日本人が知らない中国投資の見極め方【7】
中国にも忍び寄るデフレの足音
追加利下げは必至
アナリスト 周 愛蓮
日本銀行は2%のインフレ目標を設定してなりふり構わずに頑張っているが、約2年経っても目標にはまだまだ到着しそうにないようだ。
一方、隣の中国は、いままでデフレとはなにものかをほぼ知らないできた。2014年でも、実は年初のインフレ目標は「3%以内に抑え込む」ことだった。
しかし、中国の状況は変わった。
インフレに悩まされてきた30余年
中国は1978年に鄧小平が改革開放へ舵を切り、経済政策を大転換してから30余年、高い経済成長を遂げてきた。膨大な人口に加え、長い間に続けた供給不足のため、投資需要も消費需要も際限なく膨らみ、モノに対する需要がとにかく強かった。人々の所得は年々高まり、最低賃金は2ケタの伸びを続けてきた。別の見方をすれば、このような環境で、インフレが生まれる条件がすべて揃ったともいえる。
ここ30余年の中国は、インフレと伴走してきた。アジア金融危機とリーマンショックなど一部特殊な時期を除けば、中国は常にインフレに悩まされてきた。したがって、中国政府は「物価の安定」を常に重要な政策に位置付け、中央銀行である中国人民銀行のもっとも重要な役割は、インフレ抑制であった。
消費者物価指数が1%を割り込んだ
ところが、14年の消費者物価指数(CPI、消費者物価の前年同月比上昇率)は、年初の目標である3.0%に対し、実際には2.0%だった。月間推移をみると、14年6月から低下し始め、9月より1%台に低下した。15年1月にはとうとう1%を割り込み、市場予想を下回る0.8%の上昇にとどまった。リーマンショック後の09年以来最低の物価上昇率に、関係者からデフレを懸念する声が一気に高まった。
生産者物価指数は34カ月連続下落
生産者物価指数(PPI、生産者出荷価格の前年同月比上昇率)をみると、中国はすでにデフレに陥っているといっていい。15年1月のPPIは前年同月比-4.3%と下落幅を拡大、12年3月以来34ヵ月連続の下落となった。生産者出荷価格は3年弱も下落していることは、デフレ以外のなにものでもないだろう。
高金利が企業業績の足かせになっている
中国の企業は、長引く出荷価格の下落に苦しみ、業績が悪化している。
中国統計局が発表している「工業企業利益」(年商2000万元以上の鉱工業企業の利益合計)では、13年の売上高は前年比11.2%増、純利益は同12.2%増だったが、14年はそれぞれ7.0%増、3.3%増に低下している。月間ペースでは、14年11月から利益伸びはマイナスに転落しており、14年12月は前年同月比8%も減少した。
こうしたデフレ環境にあるのに、金利水準は不当なほどに高い。14年11月に中国人民銀行は利下げしたが、それでも貸出基準金利(1年物)は5.6%、預金基準金利(1年物)は2.75%と高い。物価の低下に金利の低下がついて行っていないのは明らかで、企業の融資コストは非常に高く、金利負担は業績の足枷になっている。
出荷価格が4%以上も下落しているのに、融資金利は約6%ということは、資金を借りる企業にとって、実質金利は10%にもなると感じるであろう。投資のインセンティブは見出せないことは容易に想像できよう。
金融緩和が招く不動産への資金流入がネック
悪化している景気に金融政策のサポートが求められているのは、だれの目にも明らかだったが、中国人民銀行はなかなか金融緩和に踏み切らなかった。その理由は、不動産開発への資金流入を恐れているからだ。
ここ2年は、中国人民銀行が企業の「融資難」問題を認識しながら、利下げや預金準備率引き下げという伝統的金融手段を避け、「ターゲットを定めた資金供給」といって、短期的流動性供給などの新しい金融ツールを多用してきた。しかし、これらの手段は例え多少なりに流動性を増やしたとしても、実質金利を下げることができなかった。
このような背景に、14年11月21日の利下げ、そして、15年2月4日の預金準備率引き下げが行われた。
デフレに戸惑う中国人民銀行
これまでの30余年において、インフレと戦ってきた中国人民銀行は、デフレという不慣れな敵を前に、戸惑っているようにも見えた。資源・原油の価格が下落していることは、輸入国の中国にとって好ましいと判断しているようで、なによりも物価が上がらなくなって、低所得層から物価に対する不満の声が上がらなくなったことに安堵したかもしれない。だからこそ、2月4日に預金準備率の引き下げを発表した時にも、「政策の方向転換を意味するものではない」と付け加えるのを忘れなかった。
世界中が金融緩和、高金利は競争力を削ぐ
しかし、世界中の中央銀行はデフレに「断固たる措置を取る」と表明し、金融緩和を競っていることを傍目に、中国は相変わらず高い金利を維持することは、中国企業の競争力を一層失わせ、景気をサポートしたい中銀自身の願いに反する。遅ればせながらも中国人民銀行はようやくデフレのリスクを意識し始めたのではないか。中銀は認めるかどうかを別にして、中国の金融政策は緩和サイクルに入っており、5.6%の貸出金利と19.5%の預金準備率を維持する合理性と必要性がもはや見出せない。
2月18日から始まる春節の長い連休を前に、沿海部の工場の多くはすでにシャッターを下ろして休業に入っている。従業者の出稼ぎ労働者は故郷に帰るためだ。彼らは工場に戻ってくるのは2月も終わってから。1月と2月の経済指標は、一段の落ち込みを示すと予想され、早急な追加利下げが求められる。
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