【初・中級者向き】映画「セルフレス/覚醒した記憶」とドイツ銀行とノーベル賞
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マーケットEye 今井澂, 今井澂のシネマノミクス
2016・10・9
すべての老人がもう一度青春時代に戻りたいという願いを持つ。ゲーテの「ファウスト」やオスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの画像」。映画ではルネ・クレールの「悪魔の美しさ」――。みんなこの願望がテーマ。だんだんと老化を遅らせる不老不死プロジェクトが進行している現在では、たとえSFにしても、もっともらしい近未来だ。
この映画のファウスト博士は建築の世界の帝王で百万長者。ガンで余命がわずかと知った老人は、老人の心を若い肉体に転送するという科学者の実験に乗ることにする。科学者は老人の意識を35歳の特別部隊の兵士の体に転送する。
老人役は名優ベン・キングズレーで兵士の方はイケメンのライアン・レイノルズ。なかなかいい。監督はインドのタンセム・シン。
老人の方は兵士の記憶が幻覚となって現われるという副作用に悩まされ始める。次第に若い兵士の人生、つまり肉体に戻ってゆく。いろいろ考えさせられるSFだ。
ドイツ銀の〝楽観〟は正しいか
市場に残っている記憶の方は、リーマンショックの再来、だろう。
問題のドイツ銀行について、CNBCが有力証券KBWの銀行アナリストフレッド・キャノン氏とキャスターが対談した。
結論だけまとめると次の通り。
- 今回のドイツ銀行の危機はリーマンショック時と違う。懸念されているデリバティブについては、どんな監督機関のガイドラインにも適正な範囲内だ。問題はバランスシートではない。
- 米司法省による過去の違法販売に対する課徴金140億ドルも現実には半分ぐらいだろうし、60億ドルの引当金がある。
- では何が問題なのかというと、現在のドイツ銀行は全く利益が出ないし、将来の収益源もない。株価が新安値になったのは、当然。これほど安ければ増資は不可能だろう。
- ヘッジファンドがプライムブローカーとしてのドイツ銀行から他行に乗り換えているのは、事実だが、顧客の「取り付け」とは違う。また資産へのヘッジファンドの比重は7%に過ぎないが、不安感を与えるので、不安感は去らない。
- デリバティブは想定元本ベースでは巨大だが現実の負担は大きくない。
ロイター電ではドイツ政府の高官は「たとえばコメルツ銀行との合併」を示唆して「選挙前に銀行を救済する政府は世界中にない」とも。
証券マンが買いを進める局面で慎重なワケ
私は先ほど引用したキャノン氏の楽観的な見方は、本音ベースで怪しいと思う。ヘッジファンドと格付け機関は「ひとつ穴のムジナ」だ。いまは底値から多少、買い戻しで株価は戻っている。140億ドルが半額にでもなれば、もう少し上がっても不思議でない。
しかしそのあたりで格付け会社が格付けを引き下げたら―。それこそ選挙前で救済しにくいタイミングで。どうなるかは、神のみぞ知る、だ。
先週木曜日、元FRB議長のアラン・グリーンスパン氏がCNBCに出演し「BREXITの影響がまだ顕在化していないが、問題はこれからだ」。と警告した。
このところの円安、日経平均のジリ高で、そろそろ何か買いたくなるのが腕に覚えのある投資家の常だ。1万7000~1万7200円のインネン場にさしかかっているし、そこいらがすんなりと抜けるかどうか。
裁定買いの低水準とか、円レートがチャートのフシ目を抜いたとか、中国経済が平静だとか、ドナルド・トランプがミスを重ねて当選の可能性が減っているとかー。私が証券会社のセールスマンならお客様に「買いましょう!」と勧める場面だが。まだ私は慎重だ。
21世紀は生物、バイオがブレークスルー
それでも何かやりたい、という向きには、ノーベル賞の東工大・大隅氏の関連のタカラバイオ(4974)、コスモバイオ(3386)、医学生物(4557)。もう少しバイオ全体に拡大してペプチドリーム(4587)、そーせい(4565)もご検討いただきたい。もちろん長期投資だ。
19世紀は化学、20世紀は物理が技術がブレイクスルーして、成長産業はそこから生まれた。化学は人造繊維、人造肥料、物理は半導体、原子力、そしてエンジン(自動車、航空機)、もちろん別の流れに情報、新エネルギーがあるが。
しかし物理と化学が出来上がっているこの世界は問題がある。文明として未成熱で公害とか産業廃棄物など、人類の幸せに阻害あるアタマの痛い問題が発生した。ところが自然には現代の産業社会より文明としてずっと上なものがいくらでもある。
たとえばジャガイモ。ほとんど窒素だが、陽光と空気、大地と水があれば、つくれる。苔や葉はもう一度土に返るのでムダがない。だから、化学、物理につづく成長産業は「生物学」(いまのバイオ)。
この考え方を推し進めると、たしかに21世紀に入って、DNAとかクローンとかiPS細胞とか、ここ10年の間に常識になった。
35年前の教え
永々と書いたが、今から35年前に私はこの歴史的な見方をある巨大企業の未来担当の役員に教えてもらった。長男が数、理が得意だったのでバイオをやれ、といった。何回も。時代が早すぎたので始めは苦労したが、バイオ専門のトップランナーになり、40歳で国立センターの学部長になった。相談もされなかったが、孫娘も生命理工学部のリケジョに。
今回のテーマにしたSF映画も、バイオの発展が後ろにある。いつも映画のセリフでシメるが、科学者が言うセリフ「誰のために、何のためにこの老人の回春を推進するのかが問題だ」。
私も次第に神の領域に近づいている科学をソラ恐ろしくさえ感じる。私自身あと何年もつか分からないが、ある日突然バタリがいいなあ。その日まで生きて、仕事をしたい。
映画「セルフレス/覚醒した記憶」とドイツ銀行とノーベル賞(第847回)
今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ
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