基本の話by前田昌孝(第53回、オルカン好成績の持続性)
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初級, 無料記事 MSCI全世界株指数, オルカン, マーケットエッセンシャル, 前田昌孝
内外ともに株式相場が大きく上昇し、少額投資非課税制度(NISA)を利用した投資信託への積み立てでも、かなり順調に含み益が膨らんでいるようです。その持続性はわかりませんが、現状がどの程度好調なのか、点検してみたい人もいるのではないでしょうか。全世界株式型の投信を例に、統計的な手法で好調度を測ってみます。
オルカンの純資産総額は実質首位
全世界型株式投信の代表格は三菱UFJアセットマネジメントが設定・運用している「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」です。正式名称よりも登録商標である「オルカン」のほうが投信名としては知れ渡っているかもしれません。
2026年5月末現在の純資産総額は12兆2379億円で、表に示すようにその規模は日本国内で公募設定された追加型投信のなかで5番目です。ただ、首位から第4位までは日銀が大量に保有している上場投信(ETF)ですから、日銀の購入分を除くと、実質的にオルカンが日本で最も大きい投信になっています。

5月末の基準価額は3万7737円でした。基準価額とは純資産総額を受益権口数で割ったものです。ただ、投信は一般的に受益権口数1万口単位で購入や解約(換金)ができるようになっていますから、基準価額も受益権口数1万口当たりの金額で表記する決まりになっています。

オルカンの決算日は毎年4月25日ですが、2018年10月31日の設定以来、分配金を支払っていません。ですから、最初に買った投資家は1万円だった元本が2026年5月末には3万7737円に膨らんだことになります。設定来の騰落倍率は3・7737倍、騰落率としてパーセント表示すれば、プラス277・37%ということになります。
べき乗根をとって年率換算
この設定来の騰落率が他の投信などと比較して高いかどうかは、たまたま比較対象の投信の設定日がオルカンと同じならば簡単ですが、そんなことはめったにありませんので、一般に年率換算して考えることになります。2018年10月31日から2026年5月末までは7年7カ月(7・583年)ですので、設定来の騰落倍率3・7737倍の7・583乗根をとって年間平均の騰落倍率を計算し、それをパーセント表示にします。
こういう計算に慣れた人ならば、関数電卓のキーをいくつかたたけば、簡単に答え(プラス19・1%になります)が出る話ではありますが、不慣れな人はAI(人工知能)に聞いたほうが早いでしょうから、インターネットの検索窓に次のような質問を記入して、AIモードで開きます。
グーグルの生成AIのGeminiに聞くとプラス19・34%、LINEヤフーの対話型AIサービスAgenti(エージェントアイ)に聞くとプラス19・1%でした。細かな違いは計算の前提の差を反映しているのでしょうから、今回は無視して、とりあえずプラス19・1%ということにしておきます。
ただ、これはNISAが2024年1月から刷新され、つみたて投資枠の年間積み立て上限が120万円に引き上げられてから投資を始めた人のリターンではありません。NISAが大型化する直前の2023年末のオルカンの基準価額は2万0899円でした。それから2年5か月(2・417年)後の2026年5月末に3万7737円になったわけですから、この間の騰落倍率は1・8057倍。この2・417乗根をとり、パーセント表示すると、年率の騰落率はプラス27・7%になります。
AIに「基準価額が2年5カ月間で2万0899円から3万7737円になった投信の年率の騰落率はいくらか」と聞いても、同じ答えが得られました。オルカンの設定来の年率リターンを年率で8・6ポイントも上回る成果が出ていたわけですね。
複雑な積み立て投資のリターン計算
ただ、このリターンは2023年末にオルカンを購入し、2026年5月末まで保有していた投資家が享受しているものです。毎月末にオルカンへの積み立て投資をしている人は、2023年末に一括投資をしたのではなく、2024年1月末から2026年5月末まで、たとえば毎月1万円ずつ投資元本を増やし続けていたわけです。
このような投資家の投資利回りの計算はかなり複雑です。まず2024年1月末から2026年5月末までの毎月末の基準価額がわからなければ、2026年5月末現在で保有しているオルカンの時価評価額が計算できません。
毎月末の基準価額のデータは三菱UFJアセットマネジメントのホームページのほか、資産運用業協会(旧投資信託協会)のホームページやヤフーファイナンスなどでも取得できます。そのデータを表計算ソフトのシートにコピー&ペーストし、毎月末に何口ずつ受益権口数を購入できたかを計算し、さらにそれを2026年5月末まで合計し、5月末の基準価額を掛け合わせると、直近の時価評価額が算出できるのです。

表の右側から2列目が各月末に保有していたオルカンのその時点での時価評価額です、いちばん下の行、つまり2026年5月末時点のところをみると、39万4828円になっています。累計投資元本は29万円ですから、5月末時点で10万4828円の含み益を温存しているということになります。
AIに聞くのが手っ取り早い
ここから先の計算も複雑です。月間平均の騰落倍率をMとしますと、2024年1月末に積み立てた1万円は2026年5月末まで28カ月間運用されていますから、2026年5月末には「Mの28乗」万円になっています。同様に2024年2月末に積み立てた1万円は「Mの27乗」万円に、3月末に積み立てた1万円は「Mの26乗」万円になっています。
こんなふうに2026年5月末に積み立てた1万円が1倍(「Mの0乗」万円)になるまで、Mのべき乗を29回足していくのです。等比数列の和ですから、公式を当てはめると(「Mの29乗」-1)を(M-1)で割った答えが39・4828(万円)になるという方程式ができ上ります。
こんな29次方程式の答えは算術的には出てきませんから、あとは表計算ソフトにあらかじめ組み込まれている関数を使うか、AIに聞いてみるのがいいでしょう。エクセル関数ならば、セルに「=RATE(29、―1、0、39・4828)」(読点はコンマ、中黒は小数点の代用)と入力すると、月間の騰落率が2・1168%だと表示されます。これを複利で年率換算すると、年率のリターンがプラス28・6%とはじき出されます。
あるいはインターネットの検索窓に「1万円ずつ29カ月積み立てたら、時価評価額が39万4828円になった場合、リターンは年率でいくらか」などと入力し、AIモードで開きます。AIは積み立てが月初か月末か、年率リターンを月利の単純な12倍と考えるか、複利計算するかなど前提を変えて複数の答えを出してくるかもしれませんが、月末積み立てで複利計算をした場合には28・6%となっているのではないでしょうか。
2023年末に一括投資をした場合の騰落率はプラス27・7%でしたから、毎月末に積み立て投資をしている人が享受しているリターンはそれよりさらに1ポイント近く上回っていることになります。
ここで「すごいね」ということで終わりにしてもいいのですが、こんなすごい利回りに持続性があるのか、もうちょっと踏み込んで考察してみましょう。
MSCI指数の長期トレンドは
そもそもオルカンの長期的なリターンはどの程度だと考えられるのでしょうか。そんなことは神様でなければわからないと言ってしまえば、それまでの話ですが、一応、将来は過去の延長線上にあるという前提を置いたうえで、基準価額がどんなふうに変動する特性があるのかを検討してみます。
過去といってもオルカンは2018年10月31日の設定ですから、7年半程度のデータしかありません。ここではオルカンが追随を目指しているMSCI全世界株指数(配当込み、円ベース)の1987年12月以降のデータをもとに、考えてみましょう。
この指数の値は1987年12月末に100だったのが2026年5月末には3534・977になっています。38年5カ月(38・417年)に35・34977倍になったわけですから、複利で割り戻すと、年間の騰落率はプラス9・72%(幾何平均)になります。

MSCI指数の月次データを利用して月間の平均騰落率が0・901%であることを求め、それを年率化することで年間の騰落率を算出することもできます。この場合はプラス11・36%(算術平均)になります。
現実の年率の騰落率は最初の計算で出した幾何平均の9・72%で、これよりも大きくなってしまいますが、指数の変動率が大きいと、算術平均と幾何平均との差が広がる傾向があります。すべての計算を生の指数値ではなく、対数を利用して実施すると、この不都合は消えるのですが、説明が超複雑になるのでやめておきましょう。
MSCIの月次データからは指数の騰落率がどの程度上下に振れる傾向があるのかを示す標準偏差も算出できます。エクセルならば、STDEV・Pという組み込み関数を使います。今回は月間騰落率の標準偏差が4・9484と出てきましたので、これを年率化するために12の平方根(3・4641)を掛けて17・14という結果を得ます。
ただでさえ高い上昇率なのに
世界経済の成長のペースと、全世界株指数の上昇のペースとは長期的には一定の関係がありそうにみえますが、国際通貨基金(IMF)のエコノミストらがまとめている世界全体の名目国内総生産(GDP)の成長率は米ドルベースで年5・36%(円ベースでは年4・39%)程度です。MSCI全世界株指数の上昇率が年率でこの2倍程度になっていることだけでも、どこまで持続性があるのか、やや不安を覚えます。
ところがオルカンはこれまでの計算が示すように、2026年5月末時点でみると、設定来から7年7カ月間の騰落率が年率でプラス19・1%、2023年末から2年5カ月間の騰落率が年率でプラス27・7%、2024年1月から毎月定額の積み立てをし続けている人のリターンが年率でプラス28・6%でした。
釣鐘上になった正規分布のグラフを思い浮かべてください。全世界株指数の年率の騰落率がプラス11・36%(計算の都合で算術平均を利用しています)、標準偏差が17・14ということは、1標準偏差はマイナス5・78%からプラス28・50%の範囲内になります。

ある1年間の騰落率がこの範囲内に収まることは、68%のケースで起こりえます。平たくいえば、100年のうち68年間は騰落率がこの範囲内になります。2標準偏差はマイナス22・92%からプラス45・64%までですが、全体の95%のケースではこの範囲内になります。
AIに「年平均騰落率プラス11・36%、標準偏差17・14の株価指数連動投信を購入して、1年間のリターンが27・7%以上になる確率はどれくらいか」と聞いてみてください。確率密度関数というものを使って計算するので、エクセルの組み込み関数でも計算可能ですが、たぶん「約17%程度」という答えがえられるでしょう。6年に1回程度はあってもいいパフォーマンスです。
ただこの設問の「1年間」のところを、実際に私たちが体験している「2年5カ月間」に置き換えてみましょう。最初の質問の「27・7%以上」のところは、必ず「年率換算で27・7%以上」と書き換えてください。そうしないと2年5カ月間の累積リターンが27・7%以上だと受け止められ、超楽観的な結果が出てきてしまいます。
筆者がやってみたところ答えは7%程度でした。14年に1回程度はありうるというわけですね。なおAIの回答は計算の過程も細かく示してくれるのですが、より正確な回答ができるように、さまざまなデータを対数に換算して計算しているようです。
一番聞きたいことは何か
積み立て投資のリターンとなると、ハードルが高いですが、AIは答えてくれるでしょうか。まず足元で実現できている実績はそもそもどの程度の確率で起こりうることなのかを聞くため、次のような設問を考えてみました。
「年平均騰落率プラス11・36%、標準偏差17・14の株価指数連動投信に対し、毎月1万円ずつ29カ月間の積み立て投資をして、年率換算のリターンが28・6%以上になる確率はどれくらいか」
Agentiの答えは「ほぼゼロ%(統計的には 0.数%以下レベル)」と考えるのが妥当とのことでした。Geminiの答えは「およそ5~8%前後(10回から20回に1回あるかないか)の極めて珍しい幸運なケースに限られる」とのことでした。
このようなことが起こりうるのは「29カ月の間、常に株価が右肩上がりで猛烈に上昇し続けるような極端な好景気(相場のブレの右端のほう)」の場合に限られるというのが生成AIの答えです。米著名投資家ウォーレン・バフェットさんの投資会社バークシャー・ハザウェイが投資資金の過半を待機資金にしている理由はお判りでしょうか。(マーケットエッセンシャル主筆)
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