2015年を読む⑦
2014年に儲かったのは債券、今年は株
JAIIセミナーレポート

ジャイコミ編集部

前回の長谷川慶太郎理事長「逆オイルショックの真の狙いはロシア服従」に続いて、1月24日に開かれた日本個人投資家協会新春セミナー「2015年世界を読む」のレポートをお送りします。

ジャイコミにて「金融リテラシー講座」を連載中の井上明生さんによる、2015年と長期の日本株展望です。年金運用に長年携わってきた視点から、とっても分かりやすい語り口でお話しいただきました。

年初から強烈に動いている債券

井上明生さん

私の主たる仕事は、トーホー(業務用食品卸)という会社の企業年金資産の運用管理です。今日は、企業年金資産の運用者の立場でお話します。

足元のマーケットは、株が年初から乱高下していて、昨年とパターンが似ています。ただ、昨年に比べて少し勢いがありません。ドルが年末から比較的強く、ドル高・ユーロ安となっています。 実は円も強いのです。対米ドルでむしろ押し気味なのは円です。米ドルが強いですが、円も負けていません。主要通貨のなかで円が一番強くなっています。

乱高下しているものの注目されない債券

今年に入って強烈に動いているのは債券です。 日本の10年国債は1月20日に瞬間、0.2%を割れました。ところが22日に0.31%まで急騰しました。また22日には20年国債は3円近く下落しています。

この1日で3円近い下落というのは日経平均株価でいえば500円、いや債券と株式は違いますから、日経平均でいえば1,000円位の変化でしょうか。日経平均が1,000円動くと絶対ニュースになりますが、23日の日経新聞では債券の記事はありませんでした。

いま世界的に国債のマイナス金利が広がっています。日本も5年国債が瞬間的にマイナス金利になりました。4年国債までマイナス金利です。22日に急落し、プラスになりましたが。スイスは10年物ぐらいまでマイナス金利です。5年物は0.59%とかなりのマイナスです。日本のマイナス金利はほぼゼロ%ですが、スイスはー0.7%のものまであります。おそらくこの動きは長期化するのではないでしょうか。

セミナー資料国債利回り

2014年、米国債は6~7割上昇

2014年は、何に投資していたらパフォーマンスがよかったかというと、実は先進国の債券なんです。日本、アメリカ、ドイツ・・・。ドイツ国債10年の利回りは、2013年は一時2%を超えていましたが、今は0.4%台です。債券の単価がものすごく上昇しています。

債券投資になじみがない方はぴんとこないかもしれませんが、米国債30年に投資していますと単価は3割以上値上がりしています。2014年は円安になりましたので円ベースでは約5割上がっています。

でも、これは利付債の場合であって、ストリップ債に投資しているともっと凄いです。米国債30年のストリップ債に投資していれば、単価は6~7割上昇しています。円ベースの投資では1年で9割から約倍の上昇となっています。2013年は先進国の株式が大きく値上がりましたが、今お話したように2014年は先進国の債券が大きく値上がりしました。

今年は消去法で株

今年の運用方針は、毎年迷うのですが、消去法で株しかないかな、と考えています。今年の日本株は、昨年同様、上下10%程度の動きとみています。昨年も安い場面はありました。安値では丹念に拾っていけばいいので、そんなに弱気になることはありません。 自動車と自動車関連は万年割安です。それと専門商社です。総合商社も買われてもおかしくないと思っていますが、経営者に任せるというような投資になるでしょう。米国株ETFに投資する手もありますが、国内個別銘柄への投資で十分ではないでしょうか。全体相場にはあまり反応しない、債券的な銘柄を入れておくべきです。

債券は買うものがありません。さすがに国内債券は徐々に売っていくしかありません。世界的にみても、米国はそこそこ金利がありますが、さすがに買えません。まともなものでは投資するものがありません。 自然体でいくと、債券を売って、株の比率が高まっていきます。

国内リート・バンクローンは鬼門

賢明な投資家が近寄らない方がいいものは国内リートですね。今売らなくても、いきなり下がることはないでしょうが、持つ意味はほとんどありません。同じ利回りの株式はいくらでもあります。バンクローン証券化商品は個人向けにも売ろうとしていますが、どうでしょう。サブプライムローン証券化商品と同じではないかと思います。

日経リンク債もまた少しずつ出てきています。為替仕組み債も出てくるでしょう。仕組み債は基本的に買わないほうがいいでしょう。オプションをやりたいのなら、自分で買った方がいいです。

実体経済はそれほど悪くない

実体経済は、昨年より今年の方がむしろいいかなという感じがしています。1年前はエコノミストは強気でしたが、今は弱気です。でもそんなに悪く考えなくてもいいのではないかと思っています。 原油安は効かないはずがありません。交易利得がかなり改善するのではないでしょうか。消費増税で失われた分は取り戻せます。

それと低金利が効いてきます。量的緩和はマーケットに効きますが、低金利は実体経済に効きます。いま、住宅ローンもマイナスで借りられます。新規着工は駆け込みがありましたから当然いったん落ちましたが、少し戻ってきています。外国人観光客も好材料です。

アメリカ経済も過熱はしていない

アメリカ経済は堅調ですが、過熱しているわけではありません。この10年で米国の人口は増えていますが、自動車販売は2004,5年の水準には達していません。失業率が低下してきたといいますが、90年代なかば以降4~6%に収まっていたのがリーマンショックで一気に上がり、戻ってきたのです。2002、3年の失業率が6%程度で、今がそのぐらいです。FRB(米連邦準備制度理事会)が気にしているのは労働の中身と賃金です。

世界的に低成長です。だから株式は心配ないでしょう。2006,7年には私も失敗しましたが、今思えば、実体経済が異常に過熱していました。今はおそるおそる、です。そのなかで上げている企業収益ですから、過度に心配することはないでしょう。

(続く)

*「JAIIセミナーレポート」は今後、有料記事として掲載予定です。サンプルとして掲載しています。

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