基本の話by前田昌孝(第56回、日経平均の問題点③)

日経平均株価にさまざまな問題点があるのならば、時間を掛けてでも修正すればいいのではないかと感じる人も多いのではないでしょうか。日本経済新聞社が取り組んでいる指数事業ですから、自らも正すべきことは正す姿勢が大切でしょう。ところがなぜか放置されているようにみえます。なかなか着手できないのは、さまざまな事情が重なって「金縛り状態」になっているからかもしれません。

平均株価型は米国と日本だけ

株価指数には平均株価型と時価総額型の2種類があることは、前々回の本欄でも説明してきました。ただ、現在の世界標準は完全に浮動株ベースの時価総額で加重平均する方式に移っていて、平均株価型で算出しているのは米国のダウ工業株30種平均と、日本の日経平均ぐらいしかありません。

各国の代表的な株価指数だけでなく、補助的な指数まで少し範囲を広げて調べてみましても、ダウ輸送株15種平均、ダウ公共株15種平均、ダウ公共・輸送・工業複合平均、日経500種平均株価(傘下の日経業種別平均を含む)など日米の株価指数に限られています。

2013年に大阪証券取引所が東京証券取引所と統合する前までは大証修正株価平均がありました。2022年にジャスダックが東証マザーズとともに東証グロース市場として再編されるまでは、日経ジャスダック平均株価も日々、計算されていました。両指数はともに市場の消滅で廃止されています。

世界の90以上の取引所の指数のうち、米国のダウ4兄弟と日本の2指数以外はすべて時価総額型でした。東証株価指数(TOPIX)も同様ですが、時価総額型の枠内で、多くの指数は「単純な時価総額を加重平均する方式」から「浮動株ベースの時価総額を加重平均する方式」に変わってきています。

韓国総合指数のように、かつては平均株価型だったのを時価総額型に変更したケースもあります。韓国では1972年から1982年まで株価指数を平均株価型で計算していました。しかし、次第に値がさ株の動きに指数全体が振り回されるようになったため、国際標準の時価総額型に変更したといいます。

新しい韓国総合指数への切り替えは1983年1月4日でした。旧指数の1982年末の水準は120~130でしたが、新指数は旧指数の計算最終日の終値を引き継がずに、1980年1月4日まで遡及計算したうえで、その日の値を100として算出しました。したがって旧指数と新指数との間に連続性はありません。旧指数の算出は1982年末で停止しました。

値がさ株の集中売買の可否

平均株価型の指数が米国と日本に限られているのは、算出方法の欠点を知れば知るほど、使いにくいことが明らかになるからです。第1に値がさ株の影響を受けやすくなります。第2に構成銘柄に株式分割があると、指数の連続性が失われるため、指数が連続性を保つように何らかの計算上の工夫をしなければならないことです。

値がさ株の影響を受けやすくなることは、単に指数の特徴というだけでは足りない複雑な問題を引き起こします。値がさ銘柄を集中売買すれば、指数の価格を動かしやすくなることです。

特に株価指数先物を取引する投資家は、レバレッジ(てこの原理)を活用する、つまり、小さなおカネで大きな取引をしていますから、SQ(特別清算指数)と呼ぶ最終決済価格がどう決まるかによって、損益に大きな違いが出てきます。値がさ株を集中売買すればSQを動かせる状態ならば、トレーダーの心理としては当然、狙いにいきます。

かつては監視も甘かったですが、現在は米国の証券取引委員会(SEC)も日本の証券取引等監視委員会も、先物のポジションを持ったトレーダーがSQの算出に先立って特定の現物株を集中売買していないかなどをシステム的に厳しく監視しています。不正が発覚した場合のペナルティーも大きいため、SQを意図的に動かそうとする取引は割に合わなくなっています。

仮に監視の目をかいくぐって値がさ株の集中売買をしても、何の情報もないのに株価だけが動くような局面では、わずかな値動きでも、高度な売買システムから反対売買の注文が出てきます。こんな取引技術の進歩も、SQを動かそうとする試みの成功確率を引き下げています。だからSQを動かそうという売買自体、もう伝説になっているかもしれません。

株価指数に関連して稼ぐ手法として主流になっているのは、構成銘柄の入れ替えなどに伴ってインデックス運用の投資資金がどういう売買をするかを正確に予想し、先回り買いなどを仕掛ける売買などです。銘柄入れ替えは事前に公表されますから、オープンな情報をもとに売買戦略を練っているだけで、不正取引ではありません。

できるかどうかの問題ではない

しかし、特定銘柄の集中売買で株価指数先物の価格を動かそうとする売買が減っているからといって、指数の計算会社が無罪放免というわけにはいきません。株価指数の設計にスキがあれば、監視の目をかいくぐって何かしようとする市場参加者が出てくるとの懸念はなかなか消えません。特定の銘柄の値動きから大きな影響を受けないような、操作されにくい指数に設計を見直していくのは、計算会社が責任を持って取り組むべきことです。

米国ではダウ平均を計算しているS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが平均株価型で指数を計算する弱点を踏まえ、いくつかのディシプリン(規律)を置いています。

一つは採用している30銘柄のうち、株価が最も高い銘柄と低い銘柄との高低差を10倍以内に抑えることが原則になっています。株価は時価総額と違い、企業の経済的価値を直接、表すわけではありませんから、その平均値にどんな経済的な意味があるのかと問われると、説明は難しいです。

ただ、長期に市場の息吹を伝えてきた指数ですから、簡単に役割を終えたと片付けるわけにもいきません。高低差10倍以内という基準は、少なくとも平均値が数学的に意味がある数値として算出されることを重視しているということでしょう。

9月2日現在の構成銘柄の株価をみると、最高はゴールドマン・サックスの1004・42ドル、最低はナイキの38・24ドルですから、実際には約26倍もの差があるではないかと指摘する人もいるかもしれません。

ただ、10倍という基準はあくまでもめどですから、多少外れても、すぐに対策を講じるわけではないようです。構成銘柄に新規に採用するときに、10倍以内に収まるように注意していても、株価は動きますから、逸脱することもあるでしょう。

少なくとも空証文ではありません。2024年11月8日に実施された構成銘柄の入れ替えでは、インテルが除外され、エヌビディアが採用されましたが、インテルが外れたのは長年の業績不振で株価が低迷し、構成銘柄のうち最も株価水準の高い銘柄に比べて20分の1未満になってしまったからです。

エヌビディアもダウ平均に採用される前は株価が1000ドルを超えていて、そのまま入れると、指数に極めて大きな影響を与えてしまいます。ダウ平均への採用も目的の一つだったと思いますが、エヌビディアは2024年6月10日に1対10の株式分割を実施しました。株価水準が約10分の1になったのを踏まえて晴れて採用銘柄になったのです。

アップルの株式分割で起きたこと

ダウ平均は構成銘柄の株式分割に対しては、指数の連続性を維持するため、除数を変更して調整することにしています。構成銘柄の株価の合計値が減るのに比例するように除数を小さくし、合計値を除数で割った値が変わらないようにするのです。

この計算方式が要するに「ダウ式修正」というもので、手作業で計算できるため、コンピューターがない時代には極めて有効でした。いつまでも30銘柄の株価の平均値をもとにした指数であるという状態を維持できることが大きなメリットでした。

その一方で2つの問題が発生します。1つは株式分割を実施した銘柄の指数への寄与度が分割比率の分だけ低下することです。たとえばアップルは過去に5回の株式分割をしています。1987年6月16日、2000年6月21日、2005年2月28日の3回は1株を2株にする分割、2014年6月9日は1株を7株にする分割、2020年8月31日は1株を4株にする分割でした。

このうち1株を7株にした2014年のケースでは、分割前までは1株650ドル程度で推移していた株価が分割によって90ドル台まで低下しました。この結果、アップルの株価が前段で説明したエヌビディア同様、ダウ平均に採用可能なレンジに入りました。ダウ平均のアベレージ委員会は2015年3月にAT&Tの除外とアップルの新規採用を決めました。

2020年8月の1対4の株式分割ではアップルの株価が約500ドルから4分の1の約125ドルに低下しました。これで何が起きたかというと、ダウ平均に占める情報技術(IT)セクターのウエートが約28%から約20%へ大きく下がったことです。

ダウ平均の構成銘柄は輸送と公益事業を除く米国の主要産業を代表する30社にするという決まりがあります。米国にとって重要なITセクターの構成比を低下させたままだと、ダウ平均は米国経済の息吹を伝える指数からずれる恐れがあります。

このウエートの目減りを是正するため、アベレージ委員会はアップルの株式分割の効力発生日である2020年8月31日にファイザー、レイセオン、エクソンモービルを除外し、セールスフォース、ハネウェル、アムジェンを新規に採用するという大規模な調整をしたのです。

ファイザーとアムジェンは同じヘルスケア分野の企業ですが、この入れ替えでは伝統的な製薬会社で株価も低迷していたファイザーを、株価水準も高い最先端のバイオテクノロジー企業に入れ替え、米国経済でのバイオ技術の台頭を反映するような指数にしました。株価が高い銘柄ほど指数への影響度が大きい点も当然、計算に入れていました。

このことをよくかんがえてみると、ダウ平均は30銘柄の企業価値の変化を単純に反映させた指数ではなく、企業価値の変化よりも、良い点も悪い点も含め、平均株価として計算を続けることを重視した指数だということがわかります。

アベレージ委員会の役割

アベレージ委員会という会議体の名前を出しましたが、これはダウ平均の構成銘柄を決める司令塔です。日本では「選考委員会」と表現されることもありますが、英語では「アベレージ・コミッティー」です。メンバーは5人。3人は指数の計算会社のS&Pダウ・ジョーズ・インデックスの代表、残り2人は有力経済紙であるウオールストリート・ジャーナルの編集部門の幹部が務めています。

ダウ平均を計算しているS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスには、S&P500などダウ平均以外の主要指数の取り扱いを決める「インデックス委員会」という組織もあります。これは全員がS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスのフルタイムの専門スタッフ(エコノミストやアナリスト)で構成しています。

なぜアベレージ委員会とインデックス委員会という別々の組織があるのは、ダウ平均は選考者の定性的な判断をもとに採用銘柄を決めるという、いわば「アート」な株価指数であるのに対し、S&P500などは時価総額や流動性などの数値基準をもとに、機械的に定量的に採用銘柄を決める「サイエンス」な株価指数だからです。

アベレージ委員会の5人の氏名や役割分担は公表されていませんが、ウオールストリート・ジャーナルは米国経済の息吹を伝えるビジネスですから、どんな企業がダウ平均の構成銘柄にふさわしいかを提案する立場ではないかと想像できます。指数計算会社の代表はその銘柄入れ替えを実施した時に、株価の高低差が10倍以内に収まるか、業種の偏りが是正されるか、米国経済を真に代表する指数になるかなどをさまざまな角度から検討し、意見を述べる立場ではないでしょうか。

電撃発表で先回り売買を抑制

ダウ平均の銘柄選定での非常にユニークな特徴は、銘柄入れ替えが突然、実施されることです。日経平均は毎月4月1日と10月1日に採用銘柄の定期入れ替えをしていますが、ダウ平均の入れ替えに決まった期日などはありません。もちろんアベレージ委員会の開催日や議題は極秘になっています。

最近では6月29日にベライゾン・コミュニケーションズが除外され、代わりにグーグルの親会社のアルファベットが採用されました。これでマグニフィセント・セブン(M7)と呼ばれる米国の巨大ハイテク企業7社のうち5社がダウ平均の構成銘柄になりましたが、この銘柄入れ替えが発表されたのは6月23日でした。

突然、発表する大きな目的は市場の混乱や不公正な先回り売買を防ぐことです。アベレージ委員会にどんな議案を付すかは事前に十分、検討されていると思いますが、もちろんその情報が外部に漏れることがないように徹底管理をしています。アベレージ委員会が開催され、決定が下されるとその内容は即時に発表しています。

2000年以前には銘柄入れ替えの発表の翌日に実際に入れ替えるといったこともありました。現在は発表から入れ替え実施日まで数日の準備期間を置いています。インデックス運用の規模が極めて大きくなっているため、即座に入れ替えると、除外銘柄の売りと採用銘柄の買いが集中的に発生し、株価が異常値を付ける恐れがあるからです。

インデックス運用が指数との連続性を保つことだけを考えるのならば、入れ替え日の前日終わり値で除外銘柄を売り、採用銘柄を買えばいいのですが、巨額の資金がそんな売買をすれば、除外銘柄の株価は過度に下がり、採用銘柄の株価は過度に上がります。

ダウ平均が指数として連続性を保つためには、新しい除数は従来の除数に「新しい構成銘柄の合計株価」を「従来の構成銘柄の合計株価」で割った値を掛け合わせる必要がありますが、過度に上昇したものを過度に下落したもので割れば、除数の変更倍率が過度に大きくなってしまいます。

銘柄入れ替えには数日の準備日数を置き、インデックス運用をする機関投資家が慎重に保有銘柄を入れ替えられるように整えることが、今の世界標準にもなっています。構成銘柄の入れ替え時にどのように売買をして指数とのトラッキングエラーを極小化するかは、機関投資家の腕の見せどころでもあります。

日経平均は入れ替えルールが明確

日経平均の銘柄入れ替えには定期入れ替えと、採用企業の倒産や組織再編に伴う上場廃止を受けた突発的な入れ替えとがあります。突発的な入れ替えの場合は採用銘柄が外れることがわかったら速やかに発表する必要がありますが、定期入れ替えの場合はスケジュールが決まっています。

春の入れ替えは1月にデータをとり、3月上旬に内容が発表されて4月1日(第1営業日)に実施されます。2026年は3月5日に発表されました。秋の入れ替えは7月にデータをとり、9月上旬に発表されて10月1日(第1営業日)に実施されます。2025年は9月8日に発表されました。

「データをとり」と書いたように、日経平均は「アート」な指数ではなく「サイエンス」な指数です。新規採用銘柄を決めるに当たっては過去5年間の売買代金と、売買代金当たりの株価変動率という流動性を重視してスコア化し、候補銘柄を絞っていきます。定量基準に時価総額は入っていませんが、流動性が高くても時価総額が極端に小さい企業が採用されないように、足切り基準としては利用されています。

業種のバランスは、業種別日経平均株価などで活用している36業種を6つのセクターに集約して、採用銘柄に偏りがないようにしています。6つの業種は表のように、①技術②金融③消費④素材⑤資本財・その他⑥運輸・公共となっています。

定期見直しでは数が不足しているセクターから、最も流動性スコアが高い銘柄を採用し、数が過剰なセクターから、最も流動性スコアが低い銘柄を除外しています。

予測可能によるプラス面も

新規採用銘柄を選ぶ基準が割とはっきりしていますから、プロの市場参加者は数カ月前から次の定期入れ替えではどの銘柄が採用されるかがかなりの確度でわかります。そんなことをすれば先回り売買が発生してしまうと思われるかもしれません。実際、過去には次の候補ということが材料になり、投機的な買いで株価が持ちあげられることがありました。

ただ、日経平均の場合は予測可能性を持たせることによって、市場の混乱を防ぐというメリットも受けています。次にどれが採用され、どれが除外されるかが予測できると、市場参加者はインデックス運用の投資家による売買量などがつかめますから、数カ月前からその需給を織り込みながらの売買をするようになります。

この結果、突然銘柄入れ替えが発表されて、パニック的に売買されるようなことが回避できる可能性が高まります。

予測可能性があるため、入れ替え日にインデックス運用の投資家に売ろうと、あらかじめ候補銘柄を仕込んでおく「裁定取引」も発生します。当日になると、新規採用の候補銘柄を仕込んでいた市場参加者からの売りが出ますから、インデックス運用の投資家はスムーズに当該の銘柄を組み入れることができるわけです。

計算方式の変更との関係

日経平均はかつて日経ダウ平均と呼ばれていました。米ダウ・ジョーンズと正式に商標権契約を結び、ダウの名前の使用権を得ていたのです。そのライセンス契約は1985年5月1日をもって終了しました。株価指数先物などへの展開を目指していた日本経済新聞社に対し、ダウ・ジョーンズが難色を示したためです。

ただ、株式分割などのコーポレートアクションに対して、ダウ式の修正を施す、つまり除数を変更して対応することは2005年まで続けられていました。りそな銀行の1000株を1株にする株式併合に除数を変更して対応するのは不可能だったため、みなし額面を50円から5万円に引き上げて乗り切ったのです。

このとき日本経済新聞社はこれをりそな銀行への緊急避難的な措置とせずに、一般ルール化しました。1対1・5以上の株式分割には除数の変更ではなく、みなし額面の変更で対応することにしたのです。1対1・1や1対1・2といった、従来は無償増資と呼ばれていた小幅な株式分割に対しては、従来通り、除数の変更で対応することにしました。

ダウ平均は「アート」な株価指数だから、複雑な計算はなじみません。あくまでも30銘柄の合計株価を除数で割った平均株価であるという体裁をとり続ける必要があるのです。株式分割をする企業のウエートは低下しますから、ダウ平均には風雪に耐えて計算し続けているという意味では連続性はあっても、構成銘柄の企業価値を追い掛けるという意味での連続性は薄く感じます。

日経平均は「サイエンス」な株価指数ですから、「日経平均は225銘柄を2005年に1株ずつ買った投資家の現在の資産額を示している」と言われると、複雑な計算も連続性重視のために必要なのかと認めざるをえません。新聞社のような公共性を帯びた企業が公表する指数はもっとシンプルであるべきだという指摘はあるでしょうが。

ただ、今の投資家に、「2005年に株式投資をした人の手の内を想像しながら、今の日経平均をみてほしい」などと求めても、「それに何の意味があるの」と返されるのがおちではないでしょうか。過去の消費構造が今も続いているという前提で消費者物価指数を計算しても、生活実感から乖離します。かつてと同一の品物を買ったら今いくらなのかという意味での連続性はあるのかもしれませんが、物価水準を示す指数としては役に立ちません。

どうせ銘柄入れ替えで構成銘柄はじわじわと変わっていくのです。過去に買った投資家の手の内をもとに相場の強弱を判断しても、実感とは乖離します。現実に役に立ってこその株価指数ではないでしょうか。続きは次回に。(マーケットエッセンシャル主筆)


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