有吉佐和子「恍惚の人」と私の日経平均4万円説をウラ付ける175兆円の金融資産(第1114回)
「老いなき世界」を読んだ。ハーバード大教授のデビッド・A・シンクレア氏の世界的ベストセラーだ。
『老化は治療できる病である』というなんとも心強い文章である。一読をお勧めする。
「レスベラトロール」という抗老化薬の存在も。早く開発を進めてほしい。
現在我が国では健康寿命、つまり日常生活に制限のない期間は、令和元年で男性69.4歳、女性が72.65歳。平均寿命は男性78.07歳、女性が64.93歳だから、男性は8.67年、女性は12.26年も、介護されるか、病院のお世話になる計算だ。
介護費、医療費がかかる。私が若い人たちに早めにイデコを使って準備をしなさいよ、と云っている理由である。
有吉佐和子さんがこの名作を書いたのは1972年。今から50年前に老人問題をとり上げた先見性を私は心から感動している。
ただ有吉さんは、「老人性痴呆」での騒ぎを画いている。
いま皆が問題にしている「認知症」はまだ言葉としても人に知られていなかった。時代の差はいたしかあるまい。
図にある通り、厚生労働省の調査では、私のような80歳台後半の老人は、男性35.0%、女性43.9%。90歳台前半は男性49.0%、女性65.1%の確率で認知症になる。
男女合わせて2040年には4000万人に、65歳以上の老齢者人口は達する。(三井住友信託銀行調査月報2022年5月号主任調査役 青木美香さんの資料による)
この論文は、認知症高齢者の保有資産を推計している。
金融資産が175兆円、不動産80兆円で合計255兆円。日本の家計が保有する資産総額の8%強にあたる。
2040年には349兆円、家計資産総額の12%という大変な数字だ。
この資産は「凍結」される可能性がある、と論文の筆者がいうが、私はそうは思わない。
マネーフロー分析でいうと、所有者が子孫であれ地方自治体であれ、必ず表面化した資産(特に金融資産)は経済に寄与する。
時に83兆円といわれるタンス預金は、インフレが長引くと初めは海外旅行、次が不動産、最後は株式投資になる。
私が方々で笑われながら、日経平均4万円説を止めないのは、次の理由による。
円安は、少なくとも米国の中間選挙が終わるまでは止まらない。もっと永いだろう。悪い円安が言われるが、現在の物価高を分析すると資源高が4分の3、円安は4分の1の寄与に過ぎない。
6月からインバウンド観光が始まるし、要するに円安で儲かっている人が少ないから悪口が言われるので、観光ブームが始まれば、みんな悪口は言わなくなる。
ただ、2%をこえる物価高が続けば、マトモな人ならタンス預金はしない。
次いでに株式の話。NYがどうであろうと日本株は3月9日の2万4千円台が大底。長期反騰の過程にある。
「恍惚の人」は森繁久彌と高峰秀子で映画化されたが、私は観ていない。本の付録の作者評論家の対談で、「頼山陽の「日本外史」を読んで、三好長慶が松永大膳に滅ぼされるくだりに『三好長慶老いて病み恍惚として人を識らず』で題を決めた。6年かかって準備した」とあった。
実は私は小説家になる気があったし、当時の超著名作家から自宅に呼ばれて誘いを受けたが、この本を読んでことわった。当時日本ではアナリストの地位まだ低くかつた。しかし私は頻繁に渡米し、米国での高い地位を知っていたので、この商売に一生を捧げる決意をした。
以来、ドジリながら私なりに全力をつくして頑張っている。
実は数え年で88歳の米寿だが、ほぼ毎日近くの温水プールに行って「恍惚化」しないように努力している。
先日岡山の私のファンの方からメールを頂いて、私が自分の体の先行きについて弱音を申し上げたと心配された。有難いことだ。こうした方々のおかげで私は生きている。まあジイさんのタワごととお考えになって、気楽に毎週お読みください。
最後のチャートは「LIFE SPAN」から引用した。健康寿命がグラフの一番上にあることに私は希望をかけている。
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