映画「碁盤切り」と「ミラン論文」が示すトランプ関税の行く末

2025・5・4(第1271回)

映画公式サイトより>

戦前の東京の下町では、講談や落語のプロを自宅に呼んで楽しむ――といった風習があった。祖父のヒザの上に抱かれて、おさない私は聞いたものだ。もっとも、すぐ寝たらしいが--。

今回の「碁盤切り」は浪人・柳田格之進にまつわる物語。私は講談で聞いたが、調べてみたら古典落語の分野らしい。えん罪で藩を追われ、浪人暮らし。草彅剛の主役がなかなかいいし、画面が何よりもスマートだ。白石和彌監督がゆっくりとしたテンポで、いかにも「日本の時代劇」である。一見をおすすめする。お話はこみ入っているので、残念ながら省略する。

さて、連日大きな見出しで報道される「トランプ関税」。これには教科書がある、と第一生命経済研究所の首席エコノミストの熊野英生さんが言っている。「関税騒動の『次』が何か、ということだから関心を呼ぶ」(4月25日付の論文)。

トランプ大統領がフトコロに忍ばせている「教科書」は何を主張しているのか。

熊野さんは「昨年11月にCEA(大統領経済諮問委員会)委員長のスティーブン・ミラン氏が書いた論文が、トランプ大統領が現在言っていることと同じ。

従ってミラン論文の後半を見れば、トランプ2.0の次の手がわかる」。

要旨は次の通り。

①バイデン政権時代の関税率はわずか3%で、EUが5%、中国が10%より低く、米国は不公正な立場におかれている。

②米国は貿易の被害者である。中国との貿易は2000~2011年に米国製造業から200万人の雇用を奪ってきた。これは「トリフィンのジレンマ」で説明できる。

<第一生命経済研究所2025年4月25日付レポートより>

<第一生命経済研究所2025年4月25日付レポートより>

では、解決策はないにか。

具体的には「百年国債(=割引国債)を相手国に買わせることである。

<第一生命経済研究所2025年4月25日付レポートより>

つまり、石破政権としてはこの割引国債を買うにしても、金額やどこが買うのか、早く決定しておくべきである。「マール・ア・ラーゴ」合意は近い?

ところで、中国が米国国債を売却し、米国株安、債券安、ドル安を招いたという報道は、正しくない。

中国人民銀行が保有する米国国債のシェアは、わずか2%。実際はあるヘッジファンド大手の投資の失敗である。そこが損切りを余儀なくされている。

ただし米国のS&P500構成銘柄に占めるIT関連は、海外比率が高いため、短期的にもイベントショックがあり、現在はまだその段階にある。中・長期でドル安は米国株価にはプラスになる。ただし、日本の輸出銘柄には打撃になる。

しかし、悲観は禁物、である。証券会社の予想も、企業収益は上昇している(次回以降に)。

PERも13倍台と割安圏。あとはショックの後遺症の解消待ちだけ、元気でいきましょう。

GOOD LUCK!

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