日本人が知らない中国投資の見極め方【5】
成長率低下より深刻な中国経済の2つの問題とは?
アナリスト 周 愛蓮
前回は中国経済の成長率低下の問題を検証した。7%台に成長率が低下したとしても、規模はすでに巨大化している経済体にして、このスピードは高すぎるとはいわないまでも、十分すぎるぐらいの高さであると述べた。
最新の話では、日経新聞も12月1日に報道したように、為替の変動効果もあって、中国のGDP規模は2014年に10兆ドルを上回りそうで、日本の約5兆ドルの2倍になる見込みとされる。
では、中国経済の問題はどこにあるのか?
政府はどのような対応をしているのか?
ご多分に漏れず中国にもさまざまな問題があるが、足元にもっとも大きな問題は2つの過剰である。
すなわち「過剰な生産能力」と「過剰なレバレッジ」の問題だ。
過剰設備は金融危機対策の後遺症
過剰生産能力は、2009年の世界金融危機時に行った4兆元景気対策の後遺症である。インフラ整備から不動産投資まで、巨額の資金が投入され、中国の景気が急回復した。不動産価格は上昇し、中国の第2回の不動産ブームを引き起こした。インフラ整備と不動産の投資需要に合わせ、特に鉄鋼、アルミニウム、セメント・建材、板ガラスなどの生産能力は大々的に増強された。しかし、その後はインフラ整備が一段落するとともに、不動産開発の需要も、不動産価格の高騰に対応するための引き締め政策によって抑制された。
需要を過大に見込んで行った投資が供給過剰になって、鉄鋼を中心に製品価格が下落し企業の業績が悪化したが、生産能力の調整はなかなか進まない。その理由の1つは、地方政府は地元の雇用を確保するため、こうした企業に地方税の優遇や補償金の支給を行い保護したからだ。
このように設備稼働率は長期的に低迷した。政府の統計によると、鉄鋼、アルミ、セメント、板ガラスの設備稼働率は2012年から70%台に落ち込んでいる。
中央政府は、老朽設備や排出基準に満たさない設備の廃棄を促し、若干の成果をあげたが、根本的な解決にはなっていないようだ。
インフラ輸出「一帯一路」は外交との一石二鳥
インフラ関連設備の稼働率低下への対応策として、インフラ輸出策は浮上した。外交政策と相まって、中国政府は「一帯一路」構想を打ち出した。
2014年11月に北京で開催されたアジア太平洋経済協力機構(APEC)の首脳会議でアピールしたので、海外メディアでも報道され広く知られるようになったこの「一帯一路」構想というのは、わかりやすくいうと現代版のシルクロードと海上シルクロードを構築しようという計画。現代版シルクロードとは、中国から中央アジアを経由して欧州につながる「シルクロード経済帯」(一帯)。海上シルクロードとは、中国から東南アジア、インド、アフリカ、中東を経て欧州に至る海上経済圏(一路)。
*ロイターによる「シルクロード構想」の図解はこちら
中国政府の狙いは、この2つのルートを構築し関連諸国との経済圏を確立して、インフラ輸出を拡大させることにあるとみられる。そのためには、関連の新興国の資金不足を解決する必要があるので、「アジアインフラ銀行」を立ち上げることにした。この一帯一路計画が進めば、輸送、港湾、パイプライン、発電、環境プロジェクトなどのインフラ施設の輸出が拡大し、国内の余剰生産能力が活用されるにとどまらず、周辺国との経済協力が進み、新たな経済成長エンジンを得る。外交上も中国の存在感が高まるというわけだ。
企業の負債が最大の問題
もう一つの問題が「過剰なレバレッジ」だ。
中国の政府負債は30兆2750億元(2013年6月時点)、年間GDPの57%相当であるので、財政状況は健全といえる。うち地方政府の負債額は約17兆9000億元。GDP比では問題にならないが、問題はそのうちの約8兆元は2010年以降に増やしたもので、またその返済期限は2015年までに集中していることから、一部の地方政府に大きな返済圧力がかかる。
もう一方では、企業はここ数年に融資を増やし、レバレッジを拡大してきた。2013年6月時点で、中国の企業部門の負債額は65兆元に上り(鉄道債除く)、年間GDPの121%に相当する。拡大している企業負債は、重い財務コストとなって企業業績を蝕み、業績の悪化はまた企業の債務返済能力と成長力を弱体化させるという悪循環を作り出している。もし経営の悪化で倒産が多発するような事態となれば、銀行の不良債権が急増し金融不安が引き起こされる事態にもなりかねない。これこそは中国の経済政策運営上において、もっとも重要視しなければならない問題であろう。
企業の借入コストを下げるため利下げ
地方政府の債務拡大問題に対して、中央政府は地方政府に債務の総額管理を課するとともに、適格と認められた一部の地方政府に地方債の発行を認めることにした。銀行融資に頼った資金調達を金融市場へ誘導することによって、金融システムのリスク分散を図る狙いだ。
一方、企業はレバレッジを拡大してきたのには、株式市場の低迷で市場からの直接融資が困難のため、社債発行と銀行融資に頼らざるを得なかった事情がある。また、当時の4兆元景気対策のうち、相当部分は政策融資であり、結局は企業と銀行が負担した。いわば政府の肩代わりした面があった。
このような背景から、企業の過剰レバレッジを対応するため、政府はまず株式市場の環境改善から着手し、株式市場の直接融資機能を回復させることにした。その効果が徐々に表れてきており、株式市場は回復しはじめ、企業の新規上場と割当増資活動も活発化している。
もう一方で、企業の借り入れコストが高く業績が圧迫されている状況を改善させるために、14年11月22日に利下げに踏み切った。貸出金利の切り下げ幅は0.4%、預金のそれは0.25%と、貸出金利の下げ幅が大きかったのは、企業の金利負担を軽減させる意図がみえる。
これらの対策は、どれほどの効果が得られるか、注目される。
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