消えた裁定買い残の謎
下値リスク減と捉えるのは早計

公開日: : 最終更新日:2015/07/06 マーケットEye, 有料記事サンプル ,

 日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

 年内利上げ開始の方向もペースは遅い

注目された17日の米国FOMCだったが、当面の金融政策に変更がないことは市場筋全員が予想した通り。本当に注目されたのはイエレン議長による会合後の記者会見で、次回の利上げの時期について何か示唆が与えられないかということであった。しかしこれも大方が予想した通り、向こう数か月のデータを見て判断するという言葉の繰り返しで、何も明確な手がかりを与えてはくれなかった。

イエレンさんのコメントよりも筆者が注目していたのは、メンバーによる将来のFFレート予想(というより希望する将来の姿)をプロットしたドットチャート。これはFRBのホームページで誰でも見られる。

まず年内利上げに賛成したのは17人中15人。今年末のレートについてはほとんどが0.5-0.75%に集中しており、年内に1回または2回の利上げを予想する向きが大半だったが、このレベルを超える、つまり合計で0.75%利上げ予想をしていたのが5人もいる。意外にタカ派のメンバーが多いのだ。

利上げ慎重派も米国経済の先行きは楽観

来年末については極端にばらつきが出た。現在より0.25%高いだけという人から、3%という人まで幅広く分散した。これは現在の経済状況が非常に複雑微妙で、誰でも似たような結論が出るようなものではないということが暗示されている。明確な結論が出ないならば、もう少しデータを見て確実な判断をしようということになりやすく、後にずれ込むことになりやすい。多分利上げペースは遅くなるだろう。

しかし17年末については3%前後に比較的集中しており、最も低い人でも2%ということで、冷静に考えると一番のハト派でさえ2年半で2%という利上げペース。これははけして遅いものではない。つまり慎重派でも米国経済の先行きは楽観しているということができる。おそらく今回のFOMCは慎重な利上げペースと経済に対する楽観が盛り込まれており、それが昨日の急騰につながったと見ることができると思う。

まあ常識的には9月、遅くとも12月にとにかく1回利上げして一応宿題を片付けておき、その次の利上げは慎重に行うというメッセージを出すことだろう。利上げに向かうこと自体は織り込まれており、市場の関心はその後の利上げペース如何に集中しているから、とにかく次回までの時間稼ぎになるポーズを作る公算が高いと思う。

ドル建て債務が膨張、デフレ圧力に

しかし、問題はドル堅調が及ぼす途上国景気に対する悪影響だろう。ドル建て債務はリーマン危機後5割増え、ドル高でその債務負担が膨張している。借り手側は信用取引で売った銘柄が値上がりしたところで買い戻しを迫られるようなもので、デフレ圧力が掛かる。ブラジルやインドネシアの減速はその結果だろう。海外景気の減速で米国の成長が鈍るシナリオは考えておくべきだろう。

裁定買い残高はどこに行った

先週のメジャーSQは、直前火曜夜に2万円大台割れを演じた後に急反発し、結果的には20,473円で決着した。TOPIXの裁定残高の動向はよく把握できないが、少なくとも日経225絡みの裁定取引はもう25年も前から目を皿のようにして追いかけてきているから、筆者が見落とすはずがない。もちろん225のバスケット売買はSQに向けては買い越しであった。

ところが火曜に発表された裁定残高は18億8000万株に大幅減少、直近ピークの9日24億7700万株(もっともこの日は裁定売り残も2億8000万株あった)から実質4億株の大幅減少となった。かれこれ5000億円から内外の売り圧力と考えられる。しかしこれに見合うようなNT倍率の急低下や、225銘柄の集中的な売りはこの間観察されてない。

東証会員業者が売り、非会員が引き取った?

過去に書いたように株式先物と現物の「裁定取引」として報告義務があるのは東証会員業者が自己勘定で行う分だけで、それ以外の主体が行う裁定取引は含まれていない。したがって売りの大半はTOPIX型であったか、会員業者が売った分を非会員の投資主体が引き取っただけと見られる。筆者の勘では後者である。

ただし、大証の225先物建玉動向を見る限り、一頃のクレディスイスのように極端な増減を見せる業者の動きは見受けられず、一時よりは裁定残が減っているという見方を否定することは出来ない。しかし、NT倍率や品薄225の期末株式分布状況などから推測すると、インデックス投信の需要とは考えにくい部分がかなり膨らんでおり、通常の裁定取引では説明できないと感じている(割高な225インデックスをプロは抱え込まない)。

先物主導急落がないのに裁定買い残が減った

何が言いたいのかと言えば、裁定残が減ったから下振れリスクは少なくなったと考えるのは早計だということである。長年の経験で、本当に裁定解消による下振れリスクが減ったと考えられるのは、誰の目にも明らかな先物主導の急落が起こり、裁定買い残がそれと並行して減少するという動きが少なくとも2~3週続いた後である。今回のSQにかけては数日急落する場面があったが、明瞭な裁定売りは限定的であり、大幅な裁定解消は起こっていないどころか、むしろメジャーSQは買い越しであった。TOPIXでも膨大な売りがあったとは思えない。なのに、裁定買い残が減ったことがミステリーなのである。

年金実需が高値で買い込んだ?

実需でドカンと引き取った投資家がいるのだ、ということはあるかもしれない。GPIFのほか国内株の買い増しを目指す公的・半公的年金が存在し、焦ってすっ高値で買い込んだという可能性は全面的に否定できない。ただしいくら彼らが相場下手であっても、今回のSQのような直近の天井圏で大量に買い付くということはちょっとおかしい。普通に考えると「隠れ裁定」が大量に存在する。いずれにせよ6月末の主要投資家のポジションが明らかになった時点で、この謎のかなりの部分は明らかになるだろう。それまでは楽観を慎んだ方が安全だ。                    (了)

木村喜由のマーケット通信Vol.130620156月19日)

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