米中関税戦争の激化と両国投資家の金購入
2025・4・20(第1269回)

<内閣官房のXより>
国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく米国の相互関税は、累計145%に達した(丸紅経研レターによる)。
中国にとり米国は輸出額全体の15%を占め、GDP3%弱に相当する。
当面の注目点は、両国の政治的方向性が交わるのは困難なことである。まず米国側は、自由貿易体制の下で自国の製造業がシェアを下げ、基盤を失ったという問題意識がある。

これに対し中国は国内需要を上回る生産能力からみて、対米輸出を継続しなければ、自国の経済がゆらぐと考えている。
わが国は両国の戦いのトバッチリを受けた形なので、赤沢大臣の交渉次第だが、ごく目先は米中両国の戦いを見守るしかあるまい。
この戦争を見て米中両国の投資家は金購入を強化している(小管努レターにある)。
【小菅努のコモディティ分析 〜商品アナリストが読み解く「資源時代」〜】4月15日配信より
<サプライズ感が強い4月のアジア実需>
4月のCOMEX金先物相場は、4月2日に1オンス=3,201.60ドルをピークに7日の2,970.40ドルまで急反落したが、足元では3,250ドル水準まで改めて急伸し、過去最高値を更新している。トランプ米大統領が相互関税を発表した直後は、極端な高ボラティリティ環境の中で投げ売りが膨らんでいたが、マーケット環境が落ちつきを取り戻す動きと連動して、改めて安全資産としての買いが優勢になっている。
4月の金市場において特筆されるのは、金価格が過去最高値を更新しているにも関わらず、中国の実需が極めて強いことだ。通常、金価格が高騰すると中国では宝飾市場が大きなダメージを受け、金価格の高騰に需給面からブレーキを掛けることになる。しかし、4月は逆に中国市場が金価格の高騰をけん引する場面も目立ち、実際にアジア時間に金相場の値上がりが目立つ状況が続いている。
上海黄金交易所で金(T+D)の4月取引状況をみると、出来高は3月の1.7倍、受渡高は1.8倍に達している。金価格高騰でも市場は沈静化せず、活発な売買が行われている。中国人の金に対する関心は、中国現物市場主導の値上がりが見られた昨年3〜4月よりも強い状況と言えよう。しかも、ここ最近は高値で低迷していた受渡高も同時に急増していることは、金市場環境が3月までと4月以降で大きく変わったことを強く印象付けさせる。ここ最近で受渡高が急増したのは、昨年だと8月や11月のように金相場が大きく値を崩した環境だったが、4月は金価格の動向と関係なく連日のように対象の受渡が行われている。これが宝飾と投資のどちらがメインかまでは不明だが、金現物を手元に保管したいとのニーズが極めて強くなっていることは間違いない。
金上場投資信託(ETF)市場でも、4月はアジア地区の投資需要の強さが目立つ。3月は主に北米投資家が金ETFを積極的に購入していたが、4月は第二週までのデータによると北米が33.8トン、欧州が7.1トンに対して、アジアが32.7トンに達している。すなわち米中間で激しい関税の応酬が行われる中、北米とアジアの投資家が同時に金ETF買いを強化しているのだ。1〜3月期は世界全体で26.50トンの金ETF需要が確認されているが、4月は既に75.0トンに達している。「購入規模の大きさ」と「アジア地区の大量買い」の二つの意味でサプライズ感が強い状況になっている。これで年初来からの累計は既に300トンを超えており、これは金需給環境を一変させるに足る規模と言える。
(中略)
<ゴールドマン・サックスが価格見通しを引き上げた理由>
米金融大手ゴールドマン・サックスは4月14日、2025年末の金価格見通しを従来の3,300ドルから3,700ドルまで一気に400ドル引き上げた。3月26日に3,100ドルから3,300ドルまで200ドル引き上げたばかりだが、3週間にも満たない期間でさらに大幅な引き上げを余儀なくされている。
ロジックは一貫して中央銀行と金ETFの二つの需要が想定を上回っていることだ。金ETFに関しては、リセッションに陥った場合にはさらに需要が拡大して金価格を3,880ドルまで押し上げる一方、政策の不確実性が低下して予想以上の経済成長が実現すれば需要が抑制されて金利ベースの予想に回帰することで金価格を3,550ドル近辺に留めるとしている。いずれにしても現在の価格見通しを大きく上回ることになるが、金ETF需要の想定以上の勢いを受けて、金の需要見通し、価格見通しも大規模な上方修正を迫られるプロセス上にある。
では、私なりに金価格のちゅうきみとうしを述べる。オンス7500ドル。3年後。
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