木村喜由のマーケット通信
投機筋にとって日経225を300円動かすのは容易
週末SQは目が離せない
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
日経225の前日比変化率が1%未満を続けて20日になった(6月8日時点)。いつも書いているように日経225は値嵩株の比重が高いうえに意図的に操作する投機筋が手掛けているため、何か明確な材料があれば300円程度、何もなくても腕力で150円程度の変動はいつでも起こりうる。それが、欧米株の変調にも拘らず現在の水準を維持できていること自体は、喜んでいいとことだ思う。
ただしその理由は問題で、先月まで大量に買っていた海外長期投資家の動きが止まり、為替と絡めて動く短期のヘッジファンドの買いポジションの増加により株価が支えられている。裁定残高はこのところ増えているが、日経報道の数字よりずっと多い可能性がある。
中国、韓国、ロシア、ギリシャ きな臭くなってきた世界情勢
当然気になるのは今週末のSQがどうなるかだが、今のところオプション売買に目立った変化はなく、現在値に近いプット・コールの価格合計(筆者はプレミアムと呼んでいる)も順調に下がっており、大荒れしそうな雰囲気はない。しかし油断は禁物だ。世界には火種があちこちに燻っており、上向きはともかく、下向きなら簡単に動かすことができるからだ。どちらかに賭けろと言われたら下向きに賭ける。
こういう話はあまり強調したくないが、ロイター、ブルームバーグなどの情報配信会社にはユダヤ系の人が多く、また大手から中堅以下まで、運用機関の現場にもユダヤ系の人が多いのは事実である。学校が一緒だったり知人や親類を共有していたり、双方の人材の交流も頻繁で、言わばお友達関係の阿吽の呼吸で好悪の材料を提供したり、情報を流すタイミングを囁いて、その後共同戦線を拡大して大きく相場を動かすことなど造作もない。
6月SQはシカゴやシンガポールの建玉も一斉決済
荒れそうな場合は225オプションの500-1000円ほど離れた銘柄に突如大きな建玉の増加があって、それにタッチする方向に動く場合が多い。この動きは急速で、直前まで目を離せない。特にシカゴやシンガポールの建玉も一斉に決済となる3、6、9、12月のSQは勝負している連中が無理やりかけ離れた値段を作りに行くことがある。
無論、相場のことなので常に強気弱気の対立はあるが、その気になればSQで300円ほど動かすことなど彼らにとって難しいことではない。SQ当日の変動はファンダメンタルズにあまり関係ない、新しい情報に対するリアクションで生じる、一過性の出来事であることが多く、中長期トレンドにはつながらない。よって、余裕のある投資家はSQに向けて高値の売り指値、安値の買い指値を入れておくと、結果的に正解となる場合が多い。
ドル高により実質債務が膨張していることが、最近の中堅以下の途上国の成長率が急速に低下した理由である。円安なのに日本の途上国向け輸出はむしろ低下している。中国市場は暴騰が続いているが、実体経済に逆行する動きであり、バブルが終われば3-4割の急落になることはほぼ確実である。
年金が鬼門の安倍首相、夏相場は絵に描いた餅に
相撲で合い口が悪いという言葉がある。日頃の実力では自分の方が上なのだが実際の取組みではなぜか負けになる関係だ。
その伝で言えば安倍首相にとって一番の鬼門は年金問題である。あれは8年前、第一次安倍政権の時、農林大臣の松岡さんが首を吊った頃だが、社会保険庁の年金記録問題が鎮火不能の大火事となり、ストレスもあって本人の大腸炎も悪化、20分もせずにトイレに駆け込まなければならない羽目になって「任務の遂行ができない」と告白、泣く泣く総理を辞任したのである。
この「浮いた年金記録」の後始末を任されたのが現東京都知事の舛添要一厚労大臣だったが、きちんとすればするほど社会保険庁のずさんな対応が明らかになり、結局、年金制度の管理責任を問われた自民党が翌年の参議院選挙で惨敗、その翌年の民主党政権誕生に繋がる流れを作ってしまった。
そういう苦い記憶のある安倍さんが防衛問題で大勝負を賭けているという折りも折り、よくもまあこのタイミングで年金情報の流出事件が起きたものだ。おそらくは中国かどこかのハッカーによるものだと思われるが、なにぶん、国民にとっては生活に直結する案件なだけに敏感に反応する人が多く、一方で情報流出に便乗する詐欺師が大挙して出現し、収拾不能の混乱となっている。
膨れ上がった日本の政府債務を解消するには、名目GDPの膨張により見かけの借金の比率を下げるか、国民から余計に税金を巻き上げて、これまで受けた恩恵の返礼をきちんとさせるしかない。そのための一つの現実的アプローチが、マイナンバー制度だったのだが、週末の動きや報道を見ると、もはや早期推進は不可能になったと思う。
「6月の成長戦略で株価上昇」は絵に描いた餅
解決方法のうち、前者の名目GDPを拡大するアプローチは難しい。人口が減り、資本が余剰な国でインフレは起こりにくい。最も現実的なのは介護医療など労働力不足の産業の賃金上昇を許し、全体の給与水準を引き上げるという方法だ。しかしこれに猛反対する筆頭が厚労省。一方で後者の方向を喜ぶお金持ちはゼロであろう。誰だって知らんぷりして過ごしたいはずで、もし懲罰的に高い税金が掛かると知ればほとんどの資産家は全力を尽くして税金逃れの対策を講じるであろう。
要するに、年金問題がネックになって政府に対する不信が炎上し、安全保障や憲法の問題が行き詰る公算が非常に強くなった。出来の悪いストラテジストが6月は成長戦略の具体化を期待して株が上がると言っているが、これも絵に描いた餅である。調べればわかるが成長「戦略」というものは存在しない。期待感を訴えただけである。だから毎回、期待外れに終わったのだ。政治が夏相場をつぶす公算が強まったと思っている。
Vol.1303(2015年6月8日)
*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。
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