木村喜由のマーケット通信
原油安で運輸・紙パルプ・化学が買い
ギリシャ選挙でユーロ危機の再燃は
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
26日、12月分の通関統計が発表されたが、貿易収支は6,607億円、前年同月比49.5%減と、過去最大の赤字を記録した1年前から比べ大幅な改善となった。ドル円月中平均は119.40円と15.4%上昇、輸出額は6兆8965億円で12.9%増、輸入額は7兆5572億円の1.9%増。数量指数は輸出が3.8%増、輸入が1.8%減であり、輸出が上向き、輸入額が伸び悩んで収支が改善するという、久しぶりのよい形である。
原油安が決算に反映されるのは1~3月期
原油価格の低下が本格化してきたことも大きいが、原油が船積みされた時点である11月はNY・WTI市況で1バレル75ドル付近であり、今よりも30ドルほども高かったから、原油約メリットが業績に大きく反映されるようになるのは2月以降になる。今週から10-12月期の決算発表が始まるが、円安効果は7割方数字に反映されるのに対し、原油安メリットは1-3月期になってくる。
買い材料に飢えた投資家が関連銘柄に食いつく
26日13時にJSR(4185、旧社名は日本合成ゴム)が決算を発表し、通期経常利益を390億円から430億円に上方修正すると発表したが、株価は直前の1,940円付近から2,148円まで急伸した。この銘柄はかつて石油由来のタイヤ原料が主力だったため、原油安メリットをはやして買われたのだろう。ただし今ではその比重は1割程度しかない。それでも今後の更なる上方修正が見込めそうなので、一気に買われている。
この動きを見ると投資家は買い材料に飢えている。おそらく5月頃までは、円安原油安メリットを織り込んで株価が水準訂正する動きが繰り返し見られるのではないか。
電力・ガス・石油精製は原油安メリット大でも難あり
原油安で貿易収支がゼロに接近する方向が考えられるので、円安への圧力は弱まるが、原油・天然ガスの低下メリットは段階的に電力・ガス・石油精製から、素材産業・運輸業界、それからその他の産業へと広がっていく。メリットは値下がりの根源に近づくほど大きいはずだが、電力・ガスは価格転嫁義務が課せられ、石油精製は在庫評価減の損失が意識されるため、なかなか物色対象として取り上げにくい。ならば素材と運輸が狙い目だ。
石油製品の消費が多い産業というなら、化学、紙パルプ、運輸などが代表的だ。特にコストに直結する空運、海運株は10月安値から3割ほど上昇している。陸運では日本通運だけ5割高と先駆した値上がりとなっているが、その他もそれなりの燃料安メリットを受けており、運転手や保管倉庫不足の折、料金引き下げ圧力は抑制されているので、実はこちらの方が利益が出そうだ。
業績が冴えない方が改善率大で意外高に
素材では素直に化学・紙パルプの中低位株がよいだろう。輸入品圧力が円安で弱まっており、原料安で操業率が上がるとなれば営業利益率は急速に改善するはずだ。最近の業績が冴えず、一株あたり売上高(PSR)の大きいところほど、業績変化率が大きくなって意外高となりやすい。銘柄数も多い。逆に食品などは相対的に魅力が落ち、乗り換えたい。
ギリシャ政権交代も債務減免は実現しない
日曜に行われたギリシャの総選挙は、事前予想通り急伸左派連合が勝ち、欧州委員会(EU)に恭順の意を表して、資金援助の代わりに年金や公務員の削減など緊縮政策の実施を約束していた与党は惨敗した。一応、応援してくれた選挙民の手前、急伸左派連合は欧州委員会に対して緊縮政策の緩和を求めることは確実だが、ユーロ圏各国に奉加帳を回すような形で引き受けてもらったギリシャ国債の返済義務の大幅削減などという虫のよい提案など、誰も受け入れてくれまい。
最大の資金元である欧州中央銀行(ECB)は、選挙結果が出て早々に、EUがギリシャ債務減免を議論するのは自由であるが、ECBは法律によって特定国の債務減免を行うことは出来ないと宣言している。もちろん二番目のスポンサーであるドイツも減免を承知するはずはないから、すでにギリシャの債務減免は道が封じられたも同然だ。
ユーロ離脱で通貨切り下げしかない
急伸左派連合がギリシャ国民の威信を回復するのだと頑張っても、交渉期限までに彼らの方が折れない限り、EUは追加資金の提供に応じない。そうなるとギリシャ政府の資金は6月中にも空っぽになり、一切の社会保障サービスも公務員給与の支払いも出来なくなる。国民が激怒するのは確実だが、そもそもそんな絵に描いた餅のような無理な要求をする政党を選んだ国民自体に責任があるから、文句をいうことはできない。
合理的に考えると、大幅な通貨切り下げ以外にギリシャの国際収支をバランスさせる方策はないので、10年程度のスケジュールでギリシャがユーロから離脱する段取りを組んでやることがベストなのだが、そうなると次に危ないのはどの国だと、市場が魔女狩りを始め、ユーロ危機が再燃することになるから、おいそれと口に出せないのである。
欧州は伏魔殿、正論に直行はしない
欧州の人は米国と違い、よほどのことでないと結論を急いだり実験的にとにかくやってみようという方向に進むことは少ない。意見の対立をむしろ楽しむが如く、議論のキャッチボールを繰り返しながらお互いへの信頼感を醸成し、それからエイヤッとばかりに思い切った結論に向かうように思う。集まってゴチャゴチャやるのが大好きなのだ。
知恵者が多いから面白いアイデアがよく出てくる反面、全員に調印させるためにグレーな部分を残したままなことがしばしばなので、米国流の予め契約書に盛り込んで違反したら即ペナルティーという風にはいかない。大家さんと貧乏な店子(たなこ)のように互いにぐずぐずし、家賃が溜まったから即出て行けということにはならないのだ。
しかし欧州の歴史を振り返れば、いったん崩壊した存在がいつの間にかゾンビの如く復活してくることがよくあり、そこには相応に魑魅魍魎的な存在が暗躍している。我々のような甘ちゃんが計り知れないところで密かに蠢(うごめ)くものがあるので、ギリシャ問題でも正論を重視するにせよ、短兵急に結論付けることは賢明ではないと思う。
Vol.1266(2015年1月26日)
*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。
(了)
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