政府放出株は企業変身の夢を描けるかどうかが決め手
日本個人投資家協会 理事 木村 喜由
Vol1346(2015年11月5日)
日本郵政グループ3社が上場し、大方の期待以上の好スタートを切ったと言えるだろう。
需給面、ファンダメンタルズ面からみて、少なくとも第一回の売り出しでは売り出し価格より高い水準で取引されるだろうという見方は立っていた。時価総額20兆円クラスの大型企業であるだけに、TOPIXに組み入れられる12月末以降はパッシブ運用の年金基金やインデックス投信が必ず大量に保有しなければならないが、今回の売り出しでは国内機関投資家への割り当ては売り出し株数のわずか5%に過ぎず、必然的に上場後に買い付けなければならない。
12月末には確実に、GPIFや日銀が大量に保有しているTOPIX連動型などの大量のインデックス連動ファンドからの買いが入る。下値不安は乏しい。ならば取りあえず先回りして買うのが勝ちと、フライング気味に先回りして買う連中もいるし、(あまり多いとは思えないが)抽選に外れた個人投資家の買いも入っている模様。そんなこんなで、上場後2-3日は堅調になることは安易に予想が付いたのである。
しかし2次売り出し以降になると、その時の株価水準、相場全体の地合いなど不透明要因があまりに多く、飛び付き買いする投資家もおらず、売り出しに応じるべきかどうか損得勘定は微妙である。売り出し前に需給不安が先行し若干割安なところで売り出し価格が決まる公算が強いと思われ、買って損するような値段にはならないとは思うが、今回のようにワクワクするようなお祭り騒ぎにはならないだろう。
現状のがんじ絡めの規制を前提に考えると見誤る
NTT、ドコモ、JR3社、JT、そして今回と、政府放出株の過去の実績を振り返ると、最初の売り出し時点で考えられていた企業イメージと、その後の企業体質の変化を対比すると、筆者自身を含め、いかに投資家がその時の市場環境に左右されやすく、将来を見通す目が貧困だったかということに思い至る。どれも放出時点では厳しい政府規制にがんじ絡めされており、到底高い将来性など期待できないと思われるが、現実はそうでもない。
NTTの初回売り出し時点では、携帯電話の将来性に注目して買った人はまずいなかっただろう。JR3社の売り出しでは、売り出し時点の環境の違いでその後の投資成果には極端な違いが生じている。結果的に、JR東海は初値水準が比較対象の2社のおかげで安く抑えられたため、その後6倍も値上がりすることになった。
時代は変わり、その時々の技術水準、社会環境も大きく変化する。まともな企業、経営者であれば、それに適切に対応するだろうし、場合によっては投資家がバブって馬鹿みたいな高値まで買い上げてくれることもある。そこまで腹を括れるのであれば、儲けられるチャンスは多い。非常に割高というのでないことを条件に、政府放出株は買ってよいということができる。
ちょっとがっかりだった中間決算
5日現在で日経225採用銘柄中152社の発表が完了、時価総額ベースの開票率は71.6%に達している。6日時点では8割を超えてくるだろう。ほとんど未発表の金融セクターを除きすでに大勢は決したと考えてよいが、正直なところ想像をかなり下回る決算内容だったと思っている。
比較可能な3月期決算企業129社に限ると、この7-9月純利益は3兆6700億円・前年同期比5.9%減。減益決算だった。4-9月では、18.0%増益になっているが、それは昨年4-6月が消費税率引き上げの反動で非常に悪かったため。225社全体の通期純利益の見通しも、14兆2129億円から14兆720億円に下方修正となっている。予想は会社予想をベースに過度に控えめなものは筆者が上積み修正している。
包括利益ベースROEが低下
がっかりしたのは過去1年間の包括利益ベースROEで、152社の合計では10.42%まで低下している。未発表のものもまじえると13.68%だが、おそらく225社発表後の着地は11%台前半で、3か月前の数字17.91%からは大失速である。
1年前との比較ではまだ円安が進んでおり、株価の伸び悩みと途上国資産の目減りが急速に進行したことが原因とみられる。中国以外の途上国に大規模な投資をしているところ、資源関連に出資しているところは軒並み相当の打撃を受けている。
日本企業においてそうなのだから、日本企業以上に積極的な海外展開をしている米国企業の打撃が小さいはずがなく、ドル高による彼らの包括利益の落ち込みは相当強烈なものではないだろうか。にも拘らず株価が上昇していることは、バブルの臭いがする。特に利上げ観測が強まって債券利回りが上昇している中で、減益なのに株価が上がっているのは不自然である。
隠れ債務が膨らみ、破綻の恐れ
先週月曜の日経、グローバルオピニオン欄のハーバード大教授ラインハート氏(キューバ出身の女性)の指摘は肝に銘じるべきだろう。我々が統計や公式データで把握できないところで、巨額の隠れ債務が膨張している疑いが濃厚であり、いつ突然にそれが表面化して、世界景気の悪化を招くかもしれない、という趣旨だが、行間を読めば彼女がどうも破綻の恐れが差し迫っていると予感していることが窺われるのである。
もちろんその最大のリスクは規模的にも、資金経路の複雑さからも、中国だろう。まだ中央の制御が効いているから危機は全体的なものにはならないだろうが、部分的な焦げ付きはすでに頻発しているようで、これから始まる地方の鉄鋼会社の整理に絡んで損失処理を不動産売却で埋めるつもりだったのが、画餅に終わったというようなこともありそうだ。
上海株は今は台湾との会合で急騰しているが、実体経済は楽観できないと思う。
*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。
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