【初・中級者向き】映画「ニュースの真相」と情報コントロール
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マーケットEye 今井澂, 今井澂のシネマノミクス
2016・8・28
2004年、CBSの報道番組「60ミニッツⅡ」のスタッフに再選を目指すジョージ・W・ブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑の情報タレ込みがあった。
プロデューサーのメアリー(ケイト・ブランシェット)は他局にさきがけ報道したく、完全なウラ裏付けが取れぬまま放映する。
ところが採用した証拠のコピーをブロガーが偽造と断じ、同業他局も激しく批判報道を続ける。アンカーを務めるダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)はメアリーをかばうが、CBS首脳は内部調査委を設置。肝心の軍歴問題はどこかに飛んでしまい、証拠の確認不正を責められる。出来レースの委員会の結論でメアリーと部下二人は解雇、ダンも契約更改してもらえなかった。米国ではラザーゲートとして知られる事件だ。
今回の映画は原作がメアリーの手記だから不当解雇を糾弾する姿勢だが、やはり情報の正確度には問題があった、とは認めている。
歪曲されるヘリマネ報道
現代の日本の報道番組は、ある調査では7~8%は、例えば情報を与える記者会見とか官庁ごとにある記者クラブを情報源にしている。TV局が独自に取材して番組を作るケースは少ない。だから週刊文春のスクープ連発が光る。
私はヘリマネに対する批判報道は明らかに歪曲化されまた不勉強と、思う。高橋洋一さんが怒るのも当然だろう。必ず「歯止めがきかずハイパーインフレに至る(または可能性大)とオドカす。国際会計基準では「3年間で累積100%(年率3割)の物価」という定義なのも知らない。
また、戦後日本のハイパーインフレを「日銀の国債引き受けが招いた」と耳学問でカンタンに片付けているのがほとんどだ。
戦前の高橋財政は1932年11月に始められた。これで物価は4,5年で15%下がっていたものが卸売物価指数でみると32年から44年で9%上昇。円の対ドルレートは高橋財政前の1ドル2円が一時5円に切り下がり、のちに3円50銭まで円安になった。つれて産業は目覚ましく拡大し、高橋前比で鉄鋼2・4倍、石炭1・3倍、電力1・75倍になった。
これが戦後に悪性インフレ化し、45年は41・1%、46年には378・5%とひどいものだった。戦時中の戦費調達、戦後のモノ不足が引き起こしたインフレである。高橋財政が引き起こしたものではない。
実はヘリマネはベン・バーナンキ氏はむしろ反対で「財政ファイナンス」に減税を主張していることはこのコラムでも述べている。これがわざと曲解されているのは、財務省の情報管理のせいだろう。
ヘリマネ反対論者は、日銀が量的緩和を開始したときもハイパーインフレになると述べていた。前回も間違え、史実にも疎い外れ屋を私は信用しない。ましてや曲解やツマミ食いしているヤカラを、どうして信じられようか。
財政ファイナンスで需要不足を埋める
財政ファイナンスが好ましい理由は次の通り。
- GDOギャップがマイナスの時期じゃ需要より供給力が大きい。モノ余り人員過剰時代、10兆円の需要不足だろう。このギャップを埋める投資は景気対策として望ましいことだ。
- 国債はいま品不足である。2016年度の発行計画では162・2兆円。市場に出回る分は147兆円。ここから買いオペの対象にならない短期国債25兆円を除くと122兆円。これに対し日銀は年120兆円の買い入れだ。だから、マスコミの言う「マイナス金利は“禁じ手”とか“量的金融緩和の手詰まり”という批判はとんでもない間違いだ。
- マイナス金利は銀行の400兆を超える預貯金(うち日銀当座預金250兆円)を運用難に陥れさせ、民間企業などへの貸し出し増加、経済活動の活発化につながる。私はあるエコノミストの会合で「マイナス金利は私は正しいと思う」と発言した。問題は1月29日の発表後18日でスタートしたこと。(ヨーロッパは半年近くかけている)。不勉強なマスコミは否定キャンペーンをして、世の中に沈滞ムード、警戒心を起こすに違いない。個人の預貯金がマイナスになるとか、俗論がヤマのように出る。
私は「ニュースの真相」を見ていて、軍歴詐称が見当違いな誤認で押しつぶされたように、いま安倍政権がやるべき政策が押さえ込まれたのを恐れる。私は少数派だが、財政ファイナンスは推進されるべきだという考えを変えない。
ところでFRBイエレン議長のジャクソンホール講演で利上げが近いという観測が高まり、9月2日の8月の雇用統計に焦点が定まった。円の対ドルレートは下落に転じた。投機筋の円買い玉は7月26日の3万5000枚が8月23日には6万枚に増加している。これが売りに転じたら1ドル103円から105円に。1円は日経平均220円だから1000円高の材料が出た。そのあたりで年内の高値が付き、秋の「大魔王」のの来襲で下落というシナリオだ。大魔王が何かは、わからないが、ドイツ銀行か中国か。サウジ王家のトラブルか。保険のロイズか。何もないことを願うが。
映画のセリフから。
ダン・ラザーが若いスタッフに言う。
「疑問を持ち、質問することは重要だ。やめろとか偏向だといわれても、質問をしなくなったらこの国は終わりだ」。
財務省の日本危ない、借金返済のため増税必要というネガティブ・キャンペーンへは疑問が多い。
オマケに。
ロバート・レッドフォードの美男ぶりを覚えているから変わったのにビックリ。79だから私と二つちがう。今日(8月27日)、私は81歳になったが、死ぬまで頑張るつもりだ。お祝いのメールには「ますます頑張ってピンピンコロリを目指してます」と書いている。
映画「ニュースの真相」と情報コントロール(第841回)
今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ
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