シェイクスピア「リチャード三世」とバイデン大統領を織り込み始めたNY、そして日本株長期上昇のサイン(第1020回)
15世紀後期のイングランド。ランカスター家とヨーク家の王位をめぐる戦い「ばら戦争」の末、ヨーク家のエドワード四世が王位に返り咲く。この作品はエリザベス女王の時代に起きた史劇ブームに乗ったもの。ヘンリー四世、五世、六世、リチャード二世、そしてこのリチャード三世。
ローレンス・オリヴィエの主演、監督した映画を私は高校三年の時に観た。後年仲代達矢さんが富山で上演したときも。英国でオリヴィエのDVDを買ったが、欧州型でまだ観られない。
あらすじは込み入っているのでカンタンに。エドワード王の末弟リチャード(グロスター公)は「背が低く、手足が不自由で、背は曲がり、左肩がひどく上がり、人相が悪い」。(なりほどハンサム名優が演じたくなるはずだ。)王の位を狙う。そのための悪行は次から次へと。
エドワード王の次弟クラレンス公に謀反の噂を流して投獄させ、最後は暗殺。
自分が殺したランカスター家のエドワードの妻アンと結婚。(この場のオリヴィエの演技は凄かった)。後に何とそのアンを殺す。
クラレンスの死に気落ちしたエドワード王は死去。幼い王太子と弟をロンドン塔に幽閉し、後に殺す。
死体の山の上にリチャードは王位に就く。しかしそこが彼の人生の天井。次第に支持者は離れて行き、ついにボズワースの戦いで戦死。
ここまで述べれば、トランプのことをイマイさん書いているな、とお気づきだろう。
今週私は丸紅の執行役員で経済研究所所長の今村卓さんにお会いして、「トランプ再選の可能性を伺った。「まだ4か月ありますからね」「しかし(現状では)糸を針の穴に入れるくらい難しい」というのが今村さんの結論。
お会いしたのが7月10日、米連邦最高裁の判決が下った日だ。ワシントンとNYの地裁で起訴された2案件が最高裁に挙がったが、が、第一は差し戻し、第二は再調査。したがって懸念されていたトランプの地位への直接的な影響は全くなかったと言っていいほどだ。
恐らくこの裁判で、トランプ有罪を予想したのだろ。有力出版社サイモン・シェスターがトランプの姪のメアリーの暴露本を7月28日から7月14日に発行を早めた。残念でした。予約による売れ行きじゃすごいらしいが。
では、なぜ今村さんは「針に糸を通す」というほどトランプ再選に否定的なのか。答えは「自滅です」と。
たしかに、現職大統領に新人が挑む場合は、現職に対する信任投票になる。現在のアメリカはコロナによる死者数は13万人、失業率は6月で11・1%。
加えてトランプ氏が「自滅」したのが、例の黒人のフロイド氏死亡事件での発言や態度。これで“Black Lives Matter”運動が全米で盛り上がってしまった。これが「自滅」とのことだ。
実はトランプ再選の可能性は言われているほど悪くないと私は考え、このブログでも再三、述べてきた。
しかし、大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリストは「NY株式市場はバイデン当選を織り込み始めた」というレポートを送ってきた。理由は次の通り。
- 米国の恐怖指数つまりVIX指数の先物が、フロイド氏事件以降急上昇。
- 7月第1週の米国経済統計は市場予想より良く、それも歴史的な上ブレ。にもかかわらず、景気敏感・バリュー株物色とならなかった。
- ナスダック指数は逆に堅調
私は環境重視の米国民主党の政策から推して、テスラ株が急伸したことも挙げたい。
では、バイデン候補がこの「敵失」をどう生かしているか。①選挙資金でトランプ陣営と接近(6月末で選対本部プラス外部資金3・1億ドル、トランプ側3・53億ドル)②党内左派と融和し、党内有力者の支持を取り付けた。もともと信任が厚い黒人層は、トランプ大統領の自滅もあって支持率81%と圧倒的。
バイデン候補はすでに「政権移行チーム」を立ち上げ、ヘッドにはテッド・カウフマン氏。バイデン氏の上院議員当時の首席補佐官である。
ただし、ご本人の活動のほうはほとんど目立っていない。双日総研のチーフエコノミスト吉崎達彦さんによるとトランプ大統領がつけたあだ名は「居眠りジョー」。
たしかにコロナが猛威を振るった時期には三か月間も自宅にこもり、最近でも大規模な集会は避け、出るときは必ずマスクをしている。
それで、グーグルによると、4年前のヒラリー・クリントン候補に比べて検索数は圧倒的に少ない、とか。
では、この状況と日本の政治や経済、特に株式市場はどうなるか。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ・テクニカルアナリストの宮田直彦さんは「6月に日経平均に長期強気シグナルが出た」としている。
具体的には日経平均の12か月移動平均が24か月移動平均を抜く「ゴールデンクロス」(GC)が6月末に完成。
宮田さんによると、このGCはきわめて稀で、ダマしが少ない。またアベノミクス以来三度目。
一回目は2013年1月の1万1138円から2015年7月2万0585円までの30か月目で84・8%上昇。
二回目は2017年6月の2万0033円から2018年9月2万4120円まで。16か月で20・4%上昇。
私の調べたところ、トランプ=安倍の良好な関係をバイデンになっても維持するべく、水面下で外交交渉が行われているらしい。
外国人機関投資家も、先物中心に日本株を買っているし、やはり強気らしい。
では肝心のNYのほうはどうか。10日は最高裁判決を無視する形で、NYダウ、ナスダックの双方上伸した。
私はまだ、トランプ再選を信じている向きが相当な比率でいるとみている。
法人税21%から28%への上昇、富裕税も増税。やはりバイデンの当選が決まれば株高は考えにくい。
リチャード三世の終幕のセリフから。「間抜けめ!わしはこのサイコロのひと振りにわしの命を賭けている。いい目が出る迄、テコでもここから退かんぞ」。私も日本株の2万5000円説からテコでも退かない。
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