ROAの分母と分子に何をあてはめるか?
ROAとROEを算出する①
金融リテラシー講座 「投資のための財務分析」第17回
前回まで、損益計算書と貸借対照表の読み解き方を伝授してきました。
今回からは損益計算書と貸借対照表を使って出てくる収益指標であるROA(総資産利益率)とROE(資本純利益率)の解説をします。そして、投資を考える上でそれらの実践的な使用方法を紹介します。
ROA(総資産利益率)計算式
ROAは投資利益率を見る代表的指標です。総資産=総資本(負債・資本)ですから、総資本利益率とも言います。事業利益というのは営業利益に受取利息・配当金を加えたものです。
事業というのはつまるところ資金運用であって、会社というのはつまるところファンドです。
ファンドの資産はわれわれのポートフォリオと同じです。総資産というのは、ファンドに組み込まれたポートフォリオ全体のことであって、その中には事業資産と金融資産、それに投資資産があります。事業資産が生み出すものが営業利益で、金融資産や投資資産が生み出すものが受取利息・配当金です。ROAというのは、会社=ポートフォリオの運用利回りです。
ROAの計算にあたって、分子に純利益あるいは経常利益をもってきている例があります。例えば、会社四季報に掲載されているROAの分子は純利益です。純利益をROAの分子にするのはほとんどナンセンスです。指標としての意味はありません。分子に経常利益を持ってきている例も本来は筋ではありません。しかし、これは便宜上許されると思います。現実問題として、ROAを計算する際の分子は経常利益で良いと思います。
ROAの分子は経常利益に、分母を会社の値段にする
ROAは会社(ファンド)の運用利回りですから、会社(ファンド)に投資するかどうかを考える上で当然ながら重要な指標です。では、実践的にROAをどのように使ったらよいでしょうか。
お勧めするのは、分母を総資産にするのではなく会社の値段にすることです。
われわれは投資を行うにあたって会社の価値より会社の値段が安いものに投資することが大事です。会社の価値がどんなに素晴らしいものであっても、会社の市場価格が価値を上回ってべらぼうに高いなら、そんなものに投資してうまく行くはずがありません。
会社の利益が一定でそれが永遠に続くなら、会社をクーポンが一定の永久債だと見ることができます。であるなら、会社の価値はつぎのようになります。ただしrは投資に期待する利回りです。
価値より値段が安いものに投資すべきですから
整理すると
式①の右側部分は、会社の値段を分母にしたROAです。そして式①の意味は、「会社の値段を分母にしたROAが自分の期待する投資利回りより高ければ、投資を決定すればよい」ということです。
ここで会社の値段をどのように計算するか、それが問題になります。
考え方はいくつかあって、有力なものとしては、
- 負債総額と株式時価総額の合計
- 有利子負債と株式時価総額の合計
- ネット有利子負債と株式時価総額の合計
などです。
いずれも一理あるのですが、私がお勧めするのは3です。これは実際にその会社を買収しようとしたときに必要な金額です。また、これで求めたROAは業種を超えてある程度一律に比較できます。分子の利益は便宜上経常利益を使います。そうすれば会社四季報を用いても計算できます。
次回はこれを使い、具体例にあたってみたいと思います。
金融リテラシー講座 第18回 ROAがどの程度なら投資してよいか? ROAとROEを算出する②
フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生
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