【初・中級者向き】映画「アイ・イン・ザ・スカイ世界一安全な戦場」と一時的円高

 

2017・1・8

戦争映画というと戦闘シーンがつきものだ。しかし今回私が観た「アイ・イン・ザ・スカイ」はドローンによる戦争と、その戦争から生まれる倫理的問題を取り上げた。なかなかの力作だ。

英米合同でテロリストを追う英軍大佐パウエル(ヘレン・ミレン)はドローンで得た情報からケニアのナイロビに潜む過激派の拠点を発見、自爆テロ計画がわかり、テロリスト5人の殺害を指示する。

ネバダの米軍から遠隔操縦ミサイルを発射しようとしたその時、攻撃目標の近くにパンを売っている少女を見つける。攻撃の道徳性と合法性の議論が英米の政治家、軍人で構成される指揮チームで激しく行われる。とくに大きなテーマは巻き添え被害。

死者を出してしまったら反欧米感情でわき上がり、大物テロリストを仕留めてもプロパガンダとしてはマイナスになる。一方パウエル大佐など現場は、6年間追ってきた大物テロリストを抹消したい。政治家は「やれ」という決断を何とか回避して責任を取りたくない。決断は米国大統領に持ち込まれ、顧問が「やれ」と。これでミサイル発射になる。

実は「世界一安全な」という題は責任を取らない政治家を皮肉った題。政務官×無任所大臣⇒外相⇒法相⇒英首相⇒米大統領とたらい回しだ。

日本経済はもう上昇軌道

決断の責任をだれも取りたくないのは日本もおんなじ。新年にあたって方々の研究所のエコノミストたちが、思い切った決断をしたがらないのに似ている。いい例が日本経済で、もう上昇軌道に乗っていると思うのだが、数字になって出てきていない。

日本経済がいい数字も続出させないと、まだ2017年のアベノミクス成功は大方の同意を得られないのだろう。

バイロン・ウィーン氏の10サプライズに「日本経済は実質2%成長、株式市場は他の先進国の上昇率を抜く」とした。世の中30%の確率でしか信じられていないが、ウィーン氏が70%起こりうるというのが、サプライズの理由だからだ。

これを含めてブラックストーン副会長としては、こんなごく当たり前の見通しがサプライズ?と思わせるものが多い、多すぎる。

  1. トランプ大統領は過激な発言を政策面ではやわらかくする
  2. 米国成長率は3%をこえる
  3. S&P500は2500を超える
  4. ユーロは下落し対ドルでは1対1を割り込む
  5. 10年物米国債利回りは4%を超える
  6. メルケル首相は10月に選挙で敗北
  7. 原油価格は60ドルいかな
  8. トランプ大統領は自分が対中戦略で誤っていたと認める
  9. 日本
  10. ISは脅威でなくなる。

へええ、この中でサプライズは⑧ぐらいじゃないか。

人民元安が招く円高リスク

私が注目した「決断」がある。2017年の世界経済のリスク要因は、人民元安が引き起こす円高の指摘。SMBC日興のチーフエコノミスト牧野潤一さんだ。(1月4日付マクロレビュー)

牧野さんは「2017年のリスクは二つ。中国と欧州」。欧州のほうを先にすると「選挙リスク」だがEU離脱派がオランダ総選挙とフランス大統領選挙で勝つ確率は低い。

中国は①景気リスク②元安リスクの二つ。①の方は景気対策の息切れと3,4月ごろに急減速。

②の方がすでに外貨準備の急減で表面化しているが、1月20日に就任するトランプ大統領が中国を為替操作国に認定する見込み、当然、人民銀行が行っているドル売り元買い介入は不可能になり、一気に元安が進む。これは世界市場のリスクオフ要因であり、円高リスクにつながる。

日経平均は一服で押し目

一方日経平均は大発会からの大幅上昇は、当り屋の三菱UFJモルガンスタンレー証券の宮田直彦さんの「4-6月2万3000円」という目標値で、それゆけやれゆけになったのだろう。まあスピード違反だし、一服するのはいいことだ。年初の一時的円高株安は大歓迎。押し目を待っている投資家はゴマンといる。私の長期上昇説、カンカンの強気はご存じのはずだ。

私はマスコミも悪いと思う。強気より弱気の見方を重視し、いまだにアベノミクスによる景気上昇は認めない。

私が最も信用しているエコノミストの嶋中雄二さんは、昨年年央から世界的に景気上昇と見せたと言っている。一方私が重視する鉄スクラップ価格は文字通り急騰している。全都道府県で求人倍率が1を超え、東京は2倍、民主党政権時代の0.47と天と地ほど違う。いずれ人手不足で賃上げから消費好転に向かうのは必至とみている。上げ相場の開始期は景気までよくなるのを織り込んでいるのが普通だ。

「上昇相場は懐疑のうちに育つ」と私の師サー・ジョン・マークス・テンプルトンは言っている。

 

映画のセリフから。

映画の中で、女性の英政務次官が終わりに言う。「本当に恥ずべき戦争だったわ。あなたは安全な場所から戦争したのよ」。この次官は責任を取らないで、そのくせ正義ぶる。昔の社会党の女性議員にそんなのがいたなあ。今だと某女性大学教授かしら。

なお、トヨタをトランプ氏がツィッターで叩いたとさわいでいるが、フォード、GMと来るとトヨタにひと言やらなきゃあバランスがとれない。カローラのメキシコ生産は対米ではない。大騒ぎすることじゃない。

 

映画「アイ・イン・ザ・スカイ世界一安全な戦場」と一時的円高(第860回)

今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ

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