基本の話by前田昌孝(第20回、タダより高いものはない)
<オンライン2社が手数料無料に>
オンライン証券首位のSBI証券と2位の楽天証券が8月31日、日本株の売買手数料を無料にすると発表しました。SBI証券は9月30日から、楽天証券は10月1日からです。何か勝算があるのでしょうか。
2022年度の手数料収入の内訳をみてみます。SBI証券は2023年3月期、楽天証券は2022年12月期です。

今回、無料にするのは委託手数料です。このなかには今回は無料の対象にならない外国株の委託手数料が含まれています。まるまるこの金額が消えるわけではありません。委託手数料の純営業収益に占める割合はSBI証券が24・4%、楽天証券が32・9%です。
<委託手数料のウエート下がる>
ただ、10年前の2013年3月期決算(当時は楽天証券も3月期決算)当時は委託手数料の純営業収益の割合がSBI証券で42・7%、楽天証券で54・7%でした。もし当時、国内株の委託手数料収入がなくなっていたら、両社とも存在が危うくなっていたかもしれません。
なぜ、委託手数料への依存度が低下したのでしょうか。それは他の収入項目で膨らんでいる金額から類推することができます。まずはその他の受け入れ手数料。10年前に比べ、SBI証券は8・2倍の321億4800万円に、楽天証券は3・4倍の87億6700万円になっています。その多くは顧客が保有している投資信託の信託報酬のうちの販売会社取り分ではないかと思われます。
<投信の販売残高が急増>
SBI証券と楽天証券の投信の販売残高の推移はグラフの通りです。

トレーディング損益も大幅に増えました。一つは顧客と相対取引をしている店頭外国為替証拠金取引(FX)の収益が膨らんでいるからです。もう一つは内外の債券を個人顧客にも販売していますので、その関係の損益が膨らんでいるのではないかと思われます。
いまや個人の株式売買の70%(8月第1週から第4週までの実績)が信用取引ですから、オンライン証券会社が受け取る金利収入は相当なものになっています。金融収益は金融費用を差し引いたネットでみるのが普通ですが、直近の決算でこの金融収支はSBI証券が10年前の3・7倍の372億600万円、楽天証券が10年前の4・5倍の231億2300万円になりました。
<投信の信託報酬もゼロへの競争>
株式の委託手数料は「ゼロへの競争」というよりも、もうゼロという到達点に達した感がありますが、投信の信託競争は目下、「ゼロへの競争」の真っ最中です。今回、引き下げ競争を仕掛けたのは、野村アセットマネジメントでした。
この挑戦に対し、全世界株型で最も残高が多い「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」を運用する三菱UFJ国際投信は、追随するかどうか逡巡していましたが、最終的に9月8日から信託報酬を半額程度に引き下げ、野村アセットマネジメントの競合商品と同じ水準にすることを決めました。

<真の顧客の利益になるのか>
証券会社の委託手数料にしても、投信の信託報酬にしても、下がれば下がるほど、顧客のメリットは大きくなるように思えますが、ビジネスとしての持続性が確保できないところまで踏み込んでしまうと、最終的に顧客の利益が守れなくなるのではないかという懸念もあります。
オンライン証券でいえば、必要なシステム投資が十分にできなくなり、顧客によいサービスを提供できなくなる恐れがあります。人件費も抑制せざるをえませんから、有能な人材が寄り付かなくなる可能性があります。
運用会社の場合はさらに深刻な問題を抱えかねません。手数料競争に参戦したすべての投信が、規模のメリットを享受できるまで、純資産総額が積み上がるとは限りません。というか、十分に大きくなる投信なんてごく一握りで、あとは赤字を出しながら手数料を引き上げることができない「ゾンビファンド」が大量に出現するのではないでしょうか。
タダより高いものはないことを再認識するのは顧客なのか業界なのか。責任ある経営判断をすべきときではないかと思います。(マーケットエッセンシャル主筆)
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