JAIIの20年⑤
投資クラブをめぐる攻防
大蔵省のアンドン部屋でやりあう
日本個人投資家協会事務局長 奥寿夫
1995年2月に個人投資家協会が発足して、最初に取り組んだのが投資クラブの普及でした。
投資クラブとは、個人投資家が共同で運用する仕組みです。出し合ったお金の運用方針を話し合いで決めます。目的は投資の勉強で、真剣に勉強するために身銭を切るわけです。
前回述べたように、個人投資家協会設立のきっかけとなったのはアメリカの個人投資家団体の存在を知ったことでした。アメリカには投資クラブも何万とあって参加人員は20万人を超え、個人投資家が基本的な勉強をする場となっています。AAII(全米個人投資家協会)はじめ複数の組織が投資クラブを支援しているといいます。その状況を知るにつけ、日本でも投資クラブを作ろうと考えました。
当時、日本では投資クラブをめぐって、大和証券の経営陣が「証券市場の拡大につながる」と推奨する一方、野村証券は反対したりと業界としてばらばらでした。投資クラブ名義の口座開設を認めるかどうかも各社で対応が分かれていました。
当時の大蔵省証券局は、「投資クラブはまかりならん」という姿勢でした。その理由として、禁止されている仮名・借名取引とみなされること、また投資顧問業法に抵触することが挙げられていました。証券会社で口座を開設できたとしても、複雑な規約を作らされたり、売買の議決について議事録をとらされたりと面倒で投資クラブはあまり普及しない状況でした。
大蔵省証券局と個人投資家協会は投資クラブについてやりとりを繰り返しましたが、向こうは「投資クラブは違法行為だ」という見解を変えず、一度、直接話をすることになりまして、私、奥が個人投資家協会として出向くと、係長クラスが3人出てきて、通されたのは書庫のようなアンドン部屋でした。
相手はあくまで、投資クラブが情報を流すのなら投資顧問業にあたることや仮名借名取引、代表者が勝手に売買を判断すると一任勘定(株取引において銘柄や数量、価格を証券会社等に任せて行うこと)にあたるなどの問題を挙げ、証券取引法に触れる恐れがあるといいます。法律の文面をコピーした分厚い資料のあちこちに蛍光ペンで線が引いてありました。それでも私が、「法に触れる恐れがあるというが、どこにも違法とは書いていない」と主張したので、相手はあきれて顔がひきつっていました。
我々は、「見解に相違があっても仕方がないから、とにかく作ろう」と投資クラブを立ち上げていきました。「文句があるなら出るところ(=司法の場)に出よう」という態度だったので、証券局は悔しく思っていたことでしょう。
行政の態度をころっと変えた〝外圧〟
ところが、思いもよらないことから、行政の態度がころっと変わりました。当時、アメリカとの貿易摩擦があり、非関税障壁が問題になっていました。あるとき、アメリカ大使館から「日本って投資クラブまで禁止しているのか?」という話が出たそうです。
1996年7月末、大蔵省証券局長名で一通の通達が出されました。形式は、日本証券業協会長名で投資クラブについてお伺いをたてたことに対し、証券局長が返事をしたというものでしたが、その実は、日本個人投資家協会の1年にわたる活動が実を結んだのです。
企業のOBたち、趣味の会、スポーツクラブの仲間・・・次々と投資クラブが誕生しました。日本個人投資家協会が指導した投資クラブは多い時で50ほどありました。指導内容は、1人の投資金額は月10万円以内とし、毎月会合を開いて運用方針を決めること。運用は投資クラブ名で行い、役割は分担し、食事などクラブの経費は割り勘とすることです。
実際には毎月の投資金額は1,2万円、クラブの人数は7,8人でやるとちょうどいい勉強になるようでした。そして一度買ったら、少なくとも2,3年は保有します。月に1度しか売買を決めないのですから、目先の運用では続きません。それぞれが新聞などで勉強し、どの企業がおもしろいかを探してきます。
当時、個人投資家はすべてが営業マンと1対1でした。個人投資家同士が結びついて、ともに勉強するということは画期的でした。
10年ほど投資クラブの活動は続きましたが、時代の流れで今は自主運営に任せています。ただ、赤字になって解散した例はありません。どこも大幅に資産を増やしました。
インターネットが普及した現在、投資に関する情報はたくさんありますが、個人投資家は不勉強で、目先の利益を追い、話題の株にとびつくことに変わりはありません。証券界も会社が儲かるために都合のいいことを言うのは変わらず、不勉強な個人投資家は言いなりになっています。
(「JAIIの20年」は5回目の今回でひとまず完結します)
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