基本の話by前田昌孝(第21回、資産運用業改革って何?)

岸田文雄首相が9月21日に米国で講演し、日本に海外の資産運用業の参入を促すため、資産運用特区を設置する方針を表明しました。日本で「貯蓄から投資へ」の資金シフトが進まないのは、国内の運用会社が十分な役割を果たしていないからと考えているようです。この見立ては本当に正しいのでしょうか。

<資産運用特区を創設>

岸田首相の発言のポイントは次の通りです。「日本における資産運用セクターが運用する資金は800兆円で、足元3年間で、1・5倍に急増している。このパフォーマンスの向上をねらい、運用の高度化を進め、新規参入を促進する。まず、日本独自のビジネス慣行や参入障壁を是正し、新規参入者への支援プログラムを整備する。あわせて、バックオフィス業務のアウトソーシングを可能とする規制緩和を実施する」

「海外からの参入を促進するため、資産運用特区を創設し、英語のみで行政対応が完結するよう規制改革し、ビジネス環境や生活環境の整備を重点的に進める。世界の投資家のニーズに沿った改革を進めるため、皆さんも参加いただいて、日米を基軸に、資産運用フォーラムを立ち上げたい」

この発言に対しては「どこかずれている」と感じている市場関係者も少なくありません。いちばん違和感があるのは、優れた海外の運用会社が日本に来れば、投資信託の運用パフォーマンスが向上し、「貯蓄から投資へ」が進むと考えていることです。

<リターンは内外互角>

そもそも海外の運用会社は優れているのでしょうか。図表は純資産総額250億円以上の公募株式投信485本について、運用会社の内外別、タイプ別の年初来リターンの平均値を示しています。

すべてのタイプを通算して、外資系運用会社が運用する89本の投信のリターンの平均値は14・60%でした。国内運用会社が運用する396本のリターンの平均値は14・55%でした。ほぼ互角といってもいいのではないでしょうか。

「資産運用特区」を設けて外資系運用会社を優遇するというのも、正しいアプローチなのでしょうか。資産運用会社がビジネスをしやすい環境を整えたいというのならば、それは国内系と外資系を分け隔てする必要はないように感じます。外資系に参入を促すかどうかに関係なく、早くやってもらいたいことです。

日本にわざわざ外国人のファンドマネジャーを派遣したいと考える会社も少ないのではないでしょうか。優秀な人材は自分のキャリアアップにつながらないような場所で仕事したいとは考えないと思います。

<投信比率は過去最高なのに>

岸田首相は9月25日に東京都内で開かれた全国証券大会でも「資産運用立国」への思いを語りました。「国内外の優れた金融機関や人材が日本に集まり、互いに切磋琢磨(せっさたくま)することで運用能力を高め、より良い商品やサービスを提供する金融資本市場を実現したいと考えています」

何をどう改革するというのでしょうか。少なくとも今年の投信の運用パフォーマンスを見る限り、資産運用業に何か改革すべき問題があるようには感じません。日銀の資金循環統計によると、新型コロナウィルス流行下の2020年1~3月期から2023年4~6月期までの投信への資金流入は銀行預金への流入に次ぐ大きさになっています。

個人金融資産の占める投信のウエートも2023年6月末に4・74%と、2007年12月末の4・67%や2015年6月末の4・68%を上回り、過去最高になっています。

それでも首相や金融庁は何かしたいのでしょうか。資産運用業にもっとはっぱをかけ、2115兆円の個人金融資産を投資に動かせというのは、図式としてはわかりやすいですが、一朝一夕に進むことではないでしょう。まずは日本を持続的な成長が期待できる国にすることが政府の仕事であって、枝葉末節に口を出すのは得策とは思えません。(マーケットエッセンシャル主筆)


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