から5年半の投資では0・0114、2022年末から1年万の投資では0・0722でした。
この程度では「相関関係はないに等しい」「相関関係はあってもおぼろげなものだ」と言ってもいいくらいです。実際、次の表に見るように、配当利回りが同水準の銘柄に投資しても、確保できるリターンには天と地ほどの違いがあります。
過去の話になってしまいますが、例えば2018年末に投資をしようとしていた場合、配当利回りが4%台の高利回り銘柄は194銘柄ありました。これらの2024年6月末までのリターンの平均値はプラス134・5%(2・234倍)でしたが、ベスト銘柄とワースト銘柄はそれぞれ803・3%、マイナス71・9%と大差ができています。
効率的なリターンの獲得を目的に、積極的に高利回り銘柄に投資したところで、裏切られることがかなりあると言い換えてもいいでしょう。当たるも八卦当たらぬも八卦の感覚で高利回り株投資をすることは好き好きですが、配当分だけ余分のリターンが得られるはずだなどと誤解しないほうがいいかもしれません。
それでも配当に注目する理由
別々の銘柄の配当利回りを比較して、どちらが最終的により大きなリターンをえられるかを推測することは、あまり意味がないことがお分かりいただけたでしょうか。統計的におぼろげな傾向があったとしても、個々の銘柄の値動きの違いのほうが大きく、配当利回りの差が投資の成否に直結するわけではないからです。
ただ、あらかじめ買いたい銘柄が決まっているのならば、配当利回りに注目する意義はありそうです。十分に稼ぐ力を持っていて、内部留保も十分にあるような優良企業に中長期投資をするのならば、配当利回りが高いタイミングで投資をしたほうが効率的だと思われるからです。
個別銘柄で説明すると、いろいろと特殊要因が入ってきてしまうので、市場全体の配当利回りをベースに考えてみます。次の表は縦軸に投資年、横軸に保有期間を置いて、投資年ごとに日経平均株価の年率リターンがどう推移してきたかを示したものです。
たとえば、最上段の1959年は旧東証1部の加重平均配当利回りの年平均値が4・68%でした。この欄を右に見ていくと、この年に日経平均に投資した場合の1年後、3年後、5年後、10年後、15年後、20年後、30年後、40年後、50年後、60年後のリターンが年率換算ベースで書かれています。
10年後は9・0%、30年後は13・2%、50年後は5・0%などとなっていて、それぞれピンク、赤、黄色の網掛けが入っています。それぞれの色は年率リターンの水準を示しています。年率リターンがマイナスの場合は青い網掛けが入っています。
この表を見ると、全般的な傾向として、配当利回りが高い年に投資した場合は、その後の年率リターンが高く、配当利回りが低い年に投資した場合は、その後の年率リターンが低かったり、マイナスになっていたりしていることがわかると思います。
配当利回りが1%を下回る年が多かった1986年から2006年までのどこかで投資を始めた場合は、何年にもわたってマイナスリターンが続きました。配当利回りが2%を回復した2009年や2011~12年に投資を始めた場合は、年率で2ケタのリターンが確保できるようになりました。
配当利回りが高いときに買う
次のグラフは、前掲の表のデータの一部を利用して、より簡潔に描いたものです。投資開始年の配当利回りの水準と、10年後までの日経平均のリターン(年率換算)との関係を示しています。中長期投資が前提ですが、配当利回りが高いときに投資を始めたほうが「安く買って高く売る」ことができる可能性がより大きいことがわかると思います。
東証によると、2024年1~6月の平均配当利回りは1・97%になっています。高くも低くもないといったところです。株式相場の先行きは誰にも読めませんが、統計的な経験則を踏まえると、無理して買いに入るようなタイミングではないかもしれません。(マーケットエッセンシャル主筆)
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