金融不安と合成AIがバブルを膨らませている

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金融不安と合成AIがバブルを膨らませている

日本は順調だが米国経済は悪化に向かいつつある

先月、米国新興銀行の相次ぐ破綻により、大手IT企業など信用度の高い一握りの銘柄に預金からの逃避資金が集中するという、従来見られなかった現象が起こっていることを指摘した。その後画像処理などの分野に特化した半導体企業NVIDIAの好決算により、ChatGPTなど合成AIに対する期待が爆発的に盛り上がったため、相互刺激的にバブルが膨張し、前回執筆時よりもNASDAQは10.5%、SP500は5.9%上昇した。

米国のマネーサプライは大きく減少し、景気の先行きを示すISM製造業指数は50を下回ったままだ。ハイテク景気に連動する半導体受注および市況はなお落ち込んでおり、半年後の投資を示す日本の工作機械受注は5月分が22%減になっている。インフレと円安を加味すれば実質3割近い減少だ。足元の景気は、サービス産業と雇用の堅調、旅行などリベンジ消費の継続に加え、財政支出の一時的拡大により一見好調に見えるが、年末に向けて急速に悪化する公算が濃厚である。

市場の期待に相違して金利はまだ上昇傾向だし、一株利益は大きく減少する。両者の掛け算で計算される妥当株価は、従来より下がっているのに、株価は逆に大きく上がったのだ。だからこれはバブルである。ただしバブルは理由があってそうなっている。夢は夢として受け入れ、その実現性と幻想に飽きがくる時期を冷静に見る必要がある。

今晩FOMCがある。9割方現状維持の見通しだが、前日発表のCPIのコア指数が5.3%上昇とまだ高水準なうえ、FRBの引き締めをあざ笑うように株価が上昇しているため、見せしめ的に0.25%利上げする可能性が残っている。

先行きを楽観視する向き(現在の市場トレンド)は今後短期金利は急速に低下し業績は上向きに転じると考えているが、それが間違いと判明するのは時間の問題だ。膨張した債務に対する金利負担や賃金コストは大幅に膨らんでおり、銀行の貸出態度はリーマンショック直後並みに慎重である。米議会は債務上限問題で合意したが、その結論は10月以降の新財政年度裁量的支出を1%増以内にすること。これはインフレ調整後では実質4%減であり、大きな景気悪化要因となる。

一方日本ではコロナ後の景気回復が本格化しつつある。蓄積された貯蓄が消費に向かいインバウンド需要も急回復している。久々の消費主導景気が来ている。

日本株大幅高だが、米国につれ高しただけ。自律性ほぼなし

日経225は年初から3割、3月安値からほぼ25%上昇したが、ほぼ米国系投機筋の一手買いと見られる。買いは225先物や半導体関連に集中しており、バフェット氏らバリュー系長期投資家の買いはごく一部にとどまっている。225主導で上がっても、GPIFを筆頭に国内年金などのバランス運用の投資家は増えた株式比率をリバランスするため、TOPIX連動の保有株を売りに出す。結果的に225買いとTOPIX売りが市場で交錯するから、NT倍率が安値だった1月4日13.766倍から6月13日14.579倍に大きく上がったのである。

外国人は年初から現在まで現物先物合計で7兆円余り買い越したと推定される。米国における銀行預金からGAFAMTなどへのシフトや合成AI祭りのような動きが、日本に波及したものである。国内勢では自社株買いが推定3.5兆円。これに個人、年金、法人の持ち合い解消売り合計10兆円が吸収された計算になる。自社株買いは積極的に株価上昇を目指す性格の買いではないので、一連の上げは全面的に外国勢に依存したものと見てよい。

しかし米国でいつまでこの動きが続くか、予想は難しい。本来なら株価は下落しているはずのものが、突発的事件の結果資金シフトが起きたからである。筆者の観測が正しければ、業績悪化とマネーの縮小が割高銘柄のバブル部分を押しつぶすはずである。それは過大に評価されていた成長期待の部分も小さくする。縮小過程では買い手不在となるので、短期間に一気に急落する形になる。

今後、強く警戒されるのは7月23日から6週間の金星逆行の時期である。天井打ち、底打ちなどの転換点、突発的な株価急落要因の出現などの、市場におけるビッグイベントが起こりやすい特異点で、19か月に1度の割合で起きる。現状では高値圏で迎える公算が強いが、その場合、2007年8月のパリバショックからリーマンショックに至ったような長い道のりを意識しておく必要がある。

91年8月にゴルバチョフ政権下のソ連でクーデターが起きた時も同じ位置で金星逆行が起きていた(レッドマンデー)。ロシアは経済制裁により戦争はおろか生産活動に必要な物資(消耗品や交換部品)も枯渇しつつあり、日ごとに生産部署が機能を停止している。ソ連が崩壊したのは一次産品の価格下落で軍事費や公務員給与が支払えなくなったためだったが、もっとみじめな形でプーチン政権はそういう事態に直面するであろう。いずれにせよウクライナ問題は新局面を迎える。(了)

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