木村 喜由の『マーケット通信』
ソフトバンクがアリババで大当たり 一粒万倍の海外投資

*木村喜由のマーケット通信は今後、有料記事で掲載予定です。サンプルとして無料公開しています。

日本最大の投資の名人、孫正義氏

先週18日、長らく話題になり続けたアリババが米国上場を果たした。公開価格は68ドルだったが、初値は92.7ドル、円安のせいもあるがいきなり時価総額は23兆円となりトヨタを上回った。現在のネット関連株は世界的に過大評価されていると見ており、今の水準が実力とは思わないが、新規公開時点でこれほどの規模となったのは前代未聞で、事件といえる。

これにより最も潤った日本企業がソフトバンクである。2000年に創業者から出資を求められ20億円出資しただけだが、先週末時点でこれが8兆円弱となり、ざっと4000倍に値上がりしたことになる。出資当時のソフトバンクの時価総額は6兆円以上に達していた。その後ITバブル崩壊で2000億円まで急減したが、以前にも生まれたばかりの米ヤフーに出資して大当たりしたことのある孫正義氏にしてみれば、何ということもない決断であったろう。

振り返ってみれば、日本最大の投資の名人は孫正義氏ということになるだろう。元々の事業はパソコン関連の出版とソフト販売で今でも大した市場規模にはなっていないが、投資の成功を機に分野を変えてきた。旧日本テレコムとJ-Phoneを買収したボーダフォンが失敗、投げ出したものを買い取り、有線通信も携帯電話も見事に立て直し首位のドコモを抜き去った。アリババへの出資はそれよりずっと前のことである。

さらに言えば、長期投資でソフトバンク株のアップダウンをうまく捕らえることのできた個人投資家も、遜色のない投資の名人と言える。何せ97年安値1670円から2000年高値19万8千円、そこから827円まで売り込まれ、それが3株に分割されて先週末8740円となっている。118倍に上がり、239分の1に値下がりし、そこからまた31.7倍に値上がりしている。仮に最初の安値の2倍で買って、高値の半分で売って、最安値の2倍で買って、直近高値の半値で売ったとすると、最初の上げで29.64倍、今回の上げで7.96倍となる。単純に掛け算すると最初の資金は236倍になる。時間的効率、経済環境のハンデを踏まえるとウォーレン・バフェット氏の成果をはるかに上回っている。

まあこれは机上の計算に過ぎないが、海外投資で大成功した企業は探せば結構ある。古い話では鉄鋼の大和工業、最近では岩塚製菓などである。

軍師官兵衛を彷彿とさせる大和工業の柔軟自在

海外投資で成功した事例のパイオニア的存在は5444大和工業だろう。円高が進んだ87年、米国進出を決断し、ニューコア社と合弁企業を設立、その後ニューコア株を買い増し。92年には商社2社と共にタイで合弁企業を設立。2002年には韓国、その後バーレーン、サウジと展開を広げている。今では実質的な日本の比率は2割程度まで下がっている。素材産業では突出して早い海外展開であった。

04年3月時点で株主資本は1235億円、関係会社向け投融資は323億円になっていた。経常利益121億円のうち持分法利益は45億円。10年経過した直近期ではそれぞれ2437億円、827億円、197億円、102億円となっている。一株純資産は1251円から3533円に増加している。変ですね、株主資本が2倍に増えただけなのに一株純資産は2.82倍に増えている。その理由は自社株買いも積極的に行っているからである。

この会社、姫路が本社であるが、まさに地元出身の軍師勘兵衛を見習ったような、その時代に即した柔軟自在で果断、それでいて財務や体力からすれば無理のないレベルで新規投資を行っており、筆者の評価可能な分野での行動は満点である。

海外ファンドが目をつけた岩塚製菓

もう一つ海外投資で大当たりした会社は2221岩塚製菓。新潟本拠の菓子メーカーとしては亀田製菓、ブルボンなどの強豪が存在したし、商品自体は割高感が強く敬遠する人も多いと思うのだが、台湾系企業ワンワンチャイナ(中国旺旺)に30億円出資したところこの会社が急成長して08年には香港市場に上場するほどになり、この含み益が膨張して一株純資産は03年3月期の1726円から直近期12215円まで増加した。

本体の営業利益は前期4億円強で大した会社ではないのだが、受取配当金が19.4億円となり、一株利益も244円となった。これらに注目したのは日本人ではなく海外のバリュー投資型ファンドで、外国人持株比率は約20%に上昇した。流動性の乏しいJASDAQ銘柄でも割安と見ればどんどん買い進んでくる。市場で売る気などないのだろう。

面白いのは、せんべいメーカーとしては圧倒的に格上と思われる、新潟単独上場だった亀田製菓が東証移管に伴い大手証券のカバー対象になり、株価が大きく上昇したものの、PBRは岩塚の4倍も高いため外国人持株比率は2.9%でしかなく、彼らにとってはほとんど魅力のない存在であることがわかる。

 個人で選ぶより専門家のフルケア投資に乗った方が安全

個人投資家のレベルで大化け可能な未公開株の買い付けはほぼ不可能で、そういう話が持ち込まれたらほぼ100%詐欺である。まして海外の未公開株など考えるべきではない。しかし、間接的にであれば可能だ。しっかりした会社が新興企業に少額出資するケースは、その日本企業の株価が安値圏なら買ってみるのもよい。投資対象の時価総額が大きい場合は危険で、高値掴みとなる確率が70%以上である。大体、会社売買のブローカーから持ち込まれた話で、後でとんでもない大赤字の源泉になる場合も少なくない。 (了)

Vol.1232(2014年9月22日)

関連記事

no image

大井リポート
規制と課税の“大きな政府”がウォール街を押し潰す

セイル社代表 大井 幸子 9月16−17日に行われたFOMC(連銀政策決定会議)でイエレン議長は、

記事を読む

「ベルサイユのばら」と、私によく寄せられる質問。「日経平均は3月に4万円の大台を回復した後モタついているが、なぜか?」

2024・6・2(第1227回) 「宝塚のベルばら」といえば、美しいメロディの歌とダンス、そ

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「妻への家路」とEメールゲートとヒラリー・クリントンの運命
今井澂・国際エコノミスト

今週は「博士と彼女のセオリー」も観た。しかし主演のホーキング博士のソックリさんぶりが良かったが出来は

記事を読む

no image

2015年を読む③
大井リポート
薄氷の相場、浮上した分リスク膨らむ

セイル社代表 大井 幸子 日銀の超緩和策のおかげで「けっこう危うい先まで銀行の融資が伸びている、そ

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「慕情」と時限爆弾化した香港問題とNYダウの行方、 そして日本株 (第1017回)

映画「慕情」と時限爆弾化した香港問題とNYダウの行方、 そして日本株 2020・6・21 (

記事を読む

PAGE TOP ↑