映画「追憶の森」と円高株安の底値

2016・5・7

ガス・ヴァン・サント監督の映画はどれも見応えがある。「ミルク」「グッド・ウイル・ハンティング」-。彼が有名な「ブラックリスト」(きわめて高い評価を得ていながら制作されていない企画)を脚本にしたのだから、深みのある大人の鑑賞に耐える映画にした。

追憶の森

主な出演者は三人。富士山麓の青木が原で自殺しようとしている米国人アーサー(マシュー・マコノヒ―)と、出口を求めてさまよう日本人タクミ(渡辺謙)、それに死んだアーサーの妻ジョーン(ナオミ・ワッツ)。

森の中での二人(演技合戦が見もの)の会話から、これは自殺の映画ではなく生きる物語であり、さらに愛の物語であることが次第に分かってくる。タクミの妻子の名、岩に咲く花、「楽園への階段」という言葉、「ヘンゼルとグレーテル」。ひとつひとつが最後につながって感動を呼ぶ。一ひねりも二ひねりもしてあるミステリー映画だ。感動的な。

円高株安の悪循環

出口が見当たらない青木が原の森のように、今週来週は円高と株安の悪循環に東京市場は陥ったように見える。

それはそうだろう。4月29日に米国財務省は為替報告書を発表した。今回は2月に成立した「貿易円滑化法」に基づく最初の報告書で、中国、日本、韓国、台湾、ドイツの五カ国を同法に基づく監視リストに載せた。

しかもこの報告書に先立ってルー財務長官は「為替市場は秩序立って行動している」として、日本の円安介入を許さない含意の発言を行っている。

コスト112近辺で円買いをしていたヘッジファンドには千人力万人力の援護射撃で5月3日に1ドル105円。ニッコリ利食いの水準まで進んだ。

輸出企業への打撃は大きい。2016年度平均1ドル106円だと1兆6300億円の営業利益押し下げ要因になる。先週予告した通り5月2日に一時1万6000円の大台を割れ1ドル105円にも瞬間タッチした。

5月6日はまあ横這い。小幅だが円安。しかし、完全な底値は先延ばし、と私は見る。

熊本地震で円はまだ下がる

というのは、円が目標値に達したが、不十分。理由は次の通り。この円高株安は熊本地震に関連がある。ヘッジファンドの運用担当者のロジックはこうだ。

大きな震災損失発生→日本政府は手持ち米国債(1兆2000億ドル)を売却→円高ドル安の発生。

このロジックで2011年の東日本大震災当日の82円が、一時76円25銭まで円高、株価も1万1000円近辺から8100円近くまで下落した。

この方は前から2014年12月か2016年2月にかけて形成したヘッドアンドショルダー、つまり2012年以降の長期ドル高円安は終了した、と主張。下値のめどは1ドル105円、とも。ただ、引け値で105円がつかないと確認にならないと思う。

米財務省報告に逆の含意

一方、日経平均の方も、もう少し下がつかないと。これもテクニカル・アナリストの出番だが、2016年転換説を主張していた三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフ・テクニカルアナリスト宮田直彦さん。5月2日付でこの日の大幅下落を予想し「サポートを1万5705円、5月6日にこのラインを割り込む場合は4月8日安値1万5471円が試される。」とも。

私が円高については、高島修さんの別のレポートを注目している。今回の米財務省の報告書で為替介入について「名目GDP×2%」という具体的な数字を示したこと。見方によってはその範囲の介入は問題視しないというメッセージと読める。一般に言われている見方と違う。

もちろん「米国が日本に臨む財政政策と構造政策が打ち出される」ことが前提となるのだが。

ルー財務長官はたしかに円売り介入に警告を送っているが、高島さんは「昨年のような批判めいた調子は薄れた」と指摘している。そこで「経済対策の発表後も円高に歯止めがかからないなら、円売り介入も」と結論付けている。ただし、円売りドル買い介入を「リスク」としているのだが。

底は105円、1万5000円台

結論。105円、1万5000円大台が当面の底。ヘッジファンドの円買い買い戻しはもう始まりかけているが本格化はもう少し先だろう。

映画のセリフから。アーサーが言う。

「よくあるだろう。人生を変えるような大きな瞬間。何が大切か気づく瞬間だよ」。

相場も同じ。

私は今回、当たり屋の意見を中心に申し上げたが、私は外国人投資家が2016年1~3月で5兆を超える売り越しだったが、4月は3週間で9500億円買い越したことを注目している。

一方為替は安倍首相の5月5日ロンドンでの記者会見で質問に答えて「急激で投機的な動きがある。為替の安定が望ましいし、必要に応じて対処してゆく」と述べた。「秩序」が見られないという発言もあった。ヘッジファンドの連中はヒヤリとしたはずだ。ただ、安倍さんには内需振興政策という渡るべき川があるが。

ヒラリー勝利確実

ここまで書いて今7日の午前4時。大変なニュースが飛び込んできた。CNNがEメールゲートの調査結果を近く発表するが、何も違法性はなかった、との内容、というもの。これでヒラリーの勝利は確実。WSJは70%の確率、と。トランプ大統領の悪夢は去ってしまった。NY株式市場が弱かった雇用統計にもかかわらず上げた背景だろう。日本にとってまず、一安心だ。

 

映画「追憶の森」と円高株安の底値(第825回) 映画「アイ アム ア ヒーロー」と大逆転(第824回) 

今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ
ジャイコミ有料記事テキスト画像

関連記事

今井澈のシネマノミクス

【初・中級者向き】映画「ブリジット・ジョーンズの日記」と第一回TV討論会とドイツ銀行

  2016・10・2 女性に大人気の「ブリジット・ジョーンズ」シリーズの第三

記事を読む

松川行雄の相場先読み
1万8500円から1万9000円辺りが
日経平均のターゲット

松川行雄 増田経済研究所 増田経済研究所では「黄金銘柄リスト」として仮想ポートフォリオを組んでいる

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「トップガン マーヴェリック」と、中国経済の苦境と日本のインフレと円安。私の強気。(第1118回)

36年ぶりの「トップガン」!! 当然私は観に行き、充分に満足した。お勧めできる。 主役

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「フェイブルマンズ」と欧米の銀行の破綻。(第1164回)

高値比半分になった小麦、そして今回の「ドカ」の行方 人間、歳をとりたくないものだ。誰でも加齢

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

【初・中級者向き】映画「ダンケルク」と日米の政治危機

  2017・9・18 ダンケルクとはフランス北端の港町でドーバー海峡に面して

記事を読む

PAGE TOP ↑