過剰投機で浮動株が少なくなった日経225
裁定取引で品薄化
前の勤務先が裁定取引の大手業者だったこともあり、先物インデックス関連の売買は1989年以来綿密にフォローし続けている。裁定残高の増減により株価指数が上下に過大に振れ、その反動も激しいことから、裁定取引の動きを追えばある程度予測にも役立つだろうと考えた。
その後、あまりに品薄銘柄による歪みがひどくなったのでこれを批判するレポートを書き始めてから、もう4半世紀が過ぎてしまった。
歪みを是正するために91年から年6銘柄を上限に銘柄入れ替えることになり、徐々に歪みは軽減されたが、ITバブル頂点の2000年4月、こともあろうに指数の著作権を持つ日経新聞が、関連銘柄の最高値の時期に一挙に30銘柄の入れ替えを発表、インデックスの性質が一変してしまった。
さらに、その際に株式分割や銘柄併合に対するルールも大幅変更され、本家のNYダウにおいては株式分割により全体への比重も下がるのに、「みなし額面制度」という奇妙なルールを導入して株価寄与度が落ちにくい制度になった。
関係者からの伝聞などから推定すると2000年の入れ替えルール変更の際には日経と大証、大手証券首脳の間で密約が取り交わされていたらしい。比較的事情に詳しいはずの記者に質問すると、この問題に迂闊に答えると首が危ないと遠まわしに拒否されたこともある。入れ替えの際、入れ替えの際に巨大なポジションを取った野村證券が1500億円程度の利益を上げたという噂も流れていた。
最近裁定買い残高が急減していることを歓迎し、株価の上昇余地が拡大したとする日経の記事やアナリストコメントをよく見るが、根本的に間違っている。
裁定残高は、東証が公表しているのは会員証券会社の分に限られ、会員外の参加者の分は漏れている。特に外資系証券などが時間外取引で裁定ポジションをそっくり転売または購入することは日常的に行われており(通常は日本の出先と親会社その他の節税が出来る国の子会社間の移動)、公表数値よりはるかに大きいと推測される。
昨日の日経の記事では、シカゴの225先物の投機筋建玉残高で1.5万枚買い長だったのがほぼ売り買い均衡したと書いている。金曜のSQでは裁定が4千万株買い越したのに裁定残高が7千万株も減っている。1.1億株のズレを説明するには、大証における東証会員業者名義のポジションを、シカゴに振り替えただけというのがもっともありそうな話だ。つまり裁定残は減っているどころか、なおも増え続けているのだ。
それにより日経225インデックスの、時価総額ベースとインデックスベースの株価指標に大きな格差が生じているのはいつも報告している通り。本日は時価総額ベースPERは16.17倍、PBRは1.42倍だが、インデックスベースでは20.09倍、1.85倍と24%も割高になっている。
ユニクロ浮動株は概算で発行株数のたった3%!?
市場を代表するインデックスであれば、可能な限り人為的操作が入る余地を潰すべきだが、上述のような密約があるらしく、指数の管理者である日経から一向に改善の動きが出てこないことは残念かつ嘆かわしい。
3月期末の有価証券報告書が公表されたので、品薄225銘柄の浮動株がどのような状態か調べてみた。総発行株数から自己株、金融商品取引業者保有株(いわゆる証券会社のこと、大半が裁定買い残)、大株主上位にある経営者一族保有株、会社四季報に掲載されている投信持株、外国人持株を差し引いて、擬似的な浮動株がどれぐらいあるか計算した。
本来なら外国人は最も活発な投資主体であるので、流動株に含めるべきところだが、割高にも拘らず保有を続けているのは何らかの魂胆があるとみて、裁定取引と同列に扱った。
まず225銘柄で最も発行株数の少ないミツミ電機だが、総発行8750万株に対し、自己株5万株、業者577万株、投信2214万株、外国人2770万株。残りは3184万株で、36.4%であった。この程度ならば、品薄による割高効果はそれほど大きくなく、同社の場合業績が冴えないせいもあってPBRは0.62倍とむしろ平均を下回っている。
一番裁定による品薄効果が及びにくいと推定されるのは発行株数の大きな銀行株だろう。
三菱UFJを例にとると、総発行141億6885万株に対し、自己株1億4887万株、業者3億4367万株、投信6億3760万株、外国人56億5401万株。残りは73億8470万株で、52.1%であった。旧財閥系特有の持ち合いや取引先保有などは10%強と推定されるが、正常な価格形成に支障があるとは思えない。
逆に一番品薄効果が顕著と推定されるのは一族保有の多いファーストリテイリングである。8月決算のため、直近データは2月末のものしかないが、総発行1億607万株に対し、自己株414万株、一族保有4622万株、業者580万株、投信2200万株(ミツミ並みと想定)、外国人2493万株。残りはわずか298万株で、総発行株数のわずか2.8%であった。
外国人を全部固定株と見るのは乱暴なのは承知だが、3%にも満たないのは驚きである。ここまでくると正常な株価形成を期待するのは困難で、指数採用不適当だろう。
話題になりやすいファナックの場合、総発行2億3951万株に対し、自己株4386万株、業者748万株、投信2500万株、外国人1億2657万株。残りは3660万株で、15.3%である。なお同社は投信持株について開示していないため、発行株数2億株台の225採用銘柄の平均的数値を仮定して入れたが、実際はもう500万株程度多いだろう。ユニクロに次いで品薄効果で値上がりしていると考えられる。
2億株以下の企業の場合、225であるか否かで業者と投信保有分が1500万株も変化している事実は無視できまい。225にも浮動株状況を採用条件に加える必要があることは断言できる。
木村 喜由の『マーケット通信』
Vol1314(2015年7月16日)
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