基本の話by前田昌孝(第23回、「辰年高い」は本当か)

2023年の株式相場もあと1カ月を残すだけとなりました。来年の相場を占う話もちらほら聞こえ始めてきますが、十二支に絡んだものとしては「辰巳(たつみ)天井」という兜町の格言があります。あまり合理的な根拠はなさそうですが、相場の変動にはアノマリー(根拠のない経験則)も付き物です。過去の実績を点検してみます。

<6回の平均で28%の上昇>

何はともあれ、戦後の日経平均株価の変動の実績を振り返ってみましょう。辰(たつ)年は1952年、1964年、1976年、1988年、2000年、2012年とこれまでに6回やってきて、年間上昇率はそれぞれ118・4%、マイナス0・7%、14・5%、39・9%、マイナス27・2%、22・9%でした。

図表1は1950年から2022年までの日経平均の推移を示しています。棒グラフの赤い部分が辰年です。良かった年も悪かった年もありますが、6回の騰落率の平均値はプラス28・0%です。図表2に示すように、辰年は十二支のなかでは最も平均上昇率が高いです。1952年の上昇率が118・4%と極めて大きく、これに平均値が引っ張り上げられているからです。

この結果、12年に1回の辰年だけ日経平均に沿った運用をし、他の干支の年は休んでいたと仮定すると、投資元本は3・11倍になります。辰年には必ず日経平均が28・0%上昇するのならば、投資元本は4・4倍になる計算ですが、現実には日経平均が27%も下落する辰年もありましたから、そこまでは届きません。

「辰巳天井」は十二支と株式相場との関係を示す格言の一部を切り取ったものです。全文は「子(ねずみ)繁盛、丑(うし)つまずき、寅(とら)千里を走り、卯(う)跳ねる。辰巳天井、午(うま)尻下がり、未(ひつじ)辛抱、申酉(さるとり)騒ぐ。戌(いぬ)笑い、亥(い)固まる」となっています。

図表2と見比べてみてください。「尻下がり」とされる午年は日経平均が下落していますし、「つまずく」とされる丑年はほとんど上昇していません。格言とちょっとイメージが異なるのは「千里を走る」とされている寅年の平均上昇率がほぼゼロにすぎないことです。たぶん相場の寅は千里の道を走り通すのではなく、半分の五百里の道を行って戻ってくるのでしょう。

<相場の専門家は十干にも注目>

「子繁盛」で始まる格言は十二支に注目したものですが、この手の話が好きな投資家は十干にも注目しています。きのえ(甲)から始まりみずのと(癸)まで10年で一巡します。2023年は最後のみずのとでしたから、2024年には最初のきのえに戻ります。図表3に示すように、きのえは株式市場では新しい相場が芽生える年だと解されています。

十二支と十干を組み合わせると、2024年は「きのえたつ」に当たります。十二支は12年で一巡し、十干は10年で一巡します。12と10の最小公倍数は60です。前回、干支が「きのえたつ」になったのは60年前の1964年でした。次回、「きのえたつ」を迎えるのは60年後の2084年になります。

なぜ60歳を迎えると赤いちゃんちゃんこを着て還暦のお祝いをするのかというと、生まれた年と同じ干支になって、赤ちゃんに戻ると考えられているからです。ひのえうま(丙午)生まれの女性は気性が荒いなどという迷信もあります。次回のひのえうまが2026年に迫っているため、前回の1966年同様、一時的に出生率が低下するのではないかと懸念する向きもあります。

もっとも十干と戦後の日経平均騰落率との関係を示した図表4に示す通り、きのえ年には株式相場は上昇するもののそれほど大幅ではないようです。戦後に7回あったきのえ年相場の平均上昇率は3・8%にすぎません。7回のうち3回は日経平均が下落しました。

十二支との関係では2024年の株式相場は力強い上昇が期待できそうですが、十干との関係ではさほどの上昇ではないようです。この経験則に合理的な根拠はありませんから、お話し程度に聞いておけばいいといえばそれまでですが、相場のアノマリーは多くの市場参加者が信じることによって、再現の可能性が高まるとの見方もあります。

<上がるといいですけれどもね>

干支と株式相場との関係を示す経験則はどこまで信じられるのでしょうか。この手の話はバカバカしいと考えて相手にしないほうが得策かもしれません。しかし、専門のエコノミストやストラテジストの予想も、いくらもっともらしく聞こえても、外れるときは外れます。ベテランの投資家のなかには「どんな予想も話半分に聞くだけだ」と達観している人も少なくありません。

合理的に根拠を説明しづらい経験則にはもっといい活用法があります。

筆者は経済の先行きも株式相場の先行きも誰にも予想できないと考えています。ところが、友人や知人から「来年の相場はどうなると思うか」とよく聞かれます。わかりもしないのにもっともらしいことを言って、外れたら罪作りです。かといって「わかりませんよ」などとつっけんどんに答えたら、人間関係が悪化するかもしれません。

こんなときには「戦後6回の辰年相場の平均上昇率は28%と、十二支のなかでは最も高かった。ただ6回のうち2回は下落し、27%も下がった年があった」などと知識を披露しておくと、意外と納得感があるものです。「上がるといいですけれどもね」と付け加えれば、上出来です。(マーケットエッセンシャル主筆)

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