わずかな増配で株価が大きく上がるのはなぜか?

金融リテラシー講座「投資のための金利計算」4回

フィナンシャル・アドバイス代表 井上 明生

 

前回は、第2回に出した金利問題の第1問について解説しました。

今回は、第2問について考えてみましょう。

第2問は次のような問題です。

A社の1株当り年間配当は20円であり、現在の株価は配当利回り4%に妥当する値段で取引されています。次期にA社は24円に増配するとして、24円に増配後、配当利回り4%になるまで株価が水準訂正するとしたなら、増配後の株価はいくらでしょうか?

 

株価をkとして計算してみます。配当利回りとは、1株当り配当を株価で割ったものですから、

24円配当で配当利回り4%という関係は、0.04=24÷k という関係になっています。

したがって、

0.04=24÷k → 0.04×k=24 → k=24÷0.04   式①

となって、答えは600円です。この問題は易しかったでしょうか。

増配率と株価上昇率は同じ

ちなみに、現在の株価は、20÷0.04=500 となって500円です。配当が20円→24円に増えれば、株価は500円→600円になるという訳です。

4円の増配で株価が100円も上がることが不思議に思えるかも知れませんが、20円→24円の増配率20%と500円→600円の株価上昇率20%で、変化率は同じです。

さて、ここで理論株価の話をしたいと思います。

理論株価を求めるにはいろんなアプローチの仕方がありますが、代表的なものとしては、配当割引方式というのがあります。「株価は、将来受取るすべての配当を割引いて現在価値にしたものだ」という考えです。

1株当たりの配当額をhとします。割引率rは、期待収益率であって、投資するにあたって自分が期待する利回りを適用します。

理論株価はつぎのようになります。

理論株価式2

ここで配当が一定で同一の配当だとします。つまり1h=2h=nh=hとしますと、式②は次のような単純な計算式になります。

 

理論株価式3

式③は、式①とまったく同じです。つまり、われわれが配当利回りを計算している式は、配当割引方式で理論株価を計算していることと基本的に同じだということです。

 

ここまでは配当は一定で変わらない場合の理論株価の求め方を説明しましたが、配当が変化していく場合はどうなるでしょうか。

毎年一定率で配当が増えるとして、その増加率(年率)をgとし、割引率rより配当増加率gが小さいことを前提として、理論株価は次のようになります。

理論株価4
もし、割引率rより配当増加率gの方が大きいと、式④には収斂せず、株価は無限大になってしまいます。

リートは配当利回り条件は高い

配当が増加するのではなく、漸減するパターンもあると思われます。

例えばリートです。

リートの収益である賃貸料はインフレになれば上がりますが、経済がデフレ気味に推移すれば賃貸料は下がります。インフレでもデフレでもないとしても建物の老朽化によるメンテナンス費用の発生などで正味の賃貸料は減少することが想定されます。リートに投資する場合、配当が毎年数パーセント減ることを想定して投資する方が無難でしょう。

例えば、現状の配当が毎年3%づつ減っていくとして、自分が期待する収益率を4%とすれば、式④のgはマイナスのマイナスでプラスになりますから、4%+3%の割引率で理論株価を出すということになります。これは、簡単な話、配当利回り7%以上のときに投資すべきだということです。

(次回につづく)

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