「椿三十郎」とバイナリ―オプションの乱高下
今井澂・国際エコノミスト
公開日:
:
最終更新日:2015/04/06
マーケットEye 今井澂, 今井澂のシネマノミクス
今週は「マトリックス」のウォシャウスキーのつくった「ジュピター」を観たが、呆れ果てたトンデモ映画でコメントもできない。手持ちのDVD「椿三十郎」で久しぶりに三船=仲代のあの物凄い決闘シーンを見た。
私は黒沢明全集を持っているのでシナリオも。「これからの二人の決闘は、とても筆では書けない。長い恐ろしい間があって、勝負はギラッと刀がいっぺん光っただけできまる」。
一瞬で三十郎が室戸を斬り、身体からおびただしい血がほとばしる。
この映画は監禁されている家老を、若侍と三十郎が救出するところがヤマ場だ。若侍のいる屋敷の隣から椿の花を流すところ。白い椿の花が山のように流れるところが美しかった。
白黒だが赤と白の椿を美しく画にしたのを見て、私は売りと買いを巧みに使い分けるヘッジファンドの市場支配力を思い出した。
年度をまたいだ乱高下の舞台裏
ご存じのように日経平均は、3月30,31日と大混乱。瞬間1万9000円をザラ場で割った。バイナリ―オプションの威力だろう。
3月下旬、日経平均は2万円の超大台寸前で、だれもが達成を期待した。ところが日銀のETFもGPIFも期末の31日は空き屋、と見て先物と値嵩株売りで日経平均を操作した。一瞬でも1万9000円を切れば巨額の利益になる。
バイナリ―オプションは証券会社の自己売買部門が取引相手になる。慌てて損失をカバーするために売って下げ幅を増大した、というわけ。私は自分のクライアントへは「この大幅下げで下がったところは買い」と連絡。このヘッジファンドのいたずらは、買いチャンスになった。その後4月2日には日銀ETFの352億円の買いが入り、市場は再び上げに転じた。
自慢をしているのでは全くない。慌てて弱気になる必要は全くない、と言いたいだけだ。
NY株が安い3つの理由
今週は3つ。
3月の米国雇用統計は予想の24万人にもゆかず12万6000人という低さで、CNBCには「アウチ!(痛い)」という見出しが出た。株式市場はグッドフライデーでお休みだったが、月曜が思いやられる。前々回にブログで、前回はチャートで、シェール産出州のレイオフが急増していることを述べておいた。
NYダウは工業株30種だが、必ず先駆する輸送株がこのところ激安なところにも私は注目している。
これに加えて、イエメンへのサウジ攻撃で3月26,27日にバレル3・92ドル、8・3%も原油は上昇した。しかし原油在庫は以前記録的な高水準で再び50ドルを割り込んだ。原油価格の先物を見ても、底入れ時期はまだ見えない。
NY株はやはり3月早々の1万8200ドルが目先天井。4,5月は安い。来週この4,5月安は改めて。
危ういAIIBに君子は近寄らず
つづいて。
マスコミの中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)不参加をとがめる論調を私は何てアホな、と思っている。バカじゃなかろか。
中国の外貨準備残は巨大で昨年末3兆8430億ドルある(日本は1兆8000億ドル)。しかし、これを引くと中国は対外資産より対外負債の方がずっと多い。債務国が国際的な銀行を作るなんて、私には悪い冗談としか思えない。米国は基軸通貨ドルを持っているからいいのだが、人民元が国際的に通用していないのだから、何を考えているのだろう。
しかも中国は本部は北京、トップは中国人、出資の50%は中国という。そんなところに参加して、日本はのけ者にされるだけ。
英国が参加しているのは、AIIB債を発行してもらいたいからだし、ドイツ、フランスも道路などのインフラ投資のおこぼれにあずかりたいから。
先ほど述べた外貨準備にしても、すでに減少傾向で借り入れを3か月で1500億ドルのペースで増やしてごまかしている。危ない危ない。
セキュリティ銘柄を来年のサミットまで仕込む
今週は来年の8年ぶりの日本でのサミットに絡んでセキュリティに注目してみた。
綜合警備保障ALSOKは最高益更新で株価も新値更新。ただ株価収益率22倍で、割安とは言えないが、安いところは魅力的。
セコムもいい。四期続けて最高益更新。株価収益率も21倍。これも安い日に狙って、来年のサミットまで持つ。ただしご投資は自己責任で。
ただほかの銘柄はあまりお勧めしたくない。監視カメラのメーカーもあることはあるが、まだ業績は大したことなし。
抜き身の刀
映画のセリフから。
「こいつは俺にそっくりだ。抜き身だ。こいつも俺もサヤに入っていない刀だ。でもな、本当にいい刀はサヤに入っている。」
映画の幕切れ。三船敏郎が仲代逹也をすさまじい決闘で斬ったあとのセリフ。
本当にいい銘柄は、長期で持つものです。目先を狙って信用買いするとヘッジファンドのエジキになりますよ。老爺心ながら。
来週のこのブログは、私は米国に行っていますのでお休みします。ご愛読を感謝しておりますが、1週間ご辛抱ください。
「椿三十郎」とバイナリ―オプションの乱高下(第769回)
今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ
関連記事
-
映画「フェイブルマンズ」と欧米の銀行の破綻。(第1164回)
高値比半分になった小麦、そして今回の「ドカ」の行方 人間、歳をとりたくないものだ。誰でも加齢
-
映画「駅馬車」とセリング・クライマックスの接近と、コロナウィルス ワクチン (第1001回)
ここ数週間、私は家の中に閉じ込められ、新作を見ることは不可能。幸い自宅にはヤマほど好きな古典作品
-
【初・中級者向き】大河ドラマ「西郷どん」とこの急落相場の反転時期
ついに城山で西郷隆盛が死に、大河ドラマは終わった。私としては珍しく録画も使って全部観た。主役の鈴木
-
三谷幸喜「鎌倉殿の13人」と円安。私の日経平均4万円説(第1115回)
当代きっての才人の三谷幸喜さんの作品なので、最初の放映からずっと観ている。 木曾義仲の没落と
-
投資の羅針盤
マイナス金利は「百害あって一利なし」日本個人投資家協会副理事長 岡部陽二 日銀は1月29日にわが国史上初となるマイナス金利の導入を発表