木村喜由のマーケットインサイト
2014年8月号
嵐近し、安値買いのチャンス

公開日: : 最終更新日:2014/09/19 マーケットEye ,

日本個人投資家協会 理事 木村 喜由

前回、儲けにくい時期なのだから無理せずポジションを軽くすることを推奨した。予想以上に米国株が踏ん張ったほか投機筋の仕掛け的な動きもあって日経225は7月まで上値を追ったが、年初の高値には届かずその後8日間で1000円余りの急落を見た。上げも下げも投機筋の策動的な仕掛けによるものであった公算が強いが、儲けにくい時期なので無理はせぬようと述べたのは正しかったと思っている。

近づくQEバブルの終わり

今回の米国市場の上げは、後世にQEバブルと名づけられる上げ相場となり、遅くとも年内に相当大幅な下落を見る公算が強いと思っている。リーマンショックという未曾有の金融危機に際し、中国も含め世界の主要国が一致団結して危機の脱却に総力を挙げた。そのクライマックスが終わりつつある。

リーマンショックから約6年が経過しようとしているが、企業収益は近代における最高レベルとなっている。金額でなく、利益率においてだ。だが、現状を好景気という人は少ないだろう。当然だ。一握りの経営者と大株主意外はその恩恵に被っていないからだ。逆に被雇用者、勤め人の立場は非常に弱く実質賃金は横ばいか低下している。

リーマンショックにより、既存主要産業においては新規参入がほぼストップした。競争が減り、賃金が上がらず、技術革新は着実に進む。その結果、先行者利得がかつてないほどに膨張している。その結果が高い利益率なのである。

本来ならこれほどの利益率は実現しなかっただろうが、バーナンキ・イエレンの超金融緩和路線の米国が主導して、黒田日銀、ドラギECBが追随すれば、リスク性資産に資金は雪崩れ込む。上がった相場は資産効果、すなわち儲かった投資家による太っ腹な消費、投資によって景気を実力以上に押し上げるのである。今の利益率はそういうバブルの結果なので決して実力と解釈してはならない。

債券利回りとの対比、歴史的なバブル期のPERなどと比較すると、米国株価は割高ではないが、そもそも債券利回りが異常低水準であり、利益率もゲタを履いていると判れば、上値追いに慎重になる。最近の世界の株式市場は、天井波乱期のパターンと考えるべきだろう。信頼できる銘柄だけ維持し、その他は高いところで利益確定を進め、突如起きる暴落のリスクを削減するのがよいと思われる。

二極化が進む日本株、安値買いのチャンス

4-6月期決算発表が終了したが、全体として結果は良くもなく悪くもなくで、株価水準を動かすほどではなかったと見ている。包括利益すなわち会社の保有資産価値の変動を含めたベースでは、この四半期の利益は年率7%未満だったと思われる。円安基調がストップすれば、実力はこんなものだろう。

株式市場はファンダメンタルズ半分、人気半分である。筆者は人気銘柄に対してはなるべく批判的に、売り叩かれた銘柄に対しては好意的に解釈するようにしている。過剰に値上がりし、過剰に値下がりしているからである。極端な相場を真に受けてはならない。結果を見れば明らかだ。人気銘柄の盛りは驚くほど短く、墜落は急激だ。逆に過去に花形だった銘柄が地に落ちた後の復活劇は、上昇に転じてから追いかけてもリスクが少なくリバウンドの成果は目覚しいものが多い。その筆頭はソフトバンクであろう。

最近のチャートを見ると、8月8日の急落で早くも年初来安値水準まで下がった銘柄が多数ある一方で、逆に高値圏における小反落に留まっている銘柄も結構多いことに気が付く。筆者が買いたいと思うのは、前者の銘柄が、今秋の再度売り込まれた場面で安値になったところである。逆に、現在過去5年の高値圏にあるものは早々に利益確定をお勧めする。

ジンクス、日柄面ではここから3か月は非常に危険なタイミングとなる。率直に言うと暴落が起きやすい時期である。こんな時期に強気ポジションを大きく抱え込むことは危険極まりない。逆に、突っ込んだところを買うことが出来れば、その後の反発で大きく儲かるチャンスが潜在しているということができる。強気を言うのは下がってからにしろ、と言いたいのである。

米国ではテーパリングが終了、欧州ではデフレが一段と深刻化しつつあり、あちこちで国際紛争が広がっている。安値の銘柄を売る必要はないが、現状で強気ポジションを広げるというのは愚かしい。戦わずして勝つ、勝ちやすいときに勝つのが孫子の兵法の教えるところである。不透明感とリスクが高まった現状は、現金を多めに買いのチャンスを待つのが賢明である。今年の10月から半年程度は、日本株の安値買いのチャンスになりやすい時期と見ており、着実な事業を展開している銘柄が安値であるならぜひ拾って置かれるとよいだろう。(了)

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