株主総会探訪記~2015~
「デレ」を見せ始めた
ツンデレ企業のファナック

公開日: : 最終更新日:2016/07/28 マーケットEye, 協会ニュース, 無料記事

ジャイコミ編集部

2015年の株主総会集中日となった6月26日の午前9時すぎ。ジャイコミ編集部の一員は富士急行・富士山駅(山梨県富士吉田駅)に降り立った。
目指す先は今年4月に株主還元を強化したことで話題となったファナック(山梨県忍野村)だ。

同社は工作機械のNC(数値制御)装置で世界トップシェアを誇る。この数年はスマホ向けのロボドリルの需要が好調だ。自動車工場などで使われる産業用ロボットでも有名。財務面もピカイチで営業利益率4割、無借金の超優良企業である。

一方、情報開示に非積極的な企業としても知られてきた。日本証券アナリスト協会が経営陣のIRに対する姿勢などを基に評価する「ディスクロージャー優良企業選定」(2014年度版)では100点中18.8点。対象企業251社の平均が70.1点なので、その低さは突出している。

送迎バスも黄色、制服も黄色、傘も黄色

富士山駅の改札口を出ると社員の方がいた。外に送迎用バスが待っているという。駐車場に向かうとすぐにそれだと分かった。バスの車体が真っ黄色だったからだ。

9時30分すぎ。19人の株主を乗せてバスが出発した。
前の席のおばちゃんがガラス窓越しにスマホで富士山を撮影しようとするが、なかなかシャッターチャンスをつかめない。おばちゃんが悪戦苦闘しているうちに、バスは「ファナック通り」から針葉樹が生い茂る森の中へと入っていった。

道を進むと木々の合間に黄色の建物がいくつか見えてくる。さらにバスは進み、正門らしき門をくぐると、1つの建物の前で停車した。ここが目的地のようだ。バスを降りて3歩先は会場の入り口。慌てて立ち止まり「総会会場」のたて看板の写真を撮影した。

送迎バスを降りるとすぐそこが総会会場だった

受付の女性従業員の制服はもちろん黄色。ふと見ると入り口横にある傘立てには淡い黄色のビニール傘。ペットボトルの水とお茶についてくるコップも黄色。これでもかというほどの「ファナックイエロー」のオンパレードだ。
(このイエローは、同社が富士通の一事業部だった時代、事業部ごとの報告書等を区別しやすいように黄色が割り当てられたことが発端だという)

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大学の講義で使われる階段教室のような部屋へと進む。300~400人は座れるのだろうか。参加している株主は年配者を中心にざっと90人くらいだ。
着席して受付でもらった「本日のスケジュール」をみる。10時~10時40分までが総会。その後、会社案内ビデオの上映と工場見学会となっている。

ただ、このスケジュール、総会での質疑が「15分程度の場合の目安」とされている。今年は株主還元強化などトピックも多いので、そんなに短いだろうかなどと考えていると、総会が始まった。

想像以上におしゃべりだった稲葉社長

部屋に入ってきた稲葉善治社長以下、役員は・・・普通のスーツ姿だった。さすがに黄色のジャケット姿とはいかないか。
総会は監査役からの報告、稲葉社長による事業報告(招集通知にある事業報告の読み上げ)と、極めて普通の展開。ようやく質疑応答の時間となった。

株主からの最初の質問は、「財務体質の改善をしてほしい。社員1人当たり、給与の3倍以上稼がないと財務の改善にならない。あと、仕損費(不良品が発生したことによるコスト)はいくらか」というもの。
稲葉社長は「私ども、すでに1人当たり年間の給与の3倍は稼いでいるのでご心配なく。さらに利益の改善には全力を挙げていきます」と答える。
仕損費については、権田与志広・副社長が「会社全体の損益に影響を及ぼすほどの金額は発生していない。月1回、経営幹部が全員出席参加する会議で、重要な仕損がないかも徹底している」と回答した。

富士山麓に本社を構える同社ならではの質問も出た。「過去2000年において大きな地震や噴火はなかったのか」。
これには「直近では300年前の宝永の噴火で降灰があったが、この地区に溶岩が流れてくる可能性は極めて低いとみられている。噴火については地震よりも予報が確立している。常に注意している」とのこと。

場内が和やかな雰囲気になったのは、次のような質問が出たときだった。「現在の株価水準からすると最低購入額が240万円くらい。お値段が半分になるようなことは考えられていないでしょうか。買い増ししたいのですが、財力がちょっと」。
稲葉社長もにこやかに「株式の分割ということは将来はあるかもしれませんが。いずれにしても今後は皆様の意見を伺いながら対応を考えていきたい」と答えた。

この他にも、ファナックの事業の市場規模やシェアはどうなっているのか、来期はどの程度を見込んでいるのか、米国市場はどのような位置づけか、といった質問が出た。
これらには「来期はどうなるかはインサイダー情報にかかわる事項。この場では控えさせて頂きたい」「産業用ロボットにおける自動車、航空宇宙産業向けはアメリカが最大のマーケット。ファナックアメリカはロボットのマーケットのシェア60%を占めている」など、稲葉社長が丁寧に答えていく。

結局、総会はスケジュール表にあった40分では終わらず、1時間10分あまりかかった。株主還元策については質問や会社側からの説明がなかったのは残念だった。しかし、総じて言うと「情報開示に非積極的」という外部評価とは異なる印象を受けた。

今年5月の4年ぶりとなる決算説明会(アナリストやメディア対象)で、稲葉社長は「はっきり申し上げて、みなさんとお話をしていても業績は上がらない。このとおり、おしゃべりですから(説明会にも)時間を取りたいが、私の責任は業績を上げることにある」と語っている。
確かに総会での稲葉社長はおしゃべりだった。

黄色の帽子を被り、いざ工場見学へ

総会の後、工場見学を希望する人はそのまま部屋に残って、会社案内のビデオを鑑賞。その後、バスに移り工場見学へと向かう。工場見学でつきものなのは会社名が入った帽子だが、当然、その色はファナックイエローだ。

工場見学用の帽子もファナックイエロー

工場見学用の帽子もファナックイエロー

見学できるのは部外者に見せても差し障りがない部分とは言え、軟体動物のようにぬるぬる動くロボットを間近で見るとやはり迫力がある。

工作機械の中に入るモーターを作るのは自社製ロボットだ。見学時間は昼休みにかかったがロボットに休憩時間は必要ない。逆に不景気などで需要が落ちた際は、ロボットを止めることが容易にできる。人間の労働者なら働かせるにせよ、休ませるにせよ、ロボットのように会社の都合で自由にできない。

一方、感心したのが「顧客の機械が稼働している限りは部品を供給し続ける」という「生涯保守」の理念。修理に持ち込まれるものの4%は30年前の製品だそうだ。これらで用いている部品は、外部調達品(他社製造品)ですでに生産が終了しているものも少なくない。そのため、部品などは自社で保管しておき、修理に対応しているという。

解説してくれた社員の方は、「故障する製品が最近少なくなったので仕事に困っている」と苦笑していたが、このようなサービスが同社の強さを支えているのだろう。

ちなみに社員の方が主に着ているのは黄色の作業着(上着のみ)。だが、ジャケットタイプの上下を着こなしている方もいた。当然、色はファナックイエロー。黄色のジャケット上下を着用しているのは、「ゲッツ!」のダンディ坂野か、マギー司郎か、ファナックの役員・社員くらいしかいない(はず)。

気になるお土産の中身は……

見学が終わった後はお昼の軽食。包み紙も当然、「FANUC」の文字とファナックイエロー。中身はサンドイッチだった。フルーツがチェリーでなく、さくらんぼだった点は個人的にはポイントが高い!

包装紙もファナックイエロー

包装紙もファナックイエロー

この食事をもってスケジュールはすべて終了。最後にお土産をもらい帰途についた。最近は「お土産なし」の総会が増えているようだが、さすが株主還元強化を打ち出しただけある。
もちろんお土産の包装紙も黄色を交えた色調に「FANUC」の文字が。

お土産の包装紙も黄色

お土産の包装紙も黄色です

気になる中身はなんと・・・どら焼きでした。

ファナックのロゴが焼き印で入っていて5個入り。ロボットを作っているだけにまさかのドラえもんリスペクト?
こんなお茶目な部分もあるなら、投資家にもそのような一面を見せてもいいのでは。こう書いていてはたと気づいた。ファナックはツンデレ企業ではないのか。

これまで市場関係者にはツンツンし(敵対的な態度をとっていた)、顧客にのみデレデレしていた(好意的な態度をとっていた)。それが市場関係者にも少しずつ「デレ」の部分を見せ始めるようになった。
自社株買いを求めてきた米投資ファンドのサード・ポイントには多分、こう言ったに違いない。「別にあんただけのために配当性向を上げたわけじゃないんだからね!」

中身はどら焼き

中身はどら焼きです

・2016年の株主総会探訪記もお読みください!

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