【初・中級者向き】映画「万引き家族」と対北朝鮮ふたつの特需

 

2018・5・20

この原稿を書いているのは5月19日。カンヌ映画祭の結果がまだわかっていないが、コンペティション部門に出品された21本の映画の中で15日まででは最高の評価を得ていたのが、この「万引き家族」だ(スクリーンディリー3・2点でトップ、最高賞のパルムドール受賞)

是枝裕和監督は5年前のカンヌで審査委員賞を獲得した「そして父になる」のテーマを再び取り上げた。家族を家族たらしめているのは「血」か、あるいは一緒に送った時間か。重い問いかけだ。

映画は、祖母初枝(樹木希林)の年金と万引きで生計を立てている家族が、寒さで震えていた幼い少女を家に連れてきたことから始まる。
今にも崩れそうな狭い家の中で、仲睦まじく暮らす彼らの日常を突然の危機が襲う。

是枝監督は、「本当の家族とは」という記者の問いに「永遠に一緒にいられなくても、共に過ごした時間が、それぞれの人生の中に深く刻印されること。そのこと自体が家族なのではないか」と答えている(中央日報5月17日)。

発電に鉄道

いま、朝鮮半島の南と北で「血」が強く意識されている状況だ。今月末には韓国文大統領直属の北方経済協力委員会が「新北方政策」のロードマップを発表する。「北」の完全核放棄を引き換えに、経済再建を援助することになる。膨大なインフラ投資が必要だ。

去る13日、米ポンペオ国務長官はフォックスTVのインタビューで「北が核を完全に放棄すれば米国の民間企業による投資を認めるかもしれない」と述べた。ポンペオ長官はインフラ、電力を中心としたエネルギー、農業の三分野が「北」にとって最も重要という認識である。ボルトン国家安全保障担当補佐官も同じような発言を行っている。
問題は巨額な投資をどこが負担するか、だ。アジア開発銀行(ADB)がどこまで負担に応じるか不透明。94年のジュネーブ合意の場合には、韓国が「北」に建設された軽水炉発電所の費用の7割を負担した。1兆6400億円(16兆ウオン)。

今回はどうか。これまでとはケタが違いそうだ。鉄道、航空路線、電力、ガスーどれも数兆円から数十兆円になりそうだ。しかも「北」はかつてのような衣料、縫製などではなく、ハイテク産業や造船所を望むのではないか(朝鮮日報5月15日)という見方もある。

韓国政府は2014年、北朝鮮の鉄道開発だけで8兆5000億円、と必要額を推定している。また2005年に韓国政府は「北」に200万KWの送電を提供したが、3300億円かかった。その後「北」の電力網の老朽化はひどく、漏電率は何と70%に達しているといわれる。現在の「北」全土の電力網改修には少なくとも10兆円はかかるだろう。また軽水炉方式の発電所建設は一基当たり3600億円かかるので、何基も必要とすると1兆円以上はかかる。(この北朝鮮特需が日本の出番になるんです。これホント)。

会談キャンセルで攻撃準備も

一方、NY株式市場では最悪のケースを想定した「北朝鮮特需銘柄」が動き出している。ヘッジファンドのごく最近の動きをご紹介しておくと、今回の南北閣僚会談キャンセルはひょっとすると米朝首脳会談の延期またはキャンセル、交渉決裂になり、限定的だが攻撃準備が始まるかもしれないとみる。そこで米軍の限定攻撃関連銘柄を早くもサービス会社が作成、大手ヘッジファンドは16日から買い始めた。これも「北朝鮮特需」だ。

具体的には、レイセオン、ロッキード・マーチン、ウエスコ・エアークラフト、クラトスディフェンスなど。すでにこれらの特需銘柄は17,18日の両日に上昇している。

ただし、先日のポンペオ訪朝の折、6月12日の会談の4週間前から1週間おきに進捗状況を相互報告すると合意。15日には「北」から順調に準備を進めていると連絡があった。これが22日の相互報告で「北」がどんな対応をしてくるか、米国政府は待ち受けている。

政権不安売りが買い戻しへ

ただ、トランプ大統領から安倍首相に「対北朝鮮の経済制裁解除後の日本による経済援助の検討を進めてほしい」と連絡があった。このことは日本人の拉致被害者解放を意味するし、安倍訪朝までトランプ大統領が決めてくれることを意味する。当然、安倍おろしクーデターは、お気の毒だが大敗北だ。政権不安で売っていたヘッジファンドは買戻しに入るだろう。来週22日に北から連絡がこないで「凶」と出れば別だが、円安日本株買いが続き、9週連騰になるだろう。

映画のセリフから。母の信代(安藤サクラ)が妹に言う。「血がつながっていない方がいい時もあるじゃん」「そうね。期待しないだけ、ね。」株価の方は大いに期待してください。

ご報告です。6月24日(日)会場は未定ですが、東京でフォレスト出版主催で講演会を開きます。くわしくは来週以降に。とりあえず。

映画「万引き家族」と対北朝鮮ふたつの特需(第909回)

今井澂(いまいきよし)公式ウェブサイト まだまだ続くお愉しみ

ジャイコミ有料記事テキスト画像

 

関連記事

今井澈のシネマノミクス

ステファン・ツヴァイク「歴史の決定的瞬間」と、トランプ大統領のコロナ感染 (第1032回)

 本題に入る前に、例の東証システム停止の件について、これは「事故」ではなく、某国の「脅迫」と考える

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

【初・中級者向き】映画「無限の住人」と地政学リスクとメタ・ハイ

  2017・5・7 なにしろキムタクのチャンバラモノ、三池崇史監督だ

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「男はつらいよ お帰り寅さん」とNYダウ3万2000ドルを予告したホワイトハウス (第993回)

 新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。  昨年は米中

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

映画「虹を掴む男」とこの上げ相場の目標 (第989回)

「ポケタ・ポケタ・ポケタ」 「虹を掴む男」の主人公ウオルター・ミテイは幻想癖の持ち主だ。幻想

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

「平家物語」と2025年に起こるかもしれない安保条約の廃止。その後の意外な日本の繁栄。

「平家物語」と2025年に起こるかもしれない安保条約の廃止。その後の意外な日本の繁栄。 20

記事を読む

PAGE TOP ↑