【初・中級者向き】映画「キングダム」と中国が米国に仕掛ける超限戦

公開日: : 最終更新日:2019/09/01 マーケットEye, 中級, 初級, 無料記事 ,

4月中旬の上映開始以降ずっと興行収入上位を続けているヒット作。面白いから、と勧める向きがあって観た。

舞台は紀元前245年の春秋戦国時代の中国。西方の王国秦。戦災孤児の信と漂の二人は奴隷にされるが、いつか大将軍になる夢をもって剣の修行をしていた。そこに大臣が村に通りかかって漂は王宮に召される。実は若い王にそっくりの漂は影武者として王宮に入って、その後、王の弟が起こしたクーデターで殺されてしまう。しかし死に際に王の警固を、漂は信に托す。ここから信は大将軍を、若い王は中華統一を夢見て、二人はともに戦い始める。

この映画の原作は2006年から始まった漫画だそうだが、実によく勉強している。私はノベライズされた文庫本と「始皇帝 中華統一の思想―『キングダム』で解く中国大陸の謎」(渡辺義浩)を読んだが、この映画の若き王が「始皇帝」になるまでを詳しく画き、しかも史実にのっとっている。

もちろん映画の方は中国ロケによる多数の馬とエキストラを活用した戦闘シーン、とくに信(山崎賢人)の剣技が盛り上げる。

のちに始皇帝となる若き王が、中華西方の山岳地帯の「山の民」と同盟を結ぶという奇策をとった。(山の民のトップの長沢まさみが美しい。)また弟に奪い取られている王宮を取り戻すため、秘密の地下回廊を利用するなど、奇襲作戦を中心に。

現在の米中覇権争いに劣勢とみられている中国が「超限戦」という中国軍大佐2名が発案した奇襲戦略を展開している。生物・化学兵器、毒ガス、麻薬、サイバー攻撃、金融や情報の攪乱などあらゆる禁じ手を用いて対米攻撃を行う作戦が着々と準備されている、とのことだ。

米国側はこれを受けて、4月25日、NYで「超限戦」に関するセミナーが開かれ、バノン前主席戦略官、ガフニー前記気委員会副議長など専門家が講演した。

またこれに先立って3月25日、ワシントンで、軍事、情報などの専門家が多数集まり「現在の危機・中国に対する委員会」が設立された。(中国専門家湯浅誠氏による)。

同様な委員会はソ連解体を目指したレーガン政権時代にも設立された。今回の発起人の一人にウーズリー元CIA長官などの大物数人が加わっている。

同元長官は「中国の攻撃の実例として「ファーウェイなどを通じて米国の次世代通信技術を支配しようとしている」とした。

つい先日、中国による米国国債の売却が市場の大きな関心を集めた。ほんの少額だったので、恐らく中国側からジャブを出した程度だろう。

いまの米国債はコンピュータで所有者が分別されており、中国側が武器として保有米国債を大量に売却しかけた場合、瞬時にして中国保有分を無効にするという奥の手がある。恐らくウラから呟いてオドしたのだろう。もちろん今後は楽観を許さないが。

こうした米中貿易戦争がハイテク覇権争いに戦線拡大する中、市場は要人発言で一喜一憂。大阪G20で首脳の手打ち説があるが、6月28、29日までまだ1か月。この間ヘッジファンドは何かをして稼がないとクライアントから解約されてしまう。

米国株が一進二退のパターンを続け、世界の市場もこれに同調。債券市場では逃避資金の流入が続く。またビットコインも気が付けばかなり上昇し、市場では 「2017,8年には中国の買い中心だったのが、今回は米国」だそうだ。

さて日本。市場の関心はダブルと消費税の実施の有無に集中している。消費税の方は本田前スイス大使の増税凍結の進言や、歳川隆雄氏の8%から5%への消費税引き下げへのという大サプライズ説まで、増税への拒絶反応が強い。

たしかに世界市場の今後の混乱の中での増税は「嵐を前に雨戸を開ける愚行」(田村秀雄氏)かもしれない。ただ5月24日の政府経済報告で「緩やかな回復」の表現を維持したこと、また今回は幼児教育の無償化などとパッケージされていただけに政治的に見てハードルは高い。

そこで出てくるのが、衆参ダブル選挙だ。これで国民に信を問い「みそぎ」を済まして10%への増税を凍結というシナリオは確かに魅力的だ。

ただ筆者の(大したことはないが)取材でが、公明党の反対もあり、W選挙強硬派の確率はせいぜい30%ではないか、とみる向きが多い。

現在進行中の安倍=金正恩の第三国での会談が実現すれば話は別だが。

どちらにしても悲観的な内容は確実である。そこで7月1日発表の日銀短観はかなり悲観的な内容が確実である。そこで私の結論はこうだ。

GPOでの共同声明で「世界経済原則に対処して、各国ができる範囲での政策を総動員する」、という文言を加えるべく安倍首相は異な動いている前記のサプライズは別として、再再々増税延期はまたは凍結。その場合日本国債の格付けグレードダウン、外国人株売りに対抗して、何らかの強力な政策措置に発展する、というシナリオだ。

その措置は何?と聞かれそうだが今はナイショ。お楽しみに。私の夢だ。

映画のセリフから。信がクーデター組の殺し屋に「夢見てんじゃねえよ、ガキ!」とののしられて言う。「夢を見て、何が悪い!夢があるから立ち上がれるんだろうが。夢があるから前に進める。夢があるから強くなれるんだろうが!」私は、大賛成だ。

 2019・5・26(第964回)

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