ベートーベン「第九」と日米のグレートローテーション(第992回)
年末になると方々で演奏される名曲中の名曲。最近、NHKでベートーベン
の健康と絡んだ番組を観て新しい事実をずいぶん学んだ。
第一は例の難聴。「若年発症型両側性感音難聴」という1万人に一人の難病
であったこと。
第二は、晩年になって肝臓が悪化したこと。当時は治療法がなく、黄疸になっ
たということは、死刑宣告に近い。恐らく遺言のつもりで作ったのが「第九」
であったこと。
第三は「歓喜の歌」というシラーの詩を使ったが、フロイデという歓喜の言
葉は、検閲を恐れてフライハイトという「自由」を意味する言葉の代わりに使
われたということ。
第四は当時の欧州が、革命の反動で王制に戻って、音楽が再び王侯貴族のも
のになりそうだった時期の作品。したがってシラーの詩「時の流れが厳しく分
かつ」という部分は、再び階級格差が生まれたことを意味している。
そこで「第九」へのベートーベンの意図は、再び音楽を市民のものとして取
り戻すことにあった、というのが,このNHKの番組だった。
同時に、貴族だけのものだった演奏会をチケット制にして、最高で5万円、
最低3500円として、貧しい市民にも自分の音楽を楽しめるようにした。
「第九」は第四楽章の独唱、コーラスが始まるまで、ほぼ1時間かかる。つ
まりベートーベンにとりその時間は主張を明確にする歌曲の前の前奏曲に過ぎ
ない。
最近の米国株式市場を観ていると、爆発的な上昇前の「前奏曲」のような感
じがする。
トランプ大統領が当選して以来、ダウ平均の上昇は55%、幅は1万ドルを
超えた。
ところが2019年秋には、米中貿易戦争が激化し、グローバルな景気後退
が懸念された。銀行間の取引に信用不安が発生しかけており、短期のレポ金利
が一時10%まで上昇した。早速FRBは行動を起こし「準備金管理」と呼ぶ
実質QEを実施した。月間600億ドルという資金である。FRBは短期資金
供給だからQEではないと強調しているが、マネーフロー分析では、短期だろ
うが長期だろうが関係ない。
QEⅡの2010年11月から2011年6月までの7か月。6000億ド
ルを供給したのと多少似ている。600億ドルを2019年10月から明年第
二四半期末までなので、八ヶ月,4800億ドル。当初の資金投入を入れると
6000億ドル。
九月時点では、米国景気後退懸念を持つ投資家は、十年ぶりの高水準だった
が、12月で様変わり。FRBの三度の利下げとQE4と、米中の協議の一時休
戦という好材料が発生した。
「債券王」ジェフリー・ガンドラック氏は弱気を主張していた人だが、最近
、先行指数からは米国経済は景気後退を示唆していない、と姿勢変化を示した
。
日経の21日電子版での記事によると、JPモルガンのストラテジストの、「
債券から株式への投資の転換(グレートローテーション)」が起きる、との見方
を発表。シティグループも同じ見解だ。
同記事によると、2019年債券ファンドに8000億ドルの資金流入があった。一
方、株式ファンドから2000億ドル流出した、にもかかわらず株価が上昇した。
2012年と2016年、ともに株式ファンドから2000億ドル以上流出しても株高
。その翌年は25%近辺の上昇をみた。これがグレートローテーションの「成果
」である。
では日本株の方はどうか。大型予算は好材料に違いないが、財源は相変わら
ずで、単年度でとどまってしまう懸念あり。採点は50点。悪くはないが大きな
寄与になるか、どうか。
12月19日決定された日銀のETF保有分を市場参加者への貸し付け開始は、
あまり注目されていないが、やはりプラス材料だろう。
2020年1月から日米双方の関税を削減、撤廃する日米貿易協定が発効
。GDPは0・8%押し上げられるとされている。全体としては多少プラスだ。
関連銘柄の方には大材料だろうが。
やはり、中国の景気が次第に反転しかけていることが、最大の材料だろう。
もうひとつ。忘れていた。日本の方でも、債券価格は下り(金利は上昇)マ
イナス金利がほとんどゼロからプラスに転じ、株高につながっている。すでに
日本でもグレートローテーションが開始されているのかも。
「第九」のベートーベンが作詞した部分。「おお友よ、このような音ではな
い。我々はもっと心地よい歓喜の歌を歌おうではないか」。そうです。歓喜は
近いのです。
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