【初・中級者向き】映画「スマホを落としただけなのに」と私の(再び)少数派シナリオ

 原作は読んでいないが、SNSミステリーという新ジャンルは「セルラー」や「リミット」が面白かったので観たら、ヒッチコックの名作が下敷きの作品で、まずまずの出来だった。その前日「SEARCH」を観たが、この方は主演の父娘が韓国人なので、書くのも嫌になって、止めた。この国には、「教えず、与えず、かかわらず」が一番いい。

 主人公の麻美(北川景子)は、恋人の富田(田中圭)がタクシーの中でスマホを忘れ、そこから情報が盗まれ、悪用され始める。データの破壊を人質にして金銭を要求され、ITサポートの技術者に依頼、問題はすぐ解決した。しかし、これはほんの手始めだった。

 この映画で、プラネタリウムを二人で観た恋人同士の会話。富田が言う。「僕の好きな映画にこう言うセリフがあるんだ。太陽が爆発しても、僕らは8分間、何も知らない」。これは、スティーブン・ダルドリー監督の「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」だな。
 
富田は、まだスマホを落としただけ、という軽い気持ちだが、実は自分の知らないところで恐ろしいことが着々と進んでいる。そういう事態を暗示しているセリフだ。

 私がいま弱気な理由は、企業収益の見通しにかげりが出たこと。年度上半期(4~9月)の上場企業の純利益は19%増だったが、下半期は15%減益。その結果、年度間ではわずか1%増益に止まる。理由はもちろん貿易摩擦だ。私流の表現を使えば「新冷戦不況」だ。
 
もちろん、これが大事に至るまい、という楽観論が現状だ。とくにこの2,3日、ヘンリー・キッシンジャー氏が訪中し、月末の米中首脳会談でコトがおさまるという説が出ている。王岐山副主席もそんな演説をした。

 しかし、そんなに簡単にすむ話ではない。いや、ありえない。これは米中の技術覇権戦争だ。習近平は党内権力闘争もあり「製造2025」などの看板政策はオロせないだろう。

 忘れるところだった。企業収益の下期減益の背景で最も重要なのは、日本国内の景気だが、これが不安、というとアレレと思われよう。

 「気が付けば景気後退の瀬戸際?」という嶋中雄二さんの11月9日付月例景気報告をご紹介しよう。

 今回の景気拡大局面に意外なリスクがあった、と嶋中さんは言う。もちろん自然災害、貿易摩擦が入るが、このほかに、三つのリスクを挙げている。

 第一は、2017年8月をピークに「一致・遅行比率」が低下を続けていたが、最近ことに大きく下降。これは先行きの企業収益低下のサインである。
 
第二は日銀によるテーパリングにより、マネタリーベースやマネーストック(M2)の動きが減速し水準も低いこと。
マネタリーベース伸び率は2018年10年の5・9%、と前年同月の13・2%の半分以下に落ち込んでいる。嶋中さんは「当然、景気にもマイナスの影響を与えていよう」と述べている。

 第三が公共投資の落ち込みである。2018年度上半期は実質ベースでマイナス3・3%。「7~9月期も一段とマイナス幅が広がりそうだ」と見ている。

 政府は11月7日に第一次補正予算9356億円を成立させた。1月の通常国会では明年1月のでは数兆円規模の第二次補正が成立しよう。もちろんこれだけでは景気上昇には不十分だし、社会資本の整備も欧米に比べて貧弱、と指摘する。

 株価形成の最大要因である企業収益の先行きに不安があるのだから、戻りが売られるのは仕方のないこと、としか言えない。私には、マーケットが声を挙げて警告していると思う。国内だけでなく、貿易戦争で海外への輸出にも黄信号がともっているのだから。

 映画のエンドロールで流れる歌「ヒミツ」の歌詞から。「まばたきしている間に、世界がどうなっているとか、つゆも知るよしのない私を見つめ直す」。10月4日ですべてが変わってしまった、と私は思っています。

(第933回)2018・11・11

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