【初・中級者向き】映画「ダンケルク」と日米の政治危機

 

2017・9・18

ダンケルクとはフランス北端の港町でドーバー海峡に面している。1940年英仏連合軍40万人の兵士が追い詰められ、反撃の余力はなく、絶体絶命、救援を待つのみになる。英国軍はドイツ軍爆撃機とUボートの攻撃にさらされながら、一人でも多くの兵士を救出しようと決死の作戦を展開する。

クリストファー・ノーラン監督のこの新作は戦争映画には違いないが、戦争賛美でも反戦でもない。まったく斬新な映画で、私はすさまじい映像体験に圧倒された。

 

ノーランらしい演出は、時間と場所をシャッフルして描いたことだろう。浜辺の陸上は1週間、英国の民間船がダンケルクに向かうのは一日、戦闘機が戦う空中戦は1時間の三つ、これが最後は同じ救出作戦の成功に向かってゆくという展開は素晴らしい。たしかにアカデミー賞有力候補といわれるだけのことある。

日米政権、絶体絶命の危機

40万の兵士のように絶体絶命、とまでゆかなくても、この6,7月、わが安倍首相もトランプ大統領も、政権を放り出すか、放り出さされる危険性があった。

 

まず安倍首相。29%という低支持率の直後、周囲に「憲法改正ができなければオレは総裁選に出馬しない」と漏らしたという情報が飛び回った。やれ次はワンポイントで麻生副総理だが、明年9月の自民党総裁選には年齢制限に引っかかるので、岸田政調会長だろうとか。

 

カギは支持率50%台。最新の世論調査では時事通信の41%、これだと外国人投資家は日本株に投資をためらう。安倍おろしの毎日新聞は39%。

恐らく10月22日の衆院補選三つで全勝したら、朝日や文春といえども支持率の回復を認めざるを得まい。

 

もちろん北朝鮮のミサイル、水爆の実験で米国や日本を挑発しているが、その都度安倍内閣が迅速に(文字通り分秒の差で)国民にメッセージを送ったことも支持率回復に寄与している。

 

「安倍おろし」を企む一部官僚や朝日、毎日や文春などのマスコミは内閣改造後の新閣僚や昭恵夫人まで狙って内閣の力を削ごうとするだろう。民進党が内部分裂で全く頼りにならず、このままでは既得權益を失いそうな官僚が、10年前と同じく「自爆テロ」を年金がらみで少しでも足を引っ張りたいと演出中。しかし、前述の通りの地方補選で反対勢力が強調してきた「一強のおごり」を選挙民が問題にしていないことが判明し、支持率が上昇したら、ひところの危機説は消え去る。

 

私の見方と違って、まだ危ないと主張する向きもあるから世の中は面白い。一昨日(15日)政治担当の記者に会った。いわくー。

  • これまで支持率が上昇したのは、お灸をすえた人々の回帰とし、「北風でタコを上げる」追い風のため。これ以上の支持率上昇は望みにくい。(そうかなあ?)
  • 9月28日に始まる臨時国会で「森友」は会計検査院の発表があり、「加計」も騒がれる(ホントかしら?)。要するに疑惑を乗り切っていない、とみる。
  • 自民党の調査では今解散すると35から40議席は減少する。(安倍政権が弱体化している、という意味?野党の支持率から見ると、私はそうは考えられないのだが)まあ以上である。

 

北朝鮮の核問題はカタがつく

私は10月18日に始まる中国の党大会での人事、その直後の11月第一週のトランプ大統領の訪日、中、韓国(長くなるので説明しないが)、この二つの政治行事で、北朝鮮の核問題はカタが付く可能性がかなり大きいと思う。

 

一方、米国トランプ大統領は、なんと民主党と結んで、債務上限問題を片づけた。これでこれまで100日以内の公約の90%を阻害していた共和党保守派「フリーダム・フォーカス」の抵抗を少なくとも当分は骨抜きにしている。大丈夫、と思ったからこそ11月のアジア歴訪を決めたのだろう。

 

さて、ダンケルクの40万人の英仏軍兵士と同じく、日米首脳の地位は、ひところの危機よりは相当に安定した。NYダウ、S&P500、ナズダックともに史上最高値更新、また日本の方も今年最大の週間株価上昇を見た。円レートは対ドルで111・3円の円安、対ユーロは1年7か月ぶりの安値の133円になった。再び下押す株価というシーンはありうるが、政治の安定で日本株を買い戻すヘッジファンドが出ているのは事実だ。ただシャリア150採用銘柄でまだ下降基調の銘柄が結構あること、しかもこの日経225反発と同時期に、と考えると、まだオイルマネーの換金売りは終わっていない。ただ、10月中の総選挙は大きな買い材料だろう。

 

2万円の大台近辺には、まだ超えるべき売り玉が山のようにある。しかし、与党が勝利すること確実な選挙は、やはり「買い」だろう。問題がどのくらいの議席数なのか、だけのはずだ。

 

映画のセリフから。ケネス・ブラナー演じる英海軍中佐で防波堤の責任者が言う。「皆は帰国してくれ。私は残る。英軍は帰国できたが、まだフランス軍兵士が残っている。」14万の仏軍のうち3万は取り残された。またトム・ハーディ演じた英空軍兵士もダンケルク海岸に不時着、機体を燃やして自分は投降する。政治の方も完全にスッキリ、とはなかなかいかないが、私は楽観的だ。

 

映画「ダンケルク」と日米の政治危機 第876回 

 

今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ

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