イベントドリブン筋が大暴れ

公開日: : 最終更新日:2015/10/27 マーケットEye, 有料記事サンプル ,

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
Vol1343(2015年10月26日)

先週後半の急騰には驚かされた。

225ミニの水曜安値は1万8170円、その夜の高値は1万8620円、木曜は1万8375円まで押した後、夕場ドラギ発言に大きく反応し1万8890円、金曜は1万8900円前後で揉み合った後、夜に突如中国が利下げと預金準備率引き下げを発表し、目先の中国リスクの後退により米国が利上げに動きやすくなったとしてドル円が121.7円付近まで買われたこともあり、1万9145円まで上昇した。

週明け安値からは1065円幅の急騰である。

ドラギ発言と中国利下げで踏み上げを仕掛けた模様

9月29日に1万6900円の安値を付けた後、イベントドリブン型ヘッジファンドは日銀の追加緩和シナリオに賭け大きくリスクオン(強気、景気上向き、金融緩和)に傾斜したポジションを積み上げており、それを追い風として、ロングショート型ファンドは機械・素材・電機など景気敏感セクターを買い、薬品・食品などディフェンシブセクターを売っている。
セクター別の動きの差は歴史的な大きさになっているという。

特に先週末は強気シナリオが図に当たり、慎重派の株式先物売りポジションが大打撃を受けたのを買い方が締め上げ、連鎖反応的に踏み上げが起きていたことが値幅を大きくした模様である。

よくよく考えると、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が示唆した12月の追加緩和は、緩和手段が非常に限られており、中身、実効性という点では大したものにならない公算が強い。つまり今回の上げ幅は行き過ぎの感がある。
一方、金曜の米国では12月利上げ観測が強まったため債券が売られており、中国利下げは支援材料だったとしても、株式の動きは過剰反応のように見える。来年3月に先送りされたと思われた利上げが逆戻りしてきたのだから、どんどん上値を追える環境ではないはずだ。

株価が上がり、米国の年内利上げ観測がぶり返し、ドル円が121円台、株価も1万9000円大台を回復してきたとなると、今月30日の金融政策決定会合での日銀追加緩和の可能性はほぼ消えたと見ざるを得ない。
というのは、日銀が追加緩和した後、米国が引き締めざるを得ないとなると、日米の金融政策の方向性がバラバラになり、過剰に円安が進む可能性が生じる。間違いなくその状況にはFRBが不快感を覚えるだろうし、黒田総裁がそういう心理状態を理解していないということは考えられない。だからここは「一回休み」だろう。また実体経済へのインパクトという意味でも、ここで緩和を打ち出しても意味がない。

しかし今の水準は、緩和観測でフライングして株価が3%ほど、ドル円が2%ほどゲタを履いている印象があり、追加緩和見送りとなった場合はその程度の剥落は考えておくべきだろう。

フォルクスワーゲンに信用不安が浮上、大型増資が濃厚に

旭化成建材の工事データ改ざん、東芝の粉飾決算、フォルクスワーゲン(VW)の排ガスデータ捏造など、コーポレートガバナンスに係る深刻な問題が相次いで噴出している。

問題の悪質性では旭化成が比較的単純な監督不行き届き、東芝が単純な決算の偽装であり、企業の存続に対する疑念までには至らないと見られるのに対し、VWの件はトップ主導の国家規制に対する反逆であり、直接に影響を受けたユーザー数も多く、より深刻である。

直近の『日経ビジネス』では田村賢司編集委員がVWの資産内容に疑問を呈していた。
昨年末のVWの自動車部門の自己資本728億ユーロ(約10兆円)に対しブランド価値・のれんなど無形資産が597億ユーロ、自己資本比82%、うち本来は同根で資産計上が許されない「自己創設のれん」に該当すると見られるポルシェAG関連が328億ユーロ(約4.5兆円)もあるというのである。

さらに本日流れてきた欧州からの報道ではVW側が排ガス偽装関連損失を330億ユーロと見積もっているという。単純計算では、ポルシェの評価を否認し損失額がこの数値だったとすればVWの自己資本はたったの70億ユーロ、1兆円しかないということになる。
これはトヨタの17分の1、日産の5分の1で、富士重工を下回り、一時経営危機に瀕したマツダ、いすゞを少し上回る程度の金額で、到底世界に展開し台数でトップを争う会社のものではない。

これらの処理をした後ではVW自動車部門の総資産は22兆円、自己資本比率5%そこそこになってしまうが、どう考えても一ケタ台の自己資本比率は主力産業でグローバル展開を行う企業に相応しいものではない。
格付機関や債券投資家はこのような財務評価の悪化に非常に厳しい。となると、債券市場で悪い評判が広がる前にエクイティーファイナンスを行う必要がある。それも転換社債のような遠回しの方法でなく、すぐに自己資本比率が高くなる公募増資あるいは特定スポンサーに対する第三者割り当て増資の可能性が高い。その金額も、おそらく1兆円を上回るのではないか。

以前から書いているように、時代の変化を暗示する天王星と冥王星が重要角度を形成している(2008~15年)時期なので、いろいろそれに相応しい変化が起きる。
飛躍的な技術革新、あるいはそれによる大惨事、政治上の大変化、抜本的法改正、価値観の変化、財政危機や倒産などが起きやすい(特に税金や財政を意味する冥王星が凶角度なのでリスクが高い)。

リーマンブラザーズや日本航空がそうだった。中国も転換点を迎えていると見える。
低金利なのに低格付け債の金利が世界的に急騰しており、周期的な倒産ラッシュのピークが接近しつつある。投資は手堅く安全重視がよさそうである。

*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。

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