中国の住宅価格にみる矛盾の破局

公開日: : 最終更新日:2015/08/07 マーケットEye, 有料記事サンプル ,

調べれば調べるほど、今回の中国の株価バブルがもたらすことになる様々な経済トラブルの先が思いやられる。作用反作用の法則、質量・エネルギー一定の法則、慣性の法則など、物理学における大原則が、経済の分野でも少し形を変えて貫徹すると筆者は考えている。

天に唾を吐けば自分の顔に落ちてくる。過去の経験によれば、経済合理性に反する強引なことをすれば、短期的には自分の思い通りに動かすことができるかもしれないが、ほぼ例外なく、そのツケはメリットよりもずっと大きくなって跳ね返ってくる。今回の株式市場のテコ入れに限らず、中国経済は、そのタブーを犯してしまっている。

人口がピークアウトする

中国では、実質価格ベースで(つまり人民元が暴落しないかぎり)住宅価格や株価が大幅に下落するのはほぼ確実と考えている。日本の1995年と中国の2015年には重要な共通点がある。人口のピークアウトだ。

通常、人口がピークアウトする数年前までは、消費にも設備や住宅投資にも深くかかわる生産年齢人口が増加傾向にあるため、近視眼の政府や投資家はそれまでのトレンドが当分続くと錯覚し、間違った行動を取る。ところが現実は大きく違ったトレンドを取り、今まで大成功間違いなしと思ってやった投資行動が全部裏目に出る。権利に対する法律的保護がない分だけ、中国の値動きは荒っぽくなる。

冷静になって、中国政府が過去15年間にやってきた「先行投資」なるものがどうなっているか、見ていただきたい。先進国および途上国の一部に対する証券投資以外、非常に低いリターンか、赤字になっており、ほとんど丸損になっているものも少なくないと思われる。アジア周辺国やアフリカへの援助投資は、今後も俺の手下になればうまくやってやるぜというもので、右肩上がりの自国経済が有らばこそ生きる。出せるのかよ。

そして投資額のかなりの部分が中央・地方の政権幹部のポンポン(お腹、ふところ)にキックバックとして入ってしまっている。そのお金の大半は金や欧米主要都市のマンション、株や債券に化けてこれまでの上げ相場に貢献した。もうそれはないだろう。

投資がGDPの半分では持続不可能

中国をバブル的高成長と断言できるのは、設備、住宅、公的資本の、投資3部門の合計がGDPのほぼ半分を占めていたからだ。常識あるエコノミストは、そんなことはありえない、少なくとも一過性のものでしかないと考えているからだ。実際、そんなことを続けることは不可能だが、公式発表では中国はそれを長期間続けてきた。数字が完全に虚偽であれば被害は少ないが、マジでその通りやっていたならばその矛盾の規模は太平洋戦争当時の日本と同じぐらい絶望的なものになるはずである。
すぐに破局が訪れるわけではないが、小さな個別事象が筆者の想定を裏付けると思う。きっと一番甘い汁を知っていた人々が、事態の変化に真っ先に反応して逃げ出すはずである。開発型の住宅が投資先の中心だから、きっと動きが見えると思う。

冬季五輪開催でも株価下落

中国の財政は高成長のおかげもあって健全で、財政赤字は過去35年間GDPの1%程度で推移している。だが赤字が拡大し国債発行が必要となった時、例えば償還まで長い10年債を誰が買うのだろう。今回の経済危機のハンドルをうまく取り切れるという確信がない限り、年限の異なる債券先物市場が十分発達してヘッジできると思わないと外国人は買うはずはない。

中国人はどう反応するだろう。もし7%以上で値が付いたら、もう財政的信認はブラジル並みになる。

そう言えば、五輪つながりで週末に北京で冬季五輪開催が決まったのに、株価は結局上海も香港も1%ほど下げた。これも驚き。五輪開催が決まっても下がったなら、何を理由にはしゃいだらいいのだろう。個人投資家比率が8割と言われる市場でこれでは、はしゃいでいられる状況ではないという意味に解釈するほかない。

一般企業はどうなる

筆者が注目しているのが、破綻リスクを抱える「企業」として存在していると思われる、かつ大幅に数が増大している、一般企業の今後の姿である。経済失速、競合激化、しかしコストはすぐ下がらない状況で、どうするのか。

企業としての素質、経営者の資質が優れていれば、金融機関や資本家の支援を得て生き残れるかもしれない。だが、そういう金融ビジネスのインフラが今の中国にありうるのか。個人的コネクションで支援を取り付け生き残る企業も多いだろうが、今後の健全な回復に結びつけられるのだろうか。

初の景気後退

今回の中国の状況は、おそらく経済拡大が始まって以来の最大の危機である。食えない人民を食わせるために頑張った時代は20年前に終わっている。その後はグローバル経済化の波に、最大限うまく乗った中国が、今、曲がり角に来ている。愚民に十分な知識や教育を与えず、馬車ウマのごとく経済拡大に焚き付けて今日に至ったというところではないか。経済拡大の尻馬に軍部も乗って増長し、国際法を無視した暴挙に出ている。

中国全体がおかしくなっているというつもりはない。それなりの基礎、地盤、人材の厚み、人脈は十分築いていると思う。だが、実態無視で伸びた分の調整は避けられず、その摩擦的反動は、普通なら被害を受けない人まで及ぶということである。中国発のリーマンショックというのはあり得ないが、連鎖反応的に行動しやすい心理的、社会的構造を考えれば、中国国内でリーマンショックと同程度の衝撃が起きる可能性は高い非常にと思う。

マーケットにはタイムラグがある

マ-ケットがこれほどの危機に気が付いていないとは思わない。今現実に成立している市場価格が、投資家の総意を反映した、神聖なものと考える人は現実を知らない馬鹿者である。好機を待っている投資家、我慢している投資家、今思考停止状態の投資家が行動を開始するまでの、許容範囲内の幅は多くの人が考える以上に広いのだ。これらのかなりの部分が動いた後で初めて、市場コンセンサスといえるほどの価格が成立する。

 

木村 喜由の『マーケット通信』

Vol1319(2015年8月3日)

関連記事

今井澈のシネマノミクス

【初・中級者向き】映画「海辺のリア」と防衛費と朝鮮半島の脅威

   2017・6・25 84歳の仲代達矢の主演作。小林政広監督の前作

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

【初・中級者向き】映画「第三の男」と米朝首脳会談と三方一両トクの「落とし所」と原油価格・金利・株

  2018・5・13 ご存知の名作中の名作で、グレアム・グリーンの原作をキャ

記事を読む

日本人が知らない中国投資の見極め方【1】
アリババの米国上場で注目
中国のインターネット企業

アナリスト 周 愛蓮 電子商取引(eコマース)で中国最大手のアリババ・グループ(阿里巴巴集団)が早

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「エブエブ」とジョージ・ソロスの「ウクライナ2」そして中国の大苦境。「3月のドカ後の作戦」(第1165回)

今年度のアカデミー賞に「エブエブ」が作品賞、監督賞、主演女優賞など7冠の圧勝。「エブエブ」とは「エ

記事を読む

日本人が知らない中国投資の見極め方【8】
全人代のGDPより注目されたネット動画
中国版「不都合な真実」の衝撃

アナリスト 周 愛蓮 年に一度しか開かない中国の「全人代」(全国人民代表大会、日本の国会相当)は、

記事を読む

PAGE TOP ↑