基本の話by前田昌孝(第55回、日経平均の問題点②)

2027年7月の株式相場も大揺れでした。日経平均株価は6月末の7万0062円32銭から7月末の6万4362円02銭まで8・14%下落しましたが、日々の騰落率からプラスマイナスの符号をとって合計すると、39・63%にもなっています。オーバーシュートやアンダーシュートの繰り返しにも、日経平均の歪みが表れているとの指摘があります。どういうことでしょうか。

 

TOPIXの1・7倍の激しさで騰落

日経平均の日々の騰落の激しさは、米国のAI・半導体株の騰落を反映しているだけで、歪みとは関係ないのではないかという指摘もあるかもしれません。ただ、東証株価指数(TOPIX)と比べてみてください。TOPIXは7月には0.21%上昇しましたが、日々の騰落率からプラスマイナスの符号をとった値を合計すると、23・06%になりました。

騰落率の合計の差は、それだけ日々の日経平均がTOPIXよりも激しく動いたことを示しています。6月も日経平均の騰落率の合計は40・67%とTOPIXの24・11%の約1・7倍でした。日経平均はTOPIXに比べて「敏感」な株価指数になっているようにみえます。

敏感さはごく最近に目立ってきた現象なのか、昔から起きていたのかをもう少し詳しく調べてみましょう。日々騰落率の絶対値を1年分合計した値を営業日数で割ると、1日当たりの変動率が算出できます。その1980年から2026年までの推移はグラフのようになっています。

1989年までは両者の変動率に大きな差がありませんでしたが、1990年から2004年までは日経平均がTOPIXに比べ、大きく変動する年が続きました。その後、2019年ごろまでは両者の変動率はほぼ同じでした。2020年以降はだんだんと日経平均の変動のほうがTOPIXよりも大きくなってきました。

同じ率だけ上昇しても差が出る

なぜ日経平均の変動率がTOPIXよりも大きく出る理由の一つは、構成銘柄数に違いがあるからです。日経平均は225銘柄で構成していますが、TOPIXは6月末現在1638銘柄で構成しています。日経平均に採用されていないTOPIX採用銘柄の株価の動きが鈍ければ、日経平均の変動率のほうが大きくなりそうに思えます。

ただ、日経平均非採用のTOPIX採用銘柄は全部で1414銘柄ありますが、TOPIXの計算でこれらの銘柄が占める割合(ウエート)は20・14%にとどまっています。銘柄数は多くても、これらの銘柄の存在が1980年以降のTOPIXの変動率を日経平均よりも小幅にしている最大の要因とは考えにくいです。ほかにも株価指数の変動率を左右する要因があることをうかがわせます。

指数の計算方法の違いが影響している可能性もあります。日経平均は平均株価型の指数ですから、値がさ株など平均株価を押し上げる力を持った銘柄が大きく上昇すると、日経平均の上昇率は高くなりがちです。TOPIXは時価総額ベースの指数ですから、時価総額の大きい銘柄の上昇率が高いと、その影響が強く出ます。

表は日経平均とTOPIXの構成銘柄をウエートが高い順に20位まで書き出したものです。6月末時点の状況です。日本を代表する2つの株価指数ですから、ウエート上位20社の顔触れは似たようなものではないかと思われるかもしれませんが、実際にリストを見ると、両方に顔を出しているのはわずか7銘柄にとどまっています。

共通銘柄もウエートがかなり異なります。日経平均ウエートが11・14%にもなるアドバンテストはTOPIXウエートが1・75%にすぎません。TOPIXウエートが3・57%になる三菱UFJフィナンシャル・グループは日経平均ウエートがわずか0・15%です。

指数の計算方法に違いがあるから、日経平均は値がさ株中心、TOPIXは時価総額の大きい銘柄が中心という具合に、ウエートベスト20の顔ぶれが変わってくるのです。ここ数年はハイテク株など値がさ株が大きく動く相場が続いたので、日経平均の変動率がおのずと高くなってきたのでしょう。

算術平均が幾何平均よりも大きいからか

ただ、前段のグラフを振り返ると、ほとんどの年で日経平均の変動率がTOPIXの変動率を上回っていたようにみえます。正確にいえば、1980年以降でTOPIXの変動率のほうが大きかったのは、1986年から89年までの4年間と2007年だけで、しかも上回った度合いはわずかでした。

値がさ株主導の相場がずっと続いていたわけでもありませんし、日経平均非採用のTOPIX採用銘柄の値動きが常に日経平均採用銘柄に比べて鈍かったわけでもありません。それでもなぜ日経平均の変動率がTOPIXの変動率を上回った年が大半だったのでしょうか。

日経平均は株価の平均値をもとに算出した指数、TOPIXは浮動株ベースの時価総額の変化をもとに複雑な計算をして出す指数ですから、相加平均(算術平均)は必ず相乗平均(幾何平均)よりも大きくなるという大原則と関係あるのかと想像する人もいるかもしれません。

相加平均とは足して要素数で割る平均値です。要素がAとBの2つなら、AとBの和を2で割るのが相加平均です。相乗平均の計算は掛け合わせて、要素の数だけの累乗根をとります。AとBを掛けて平方根をとれば、AとBの相乗平均が計算できます。

ただ、日経平均の変動率がかなりの確率でTOPIXの変動率を上回っているのは、相加平均や相乗平均とは関係ありません。確かに日経平均は構成銘柄の株価を合計して構成銘柄数で割るという相加平均の考え方がもとになり、その後、さまざまな修正が施されて今日の形になりました。

TOPIXは個々の要素のデータをすべて掛け合わせ、要素の数だけの累乗根で割って計算しているのではありません。構成銘柄の浮動株ベースの時価総額を合計して構成銘柄数を割っているだけです。片や株価、片や時価総額と足しているものには違いがありますが、TOPIXも相加平均なのです。

日経平均が大きく変動する理由はあるか

すべての銘柄の株価上昇率(または下落率)が同じならば、日経平均の変動率がTOPIXよりも大きくなる理由はありません。上場企業がAとBの2社しかなくて、この2銘柄から日経平均とTOPIXを計算していたと仮定してみましょう。

Aの発行済株式数はBの10分の1だけだが、AもBも株価に発行済株式数を掛けた時価総額は同じだとします。つまり、Aの株価はBの10倍というわけです。また、どちらも時価総額の増加ペースは、名目経済成長率と同じだとします。

もし名目経済成長率が10%ならば、Aの時価総額もBの時価総額も10%ずつ増えますから、TOPIXは10%上昇します。A、Bともに時価総額が10%ずつ増えるのならば、Aの株価もBの株価も10%上昇することになりますから、その平均値も10%上昇します。この限りでは日経平均とTOPIXの上昇率に差はありません。

とすると、値がさ株相場ならば日経平均のほうが変動率が大きいことは確かだとしても、毎年、値がさ株相場が続くわけではありませんから、日経平均の変動率がほぼ常にTOPIX変動率よりも大きく、仮に負けたとしてのその差がわずかにとどまってきたのは、不思議に感じます。理由はどこか別のところにありそうです。

4銘柄で日経平均の38%を左右

以下は一つの仮説ですが、前段で示したウエート上位20銘柄のランキングを振り返ると、日経平均はアドバンテスト、東京エレクトロン、ファーストリテイリング、ソフトバンクグループの上位4銘柄だけで、ウエートの合計が38・57%にも達しています。日経平均連動のインデックス運用の投資信託などに新たな投資資金が入れば、その資金の38・57%はこの4銘柄の購入に振り向けられることを意味しています。

といっても日経平均採用225銘柄の1つ1つにウエートに応じた資金が入るというだけでは、4銘柄がとりわけ上昇しやすい理由にはなりません。

この4銘柄のウエートが極端に高いことは、日経平均先物やオプションを投機目的で売買する一部の機関投資家が、取引の利益を確定するための清算価格を自らに有利に運ぶために、この4銘柄を集中的に売買しているのかもしれません。あまりにウエートが一部の銘柄に偏っているため、これらの銘柄には買い注文が入りやすい可能性があります。

株価は中長期的には買い注文と売り注文のどちらが多いかといった需給よりも、業績などのファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を反映した水準に落ち着くでしょうが、買い注文が多い状態が継続すると、ファンダメンタルズで説明できる値上がり率よりも大きく値上がりする傾向が高まりそうです。

実際、東証プライム市場上場で、6月末現在の株価が1万円以上の銘柄は全部で40銘柄あり、このうち日経平均採用が18銘柄、非採用が22銘柄でした。採用18銘柄の株価の年初来騰落率の平均値はプラス39・8%と、非採用22銘柄の平均値のプラス36・3%を3・5ポイント上回っていました。

実は採用銘柄の平均年間騰落率が非採用銘柄の平均年間騰落率を上回る傾向は、東証が売買単位を100株に統一した2018年以降、毎年繰り返されています。株価はさまざまな事情で動くうえにサンプル数が40程度と少ないため、ここまでの分析結果をもとに、日経平均採用の値がさ株は値上がりしやすいと結論づけるのは尚早でしょうが、4銘柄のウエートが極めて高いことが投機資金を呼び込み、自己実現的に株価を押し上げ、変動率も高めている可能性はある程度、認めていいかもしれません。

ダウ式修正からみなし額面方式へ

前回(第54回=7月1日公開分)の本稿では、かつては日経ダウと呼ばれていた日経平均の計算方式が2005年に大きく変わった経緯を説明しました。りそな銀行は5月25日に1000株を1株に併合する方針を発表しました。従来通りのダウ式の修正ならば、インデックス運用の投資家がりそな銀行への等株数投資の状態を維持するため、株式併合の基準日の前日に保有株式数を1000倍にしなければならないところでした。

こんな売買は現実的にはできませんし、仮に実行したら、日経平均の構成に占めるりそな銀行のウエートが高くなりすぎて、日経平均が事実上壊れてしまいます。日本経済新聞社が窮余の策として、りそな銀行株のみなし額面を50円から1000倍の5万円に引き上げて、インデックス運用の投資家が何の売買をしなくても、日経平均への連動性を失わずにすむようにしたのです。

しかも日本経済新聞社は2005年6月7日に、一連の措置をりそな銀行の株式併合に限った特例とせずに、その後の大幅株式分割や株式併合についてすべて適用すると発表しました。この発表は日経平均の計算方式が、米ダウ平均が使っているダウ式修正から離脱することを意味しています。

当時、一口に株式分割といっても、株主に保有株の10%程度の株式を無償で割り当てる小幅株式分割と、株価水準を下げ、小口投資家が売買しやすくすることを目的にした大幅株式分割に大別されていました。

日本経済新聞社の発表は1対1・5以上の株式分割や株式併合は、みなし額面を変更し、1対1・5未満の小幅株式分割は従来通りのダウ式の修正を施すという内容でした。1対2の株式分割ならば、50円だったみなし額面を25円に、1対3の株式分割ならば、みなし額面を「3分の50円」に引き下げるという具合です。

値がさではないのに値がさ株

株式の額面自体は2001年10月1日施行の商法改正で廃止されたのですが、当時、日経平均の計算に当たっては額面の概念が不可欠でした。日経平均は225銘柄の合計株価を除数で割って算出していますが、株価の合計には生の株価を使っているのではなく「50円額面の銘柄に換算した場合の株価」を使っているからです。

みなし額面が50円の銘柄はそのままの株価を使いますが、みなし額面が5万円の銘柄は実際の株価を1000分の1にしたうえで足し合わせます。みなし額面が「3分の50円」の銘柄は実際の株価を3倍したうえで足し合わせます。

以前のように株式分割や併合をしても、額面は変わらないというルールを適用し続けると、株式分割があれば、インデックス運用の投資家はその銘柄を分割比率に応じて売却しなければなりません。企業側から見ると、小口投資家が株式を買いやすいように株式分割をして株価水準を下げようとすると、インデックス運用の投資家から機械的な売りが出てきて、株式分割が罰せられたような感じになってしまいます。

株式分割をみなし額面の変更によって調整すれば、インデックス運用の投資家は保有株数を変更するための売買をする必要がなくなります。企業は株式の機械的な売り圧力から逃れられます。この点だけをみると、いいことだらけのように感じられます。

しかし、株式分割を繰り返した銘柄は実際の株価水準が低いのに、日経平均を計算するときに足し合わせる株価は極端に高くなる可能性が出てきます。値がさではないのに値がさ株と同じように計算されてしまうわけです。

株価換算係数を掛け合わせる

現在、日本経済新聞社は日経平均の計算に当たって、みなし額面という用語を使用していません。株式の額面が廃止されてから20年が経過し、額面時代を知らない投資家が増えてきた2021年10月1日に「みなし額面方式」を「株価換算係数方式」に変更したのです。日経平均の計算手順は変わりませんが、言い方を変えたわけです。

たとえば2005年以降に1対2の株式分割を2回繰り返し、もともと50円だったみなし額面が12・5円になっていた銘柄は、株価換算係数を4とします。株価がP円だったとすると、かつては日経平均を計算するときの株価は概念上、「P×(50÷12・5)」と計算していました。これを単純に「P×4(株価換算係数)」と計算することにしました。

最近は株式分割をする企業のほうが株式併合をする企業よりも圧倒的に大きく、株式分割をすれば株価換算係数は分割比率に応じて大きくなります。ただ、株価換算係数が1以上の銘柄ばかりではありません。0・1の19銘柄をはじめ、1未満の銘柄が79もあります。

かつての500円額面銘柄や、東証が売買単位を100株に統一した2018年10月1日に先立って、議決権を付与する株主が大幅に増えないように、「売買単位を1000株から100株に変更すると同時に10株を1株に併合する」という対応をした企業は、株価換算係数が0・1などになっています。

つまり、日経平均を計算するときの株価は、実際の株価よりも上に伸びるだけでなく、下にも伸びているのです。この換算後の株価のばらつきの大きさが、少数の銘柄の値動きが日経平均を左右しやすい状況をますます強固にしているのです。

ウエートの偏りが投機資金を招くのでは

グラフは横軸に影響度が大きい順から上位100銘柄をとり、縦軸に累積ウエートをとって、どれくらい特定の銘柄が指数を左右しやすいかを、(1)株価換算係数前の日経平均採用銘柄のもともとの株価(2)現実の日経平均で使用している株価(3)TOPIX採用銘柄について公表されているウエートの3系列のデータをもとに示しています。

上位4銘柄までの累積ウエートは単純平均が21・16%、実際の日経平均が37・21%(7月末の値であり、前述の6月末の値とはわずかに異なる)、TOPIXが11・51%です。ダウ式の修正方式を踏襲していれば、上位4銘柄のウエートが21%ほどにとどまっていたのに、独自の株価換算係数方式(旧みなし額面方式)に変更したため、37%強に高まり、わずかな銘柄の集中売買で指数を動かしやすい特徴がより強固になったのです。

TOPIXでも累積ウエートは上位22銘柄で37・8%に達するから、22銘柄を集中売買すれば、日経平均採用の4銘柄を集中売買するのと同じ程度に指数を動かせるのではないかと思われるかもしれません。しかし、TOPIX採用銘柄のウエートは浮動株ベースの時価総額が大きい順になっていますから、株価を動かすのはたいへんです。

投機筋には圧倒的に日経平均のほうが取り組みやすく、株価換算係数方式の採用でその状況に一段と拍車がかかっています。

先物・オプションの最終決済価格(特別清算指数=SQ)は、押し上げたい投資家も押し下げたい投資家もいるので、特定銘柄に売買が集中することは確かだが、必ずしも株価が高まる方向には働かないのではないかとの見方もあるでしょう。

しかし、株式市場ではそもそも投資家間の綱引きで株価が上下に動きやすい銘柄は、株価が凪のように動かない銘柄に比べて、短期的な価格変動による利益を求める投機資金が集まりやすい傾向があります。

問題点は日本経済新聞社も認識

日本経済新聞社も特定の銘柄のウエートが高すぎることによって発生する弊害を認識していることは確かです。2022年10月から個別銘柄のウエートに上限を設ける「ウエートキャップ制」を導入しました。当初の上限は12%でしたが、2024年10月以降は10%に設定されています。

このルールに基づき、2026年4月1日からはアドバンテストの株価換算係数が自然体の0・9倍の水準に引き下げられました。さらに10月1日からはこの「キャップ調整比率」が0・8に引き下げられることも決まっています。

ただ、ウエートが上限を超えているかどうかの判定日は毎年1月末と7月末だけですから、株価次第でそれ以外の日々にはウエートが上限の10%を超えることは、十分にあるでしょう。上位4銘柄の累積ウエートが37%強という現状を放置し、株価指数の設計が投機資金を過度に招くような事態は好ましくありません。

市場関係者のなかには、株価指数としてはTOPIXのほうが合理的だが、日経平均は著名であるだけでなく、操作しやすいため、人気が衰えないと語る人もいます。しかし、操作しやすい指数などというのがあっていいのかどうか、冷静に考えるべきではないでしょうか。今回も長くなりましたので、続きは次回以降に掲載します。(マーケットエッセンシャル主筆)


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