投資家保護のバランスは永遠の課題
落語「寿司処・錦湧兆(きんゆうちょう)」【下】五味廣文・元金融庁長官
JAIIセミナーレポート
公開日:
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最終更新日:2016/04/25
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2月25日に開かれた日本個人投資家協会創立20周年記念セミナーのレポートです。
冒頭で落語家「木村亭きよし」こと木村喜由理事が披露した「寿司処・錦湧兆(きんゆうちょう)」を上編でお届けしました。投資家保護を名目に煩わしくなるばかりのリスク管理を、寿司屋を舞台に茶化した落語ですが、ゲストの五味廣文・元金融庁長官が講演の前段で見事に受けてくださいました。
(五味廣文・元金融庁長官)
なぜ行政が金融に関与するかというと、バイサイドとセルサイドに情報格差があるなかで補う必要があるからです。
リーマンショックの時に問題になった証券化商品やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ、デリバティブ取引の一種)では規制はありません。なぜかというと、プロとプロとが相対で取引する商品だからです。プロ同士には情報格差がありませんから、だまされたら自分の責任です。行政が介入して、あらかじめ書面を交付しろ、などと言ったら金融取引が円滑にいきません。
行政はド素人のバイサイドの代理人
CDSは一種の損害保険です。一般の損害保険を売る時に何も言わないかというと、役所の猛烈な規制がかかっています。保険として適切に設計されているかどうか、認可を受けなければ売れません。保険事故が起こった時に支払うための責任準備金の積み立ても法律で決められています。ものすごい介入です。
CDSはプロ同士で取引します。それに対して損害保険は不特定多数のド素人に対して売ります。数理もわからない人たちに売るから、バイサイドの代理人として行政が介入して情報格差を埋めるのです。
だからプロ同士の取引に介入する落語が面白いのです。
行政の介入は、バイサイドの金融リテラシーがどの程度かによって変わってきます。セルサイドが、法令とは別にプロとしてやっていなければならない自主規制とは、相手がどのような資質なのかを見極めて情報提供しているかどうかです。
どうして規制は細かくなるのか
日本ではどうして細々決めるのかというと、最も低いリテラシーの投資家に合わせて設計すると、細かくなるのです。これは金融行政のなかでも市場行政をやる人間の永遠の課題です。何かあると文句をいう人は必ず出ます。損する時だけ大きな声で叫び、得したら税務署にも黙っています。金融庁も楽しくてやっているわけではありません。
昔、塩川正十郎財務大臣が怒っていました。銀行に投資信託を買いに行ったら、「70過ぎた年寄りが一人で来ても売れない」と言われたというのです。「家族と一緒じゃなければだめと言われても、息子は金融のことを何も知らない。五味くん、どうしてこんな規制を作るんだ」と。私は申し上げました。「いや、作っていません。銀行が後から問題が起きないように作ったんでしょうね。老後の資産を全部投信に、という客は何時間かかっても止めなければなりませんが」。
投資家保護が過保護になり、コストになる
市場に介入する行政は難しいです。保険だと情報格差が決定的だとはっきりしています。市場には本来、ディスクロージャーと不正行為の取り締まりがきちんと出来れば、ああせい、こうせいと言う必要はないのです。市場の信認と、市場の自由はトレードオフです。投資家保護のためにやっていることが、どこかで過保護になります。コストがかかり、投資家にとって不利益になります。
投資教育や金融教育を子どもの頃からやればいいと言われますが、文部科学省の人が言うには、学校の先生は金儲けが嫌いで汚いことだと思っているので、その教育はしないのだそうです。欧米でも悩んでいますが、算数で金利計算や割引現在価値計算を例題に取り入れたり、それなりにやっています。学校から始めるのは大事だと思います。
(セミナーレポートはまだまだ続きます)
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