木村喜由のマーケット通信
使えるお金が減っては景気悪化も当たり前
アベノミクス強調は自殺点
*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
株価とドル円相場は上がったが、それによる資産効果の恩恵を受ける層は比較的少数である。大多数の国民は、賃金が若干上昇したものの、増税と社会保険料引き上げ、各種経費の増加で、自由に使えるお金(統計で言う可処分所得よりも狭い)が減ってしまっているのだ。一方で物価は上がっているので、消費が落ち込むのは当たり前なのである。
安倍さんは「アベノミクスをこのまま続けさせてくれ」と主張して選挙戦を戦うつもりでいるようだが、老婆心ながらそれはおやめなさい、といってやりたい。アベノミクスを強調すると、気が付かずにいた大多数の国民に、自分の身の回りの経済状態を真剣に見直すきっかけを作ることになり、おそらく国民の8割程度はけして状況がよくなっていないことに気付くはずである。自殺点を蹴り込むのに等しい愚かな行動なのである。
エネルギーコスト増を回避するための原発稼働策
今週の日経ビジネスに興味深い記事が載っていた。NPO社会保障経済研究所の石川和男氏のスペシャルリポートだが、追加国民負担ゼロで再生エネルギー市場を救う秘策があるというのだ。石川氏の立場は筆者とはやや違い、再生エネルギー支援の観点から先の5電力会社によるメガソーラー電力の突然の買取り拒否という事態の打開策を提示したものである。
何度か書いているように、筆者は原発を再稼動させないと福島原発処理の費用が出来ない上に、べらぼうに発電コストが上がって電力料金が上がり、財政的にも個人消費、国際競争力の点でも悪いことばかりなので、安全性の高いものから早急に再稼動を進めるべきだと主張している。お金があれば事態処理を早く進める道が見つかるはずで、馬鹿げて高い労務コストを節約するためにも有効だと思う。
経産省の直近の報告書によると原発停止による火力発電への代替によるコスト増は今年度までの4年で12兆7000億円。今年は3兆7000億円。一方、再生エネルギーの全量買取り制度が実施されると2兆7000億円の費用増(消費者が負担する賦課金総額)となり、合計で6兆4000億円ものコスト増となる。消費増税3%を上回るダメージなのである。こうした負担がのしかかってくるのはむしろこれからなのだ。
石川氏は再生エネ買取りストップの原因である送電網の未整備を改善しつつ、それに伴うコスト増を吸収する秘策を提示した。氏の試算では東電の柏崎刈羽、関西電力の大飯・美浜・高浜の4原発だけ、操業再開して稼働率を諸外国並みの90%に引き上げると、年間2兆円もの利益が発生し、諸々のコストが吸収できるという。せっかく投資されたソーラー発電所は稼動されるべきだし、原発も有効に利用されたほうがよいに決まっている。
この事実は、緊急避難的措置として原発の再稼動と高稼働率を容認すれば、財政にもよく、国民の実質所得が増えて増税のダメージを克服出来ることを示すものである。
JPX400先物は滑り出し順調
今週から日経JPX400の先物取引が開始されている。初日の取引は7万枚、売買代金で919億円だったそうだが、原資産のJPX400連動型ファンドの総額がいろいろひっくるめても1兆円前後しかないことを考えると、順調な滑り出しではないかと思う。今後ファンド総額は急ピッチに拡大して行くであろうし、それに伴い各種のヘッジニーズも高まるであろう。1単位が株価の1万倍なので128万円前後と小口投資家でも利用でき、先物を利用することで、急騰急落時に指値注文をして必要量を機動的に売ったり買ったりすることも出来る。
何より、あまりに投機的になってしまった日経225よりも動きがマイルドで、各種の投資指標面からも格段に優れているため、真面目な投資家の長期投資ニーズにも耐えるものであり、いずれ日経225をベースにしている現在の株くりっく365に取って代わることになると思っている。
長期投資にも、企業経営にもプラス
例えば現在の日経225の予想PERが21倍であるのに対し、JPX400は14.5倍前後と見られる。配当利回りだって2~3割高いであろう。銘柄入れ替えによるロスは避けられないものの、銘柄選択にさんざん頭を使う労力を省くことが出来、定常的にROEが高く一定以上のサイズの銘柄に更新されるメリットは大きい。
米国の運用担当者は株式運用のベンチマークとしてS&P500を中心に用いているが(このほかMSCIや小型株専用の指標を補助的に利用しているだろう)、日本でもTOPIXのように銘柄数が多すぎるうえ質の低い銘柄もかなり含まれているなど、いくつも弱点を抱えるインデックスをベンチマークにするより、銘柄数がある程度限定されているJPX400の方がずっと扱いやすいはずである。
企業側の行動も急速に変わりつつある。JPX400に選定されることを目指すと公言する社長が現れているように、これが登場して以来、経営効率や株主還元に配慮する経営者が増えていることは喜ばしい。入れ替えがあるということがよい緊張感を与えるのもよい。サッカーのJリーグだって、定期的に入れ替えるルールがあるからこそ面白くなる。それに引き換え万年ビリッかすの東大を抱え続ける東京6大学の学生野球の緊張感のなさはどうしたものだろう。早く東大を除外して、東都リーグ優勝校にリーグ移動の選択権を与えるとした方が10倍は面白くなるだろう。
実はプロ野球も、日本シリーズ優勝チームは相手方最下位チームと交換でリーグ移動できる選択権を与えるべきだと思っている。セリーグ下位チームの目の色が変わるぜ。
Vol.1251(2014年11月27日)
(了)
関連記事
-
世界景気は減速しそうだが米国は連続利上げへ
木村喜由のマーケットインサイト日本の株式市場は堅調だが、世界的に見ると大荒れの前兆現象が見られ、先行きは楽観できない。 前回
-
「マクベス」と利上げ見送り後の“二番底”形成材料は
先週は「ヴィンセントが教えてくれたこと」「黒衣の刺客」「天空の蜂」の三本。ただ書きたいテーマとの関係
-
歌舞伎「マハーバーラタ戦記」と軟調がつづく原油相場のもたらす思惑。日本の個人投資家がもたらす新高値
歌舞伎「マハーバーラタ戦記」と軟調がつづく原油相場のもたらす思惑。 日本の個人投資家がもたら
-
大井リポート
エネルギーもスマホ化する
技術革新が牽引する成長と変化セイル社代表 大井 幸子 四半世紀前の1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、その後、世界は根
-
ミュージカル「ラ・マンチャの男」と日経平均の底値と反転とそれぞれの目標値(第983回)
このミュージカルは松本白鴎丈が染五郎、幸四郎時代から、私は5,6回観て いる。一回はアムステル