【中・上級者向き】株主優待のメリットをフル活用しよう

公開日: : 最終更新日:2018/02/05 有料記事 ,

 

株主優待は世界に類を見ない日本独特の制度であり、実施企業数は増加の一途を辿っている。個人投資家は優待株を長期保有する傾向があるので企業にとってありがたく、そのため個人の安定株主獲得に向けてプレミアム感のある記念優待を実施したり、長期保有株主の優遇を打ち出す企業も増えている。

3月は決算期末で株主優待の権利を確定する企業が多い。したがって2~3月は株主優待を見込んでの長期投資を始める好機である。

今年から始まった積立てNISAは年間投資限度が40万円と低いため、投資信託に振り向けるよりむしろ、小額の投資でも配当に加えて優待のメリットが楽しめる日常生活に密着した個別銘柄への投資に適している。

この際、株主優待制度の功罪とメリット活用に当たっての注意点などを考えてみたい。

 

全上場企業の1/3が株主優待を実施

 

 株主優待を実施している上場企業数は1,433社(昨年11月末)と全上場企業に占める割合は35.7%。10年前と比べると3割ほど増加している。そのうち長期保有株主への優遇を実施しているのは315社と優待実施企業の22%に上っている。

 ただ、優待内容は3千円程度のクオカードの配布とか精米5キログラムといった株主数確保を目的としたものが過半を占めている。

 会社法は、株主の権利の行使に関して何人に対しても財産上の利益を供与することを禁止している。

ところが、株主優待制度は一定数の持ち株以下の個人株主だけを対象としており、法人株主や外国人株主などは排除されている。したがって、この禁止規定に抵触しないのか、議論の余地は残されているものの、社会通念上許容される範囲であれば差し支えないものと解されている。

優待内容をどこまで高額化できるのかは、この株主平等の原則との関連で原則的には軽微なものに限られる。ただ、自社製品の提供や自社レストランでの食事券配布などは原価が判然とせず、年間数万円に上る結構高額の優待が行われているケースもある。

 もっとも、鉄道会社がかなり高額の優待乗車券を交付したケースで社会通念を超えていると判定された裁判例もあり、クオカードといった金券については3千円程度を限度とする扱いが定着している模様である。

 また、株主に対する「配当」には配当規制が課せられているが、「優待」については金券であっても現物配当には当たらず、規制の対象とならない。

 

株主優待のメリット

 

 株主優待は情弱な個人投資家を盲目的に自社に引き付ける手段として利用されているだけで、コストを掛けて企業の財産を株主に移転させているだけとの否定的な見方もある。しかしながら、企業・株主双方とって次のようなメリットが存在するのも事実である。

  1. 株主優待は会社法の分配可能額の規制対象外であること。配当には分配金規制が定められており、配当できない期もあるが、優待には制約がない。もっとも、配当ができないような株に優待重視で投資することは通常はあり得ないであろうが。
  2. 優待による配分には配当所得税が掛からない。「配当」として還元されれば課税されるのに対して、たとえ金券であっても「優待」には課税されない。
  3. 企業側も、「優待」は剰余金の処分ではなく費用として損金処理できるので、節税メリットがある。

 

 もちろん個人投資家は、優待のメリットだけに目を奪われることなく、企業の業績や株価見通しを総合的に織り込んだ判断をしなければならない。

 

日本マクドナルドとすかいらーくに見る

株主優待戦略

 

 個人の株式投資戦略に企業側の株主優待戦略を取り込んで、両者ウイン・ウインの関係を構築できれば理想的である。

 これが可能であるのかどうか、日本マクドナルドとすかいらーくの2社についてケーススタディーを試みたい。

 

日本マクドナルドは5年前から業績が悪化し始め、さらに使用済みの鶏肉使用や異物混入問題などの不祥事が続発して倒産の危機まで囁かれていた。不祥事による客離れの結果、売上が激減して2014年と15年には赤字決算に転落した。(表1)

ところが、株価の推移を見ると、この危機の2年間を通してきわめて堅調であり、逆に若干値上がりしている。これはまことに不思議な現象であり、アナリストにとっても謎であった。(図1)

株価が下落しなかった理由として、この間に株主優待狙いの個人の買いが継続的に入ったという見方が有力であり、これは首肯できる。現に同社の株主数は増え続け、26万7千人(2018年1月現在)と飲食業では吉野家に次いで多い。

同社の優待内容は100株につき優待食事券1冊で、この1冊に「バーガー類、サイドメニュー、飲み物の無料引換券6枚(約3千円相当)が入っており、柔軟に選べる。株価3,000円の時期には配当30円と併せて、4%程度の総合利回りであった。

同社の業績は優待重視の個人投資家に支えられて見事に復活し、今期は過去最高の業績を記録するものと見込まれている。

一方、すかいらーくは昨年2月に従来の3倍の食事券を贈呈するという株主優待の大幅拡充を発表した。1,000株保有の個人株主には年間69,000円の食事券が配布される。1,600円内外の現株価では、配当を含めた総合利回りは6%程度となる。

同社はガスト、バーミヤン、ジョナサン、藍屋などの商号で3,144店を全国展開、売上3,545億円、経常利益312億円(2016年12月期)を上げている最大手の飲食店チェーンである。

同社は経営悪化により2006年にMBOで上場廃止、2011年には外資系のベインキャピタルが過半数を抑える筆頭株主となって経営再建を図った結果、2014年に再上場を果たした。

再上場後はベインキャピタルの持ち株を売却して来たが、この際個人株主を大幅に増やして完全撤収すべく、同社の打ち出したのが優待3倍戦略である。

これまでのところ市場はほとんど反応せず、株価も低迷を続けているが、同社の株主数はすでに25万2千人とマクドナルドに迫っている。

同社は新業態である「ハワイアンダイニング&カフェ」の展開を昨年6月に発表し、若者を引き付ける作戦に出ている。客層が拡がれば、破天荒な株主優待と相まって業績進展が期待できるかも知れない。

 

株主優待の積極的活用を

 

 この二つのケーススタディーから判る通り、株主優待は軽微なものに限るとされているにもかかわらず、場合によっては企業の業績や株価に大きく影響することもあり得る。

 長期保有を指向する個人投資家としては、株主優待を魅力的な投資機会と捉えて積極的に活用すべきであろう。

 ただし、そのメリットとリスクには次の諸点があり留意したい。

  1. 効率的に優待のメリットを享受するには、最少の投資額で多くの銘柄に分散投資する方が有利。
  2. 優待内容はフルに活用できるものでないと意味がない。たとえば、ホテル会社の宿泊料5割引き優待券は公示価格からの割引きである。実勢の宿泊料はこれを下回っていることもあり、利用メリットがないケースも多い。
  3. 配当利回りを考慮に入れた総合利回りを重視すべき。
  4. 株式投資はあくまでも業績や株価重視で行うべきであって、通常の優待は副次的な誘因と割り切ること。

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