「債券投資は大きく儲からない」のか?
金融リテラシー講座「投資のための金利計算」1回
フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生
今回から「金融リテラシー講座」は「金利の考え方」編に入ります。
第一部でお話しした「財務分析」は株式投資にはなくてはならないリテラシーですが、「金利の考え方」は運用商品、ローン、保険商品などあらゆる金融商品に通じるリテラシーです。金融リテラシーの基本中の基本です。本来なら最初に取り上げるテーマだったかもしれません。
これから数回に分けて金利計算、利回り計算の具体的なやり方を勉強してもらおうと思います。
金利と儲けの関係は
と、ここまで書いて(皆さんは読んで)、「金利計算のやり方、俺はそんなの興味ないな。儲かる話じゃないの?」、「金利計算、どうせ債券の話かなにかでしょう。私は1%や2%の利息に投資しようなどとは思っていないの。株式で大きく儲けたいのよ」などと思っている方もおられるでしょう。
「金融リテラシー講座」金利編はとりあえずパスしようと考えている人もいるかもしれませんので、さっそく問題です。つぎの条件で買付と売却を実行した場合、その損益はどうなるでしょうか、a~dの答えの中から妥当と思われるものを選んでください。
【売買の条件】
米国債30年(償還まで29年10か月)のストリップ債を利回り4.2%で買付しました。1年間保有し、1年後に利回り2.4%で売却しました。この売買による損益はどのくらいか?ストリップ債とは利息のない割引債です。
【答え】
a.利回りが4.2%から2.4%に低下したので損をした。
b.いや、利回りが低下したから儲かったのではないか、数パーセント儲かった。
C.1割くらい儲かった。
d.もっと大きく儲かった。
この場合の妥当な答えはdです。びっくりするくらい大きく儲かります。
そして、これはこの講座のために作った話ではなく、実際の話です。昨年1月に米国債30年(償還まで29年10か月)のストリップ債に投資し、今年の1月に売ると、7割近く儲かりました。
というか為替が円安になっていますので円ベースでは約2倍になっています。
株式では10%、債券は7割
具体的な数字で示してみましょう。
昨年1月、上記の条件で米国債額面100万ドル購入すると、買付金額は約3,000万円(為替104円として)です。それを今年1月売却すると、売却金額は約5,900万円(為替118円として)です。ざっと2倍です。
これは為替が104円→118円と13.5%円安になったこともありますが、債券単価が7割以上値上がったためです。(債券単価は28.94→50.26)
この間、日米の株価の上昇は10%弱であり、ETFで日経平均やSP500に投資していても1割弱しか儲かっていません。SP500の場合、為替も入れると25%くらいでしょうか。個別銘柄に投資すればこの1年で2倍になった銘柄はいくつもあるでしょうが、ある面ありふれた商品である米国債に投資してこんなに儲かるのです。
どうでしょうか、少しは利回りに興味が出てきましたか?
そして、利回りの話というのは債券に限ったことではありません。株式投資も利回りで攻めるべきでしょう。株式は債券のように将来のキャッシュフローが明確ではありません。しかし、株式も債券と同じように考えるべきだと私は思っています。
「株式投資も債券投資と同じだ」
この境地に達すれば個人投資家として有段者だと思います。
という訳で「金融リテラシー講座」に第二部の金利編も最終回までお付き合い願います。
関連記事
-
損する前にこれを読め!
証券会社の営業トーク「本音と建前」
『野村証券の悪を許さない』ジャイコミ編集部 証券会社の営業担当者の口説き文句とはどういうものだろうか。 近著だと『野村証券
-
わずかな増配で株価が大きく上がるのはなぜか?
金融リテラシー講座「投資のための金利計算」4回 フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生 &n
-
株式時価総額は会社の価値を正しく評価しているか?
貸借対照表を読み解く③金融リテラシー講座 「投資のための財務分析」第6回 フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生
-
資産内容に違いが出るのはなぜか?
貸借対照表を読み解く⑤金融リテラシー講座 「投資のための財務分析」第8回 前回につづき、ライバル会社A社とB社の分析を進
-
利益=得たお金、損失=失ったお金?
損益計算書を読み解く②金融リテラシー講座 「投資のための財務分析」第14回 前回、損益計算書の見るにあたって次の2つこと