木村喜由のマーケットインサイト
株価はレンジ切り上げへ
放っておいても株に資金流入

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

<2015年2月号>

日経225は先週一時18,000円を突破、TOPIXは12月高値を抜き2007年12月以来の水準となった。年初から外国人が1兆4千億円ほど売り越すなかでの株価堅調は、日銀とGPIF(公的年金ファンド)の積極買いによるものだ。

GPIFが債券から株へ組み換え、円安・株高

この背景にはドル円の上昇傾向もある。最近は貿易収支が大幅に改善し、本来なら円高圧力として働くはずだが、同じくGPIFと見られる外国株投資が年初から2兆円近くに及んでいる。一方で債券利回りは上昇しており、GPIFが積極的にポートフォリオの組み換えに動いていることが窺われる。

GPIFは10月末に新組み入れガイドラインを発表、株式と外貨資産の比率を大幅に引き上げた。本来なら目標の組み入れ比率達成まで2-3年掛け、段階的に行うべきところだが、債券利回りがゼロ近い現状では、待っていても得るものはほとんどなく、それなら配当利回り2%近い株式を今のうちに買った方がよいという計算が働く。今年は日銀が買うし、自社株買いも増加しそうで、どうせ買うなら前倒しした方が得だ、という結論なのだろう。

今後1年、企業収益には強い追い風

13日で12月終了の四半期決算の発表がほぼ一巡したが、石油・総合商社などに原油価格の大幅下落に伴う巨額の評価損・減損があったものの、全体としては増額修正優勢で終わった。筆者の計算では、98%終了時点で損益計算書に現れない項目も含んだ日経225採用企業の包括利益ベースの過去1年間のROEは14.0%だった。円安と株高による株主資本の押し上げが大きかった。

すなわち、企業のファンダメンタル価値は急速に上がっており、一方で債券のインフレ修正後リターンはマイナスだったから、資産シフトを急いだことは全く合理的な判断といえる。これは株式発行企業においても同じことであり、手元流動性を抱えているぐらいなら、どんどん自社株買いを進めたほうが株主の利益につながると言えるのである。

しかも、原油安による日本全体のコストダウン効果が年間7兆円以上と推定され、これが1-3月期から急速に拡大すると考えられることから、少なくとも今後1年程度は企業収益に強い追い風が吹くことになる。預金にも債券にも魅力がないから、放っておいても株に余裕資金が流入する構図が見える。

米国は株高でもドル高でダメージ大

米国株価は過去最高を更新してきたが、足元の利益予想は低下している。長期金利は再び上昇、ドル高も再燃しており、円安で日本企業のファンダメンタルズが好転したのと同じ理由で、米国企業のファンダメンタルズは悪化している。むしろ国際展開が進んでいる分、米国の方がダメージは大きいかもしれない。

1月の米雇用統計は市場予想を上回り、前月までの分も大幅上方修正となり、一時は先送りと思われた6月利上げ開始説を当初想定に引き戻した。一方で欧州はデフレ懸念が強まり、日銀には及ばぬものの従来の枠を踏み出す超金融緩和を開始していた。

扇動ヘッジファンドのターゲットは欧州

ヘッジファンドなどの投機資金は、ニュースに反応しやすい投資家を煽動する方向に動く習性があり、米国QEと2回の黒田バズーカの経験から、ユーロ下落と欧州株高のスパイラルが起きると読んで大規模なポジションを作っている。確かにユーロ安は欧州株高を促すが、日米株に比べるとインパクトは小さいと思われる。そこにギリシャとウクライナの問題が緩和の方向に動いたことで、投機筋が大きく動いている。

ロシアが停戦しなければ原油は新安値へ

ウクライナに対しては、独メルケル、仏オランド両首長がロシアとの停戦仲介に乗り出した。財政資金の半分を原油・天然ガスに依存するロシアは最近の値下がりでこのままでは財政破綻が時間の問題のため、ロシアが妥協するのは必至の情勢で、それを当て込んで原油相場は安値から3割近く戻した。株も債券もこれを見て急変動しているが、もしロシア系が停戦公約に違反すれば直ちに原油相場は新安値に向かうだろう。

ギリシャ新財務相は“トロイの木馬”?

ギリシャは左派系新政権が誕生、国民の支持をバックに強硬姿勢でトロイカ(欧州連合・ECB・IMF)に金融支援の条件緩和を求めているが、トロイカ側の認識ではすでにギリギリの緩い条件まで譲歩しており、3年前の合意ではギリシャ国債の元本53.5% (利子合算ではほぼ70%)の債権放棄がなされている。今回の緩和要請はまさに盗人が追い銭を要求しているようなものだが、ギリシャ財務相となったバルファキス氏(現国籍は豪州)という人物が米系財界学会に強い人脈を持っており、同じパターンで米国で人脈を築き東欧諸国で財務相になり市場との仲介役となったケースの類推から、バルファキス氏は「トロイの木馬」でギリシャ政権側を裏切って市場筋が歓迎する結果をもたらすのではないかとの説が広がり、ここ数日市場が急騰している。

時間稼ぎの末、一時ショック安となる

筆者は市場は楽観的に過ぎ、「損失を実質全額負担するドイツが妥協することはなく、すったもんだの挙句、バルファキス氏は多少の時間稼ぎを獲得するだけに終わる。市場は失望するだろうが、予想範囲なので一時ショック安となっても大きな波乱はない」と見る。押し目買いでよいだろう。

(了)

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