「米中関税戦争」の終了と米国の覇権の行方

2025・5・18(第1273回)

<トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席 – 写真=AFP/時事通信フォト(株式会社プレジデント社)>

5月12日、びっくりした向きが多かったのではないか。

スイスで開かれていた貿易協議の結論が出た。

米国側は現行の145%から10%(麻薬対策不備に対する報復分20%を除く)へ削減。

一方、中国側は対米報復関税125%のうち、91%を撤回し34%へ。また24%を今後95日間停止し、新たな関税率は10%となる。びっくりさせられる措置だ。

これに先立って、前兆があった。対英国との貿易交渉で(5月8日)、英国は対米関税を5.1%から1.8%に引き下げた。米国側の対英関税を10%とした。

貿易不均衡は、ことばの上では重大だが、現実には全く関係ない。英国は米国の貿易赤字の1%程度。一方中国は貿易赤字の25%だそうだ。

<SMBC日興証券 5月14日付レポートより>

米国の株価は対全世界関税10%に見合う水準で落ち着いている。

では日本はどうか。

野村の木内登英エグゼクティブ・エコノミストによると「従来1%と想定されていたGDP押し下げ効果は0.5%に半減する」。

株価の方はどうか。注目される大手の買い手が出現している。中国である。

日本経済新聞より>

以下、日経の5月13日による。

財務省が中国政府に資本規制の緩和を要請したことが13日、わかった。中国は不動産市場低迷や経済停滞で魅力的な投資先が減り、貿易黒字で獲得したマネーが国内でだぶついている。海外証券の投資枠を拡大するように促し、日本株などへの流入につなげる狙いがある。

3月に東京で開いた閣僚級の日中ハイレベル経済対話で、中国本土からの海外投資を認める「適格国内機関投資家(QDII)」の上限枠の引き上げを求めた。いつまでにいくら引き上げるよう求めたかは明らかになっていない。

中国は人民元相場の安定などを狙って厳しい資本規制を取り、国内の銀行や資産運用会社は海外の株式や債券に自由に投資できない。一定条件を満たしたQDIIに限り、割り当てた投資枠の範囲で海外投資を認める。中国国家外貨管理局によると、4月末の上限は計1677億8900万ドル(約25兆円)で24年6月末以降は据え置かれている。

要請の契機は24年1月、上海市場に上場する日本株上場投資信託(ETF)である「華夏野村日経225ETF」の売買が一時停止となったこと。中国の個人投資家の間で日本株の人気が過熱し、取引価格が基準価格(1口あたりの純資産価格)を大幅に上回った。価格急落で投資家が巨額の損失を受ける恐れがあり、証券取引所が売買を停止した。

QDII枠がもっと大きければ、現地の資産運用会社も投資家の買い注文に応じて日本株を買い付けることができた。取引価格と基準価格が大きくずれることもなく、売買停止を避けられた可能性がある。

財務省はQDII枠が広がれば日本株ETFへの資金流入も広がると期待する。日本株ETFへの投資であれば、土地や企業買収と異なり経済安全保障上のリスクも抑えられる。中国の資産運用会社でも枠拡大の要望が強い。財務省関係者は「中国の金融幹部から『QDII枠を広げるように中国政府に働きかけてほしい』と陳情を受ける」と明かす。

中国税関総署によると、24年の中国貿易収支は9921億ドルの黒字と過去最大で、世界貿易機関(WTO)に加盟した01年の40倍超に膨らんだ。巨額の黒字マネーが国内にあふれるが、不動産バブルは崩壊し、国内株式市場は低迷し、国債市場も利回り低下が進む。妙味ある投資先が見当たらない状況で、日米欧の有価証券は中国マネーの有力な受け皿となりうる。

中国は経済成長率の低下が続き、成長国から成熟国へと緩やかに移行する過程にある。少子高齢化も進むなか、中国の家計貯蓄を増やすには海外資本市場への投資を増やすのが自然な選択となる。財務省幹部は「中国にとって海外投資枠拡大のメリットは大きい」と強調する。

欧米の資産運用会社はあふれる中国マネーの取り込みを狙う。投資信託購入などの形で対米証券投資が拡大すれば、米国の対中批判の緩和にも資する可能性がある。

実現には曲折が予想される。習近平(シー・ジンピン)指導部は2015〜16年に深刻な資本流出を経験し、人民元下落を防ぐために巨額の為替介入を迫られた。資本流出と人民元急落への警戒を解いておらず、QDII枠の拡大についても慎重に検討を進めるとみられる。

ただし、米国の覇権は今回の米中戦争の(あえていう)敗北で、とても中、長期で楽観はできない。いや、不可能である。

ジャーナリストの福島香織さんは次のように述べている(JB pressより)。

私は、トランプ政権のようなあからさまな戦略とは違う形で、日本は独自に中ロの蜜月を突き崩していく外交努力が必要ではないかと改めて思った。

 なぜなら、今回の中ロ共同声明で打ち出された中ロ反日姿勢の強化は放置できない事態だからだ。これは、中国がロシアに寄り添う立場をとったことに対するロシア側の「返礼」としての反日姿勢強化と見ることができるが、今後、もし、中国が日本の尖閣や沖縄を狙う場合、ロシアとの共闘につながる可能性をはらむ。

 中国は秋の抗日戦争世界反ファシスズム戦争勝利80周年記念式典で、プーチンに「尖閣諸島(釣魚島)」を中国の領土と発言することを望むかもしれない。そうなれば北方領土問題、尖閣問題、台湾問題がリンクして、日本の主権や安全保障を脅かすかもしれない。

以上、やや弱気の面を申し上げた。

株価、とくにナスダックに「逆三尊」というまあこれ以上ない買い信号が出ていること、そのナスダックと日経平均はきわめて近似性がつよいこと。この二つを指摘しておきたい。

余計なことだが、今週は歌舞伎座にいつて、勧進帳を楽しんだ。義経と弁慶があれだけ努力して奥州に逃げ込んでも,最後は殺されたことを。権力は怖いもの、覇権もなくしたら、これまた、怖い。

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